トランプ大統領は次から次へと市場に材料を投下し続ける。だが市場はそろそろトランプ大統領を見捨て始めたかもしれない(写真:ロイター)

米国のドナルド・トランプ大統領の政策や言動は、称賛に値する。世界の市場や世論を混迷させる材料をこれほどまでに投下し続けながら、まったく材料が尽きない。さらに続けざまに投下している。この能力は、開いた口がふさがらないほどの素晴らしさだ。

米国で湧き上がるトランプ大統領への批判

最近のニュースの見出しが、もし「大統領 利上げに不満」となっていたら、読者はおそらくトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領のことだと思っただろう。エルドアン氏は「中央銀行に独立性などない」、というそぶりで、国内景気を持ち上げ自分の支持率を高めるために、中央銀行は利下げでもして自分を支えろ、といったような主張を繰り返してきたからだ。

実際の見出しは「米大統領」あるいは「トランプ大統領」となっているため、そうした誤解は生じなかったが、トランプ大統領の金融政策への「口先介入」をもって、米国の政治がトルコ並みになった、という主張をする人がいれば、トルコに失礼だろう。

トランプ大統領の迷走ぶりという点では、市場への影響は薄かったが、ウラジミール・プーチン大統領との米ロ首脳会談を巡ってのどたばたが挙げられる。首脳会談時はロシアによる大統領選挙への介入はなかったという主旨の発言を行なったが、米国内での非難が轟轟だったため、翌日には「notを一つ入れるのを忘れただけだ」という、誰も思いつかない独創的な言い訳を繰り出して、正反対の方向に修正した。

米国内で懸念が広がっているのは、この「前言撤回」だけではない。米ロ首脳会談全般について、どうもロシアに操られているだけではないか、という印象がぬぐえないからだ。

米国内の外交の専門家などからは、こうした大統領の対ロ姿勢について、非難が寄せられている。たとえばリチャード・ハース米外交問題評議会(the Council on Foreign Relations)議長は、7月16日付のツイッターで、トランプ氏がやっていることはNATO(北大西洋条約機構)や米英・米欧関係を損なうものであり、「アメリカファースト」はまるで「ロシアファースト」のようになった、と語っている。

また、7月19日付のニューヨークタイムズ紙では、ウイル・ハード下院議員による記事が話題となっている。ハード議員は、以前CIA(米中央情報局)で勤務しており、その際にロシアの情報機関が多くの人を操るのを見てきたが、まさか米国の大統領が操られる一人になるとは考えもしなかった、と皮肉っている。

国内外から高まる反発・不満は無視?

トランプ大統領への非難はこうした対ロ姿勢だけではない。このところヒートアップする一方の、関税引き上げの方針についても、米国企業ですら反対の声を上げている。

7月19日から20日にかけては、米商務省で、自動車・自動車部品に対する関税引き上げに関しての公聴会が開かれたが、GMなどの米国企業からも、自動車完成品の関税引き上げに異議が唱えられている。これは、米国企業が米国で販売する自動車のなかでも、他国で生産している分があるからだ。つまりトランプ政権の通商政策は、米国企業を含む多くの企業の、生産チェーンのグローバル化といった実態を、理解していないようにみえるわけだ。

また、米政府による関税の引き上げは、欧州や中国からの報復関税を引き起こしており、こうした報復で地元の産業が打撃を受けそうな州知事や州選出議員からの反発も広がっているようだ。

もちろん、トランプ大統領は全く聞く耳を持たないだろうが、諸外国からの不満も強まっている。極めてエレガントなトランプ批判としては、英国のエリザベス女王の装いが指摘されている。トランプ大統領は先々週に訪欧し、女王とも会っている。その際女王が身に着けていたブローチのうち、一つはミシェル・オバマ氏から贈られたものであり、もう一つは葬儀用のブローチ(女王の母がその夫の葬儀に着用したもの)であったとのことだ。

このように、トランプ大統領は、諸外国はもちろんのこと、国内の産業界や身内の共和党の政治家、その他の政策関連の専門家たちからも、徐々に見捨てられている。ただし根深いのは、トランプ大統領は確かに選挙によって選ばれた(大統領選挙本番だけではなく、その前の予備選も含めて)のであり、今でもある程度の支持層が存在する、という点だ。

さまざまなトランプ大統領の右往左往が続いても、「俺たちが選んだドナルドはすごいぜ、うぇ〜い!!」という層がそれなりの数だけ米国内に存在している限りは、仮にトランプ大統領が去ったとしても、「トランプのようなもの」が残り続けるリスクはある。

そうしたトランプ支持は、たとえば保護主義的な政策などが米国経済を傷めると「確実に予想されても」、変化しないだろう。実際に、関税引き上げなどにより、物価が押し上がる、あるいは企業収益が傷んで雇用が悪化するなどして、自分の生活が苦しくなることが「現実に引き起こされた後」、もしかすると「トランプ政権は実はまずい政権なのではないか」と気づくのだろう。ただ、そうなるのは、今すぐではなくおそらくもう少し先だと考える。

市場は良い意味でトランプ政権を見捨て始めた

幸いなことに、市場は先んじて、良い意味でトランプ政権を見捨て始めたようだ。このところ、前述のような米連銀への干渉ともとれる発言を大統領が行なっても、2000億ドルの対中輸入分に対する関税引き上げの具体的な品目を米政権が公表しても、さらには対中輸入のすべてを関税引き上げの対象にするとの可能性が示唆されても、米国をはじめとする世界の株価や米ドル相場の波乱は限定的だ。

実際のところ、米政権が何をしようと、米連銀は景気や物価、金融市場などを淡々と見つめ、必要であれば利上げを行なう、という路線は全く変えないだろう。米企業も、関税がどうなろうと、利益を上げて生き残っていかなければならない。

したがって市場は、徐々に米国の政策に対する関心を薄れさせ、「そもそも内外の景気や企業収益はどうなのだ」という点に目を徐々に向けそうだ。

そうした点で考えれば、まだ米国のマクロ経済は強く、企業収益も堅調だ。現在、4〜6月期の四半期決算が公表されてきているが、アナリストの平均では、税引後利益は前年比で2割増程度が予想されている。この中には法人減税の効果が含まれているが、それを除いても、5〜10%の実質増益であるとみられる。これは、このところの増益ペースに沿うもので、企業収益は加速こそしていないものの堅調に伸びている、と言える。

また、2月上旬頃に顕著になっていた米国株価の買われ過ぎも、その後の株価調整を経て、予想PER(株価収益率)などでみて割高感は解消されている。

一方、日本についても、今週から、徐々に4〜6月期の決算発表が本格化する。足元では経常利益ベースでの増益基調が見込まれている。3月本決算企業の場合、第1四半期の決算発表時で収益実績がかなり好調でも、自社の通期の収益見通しを据え置くことが多い。それでも、投資家は日本企業の収益の堅調さを、前向きに評価する方向へ向かいそうだ。

日本株のバリュエーション(価値評価)も割安だ。12カ月先までの予想利益を用いると、東証1部の予想PERは、第2次安倍政権発足後は概ね13〜16倍で推移してきたが、7月第1週(2日〜6日)の平均値は12.9倍と、13倍を割れていた。その後の株価の戻りで予想PERはやや上昇したものの、7月第3週(17〜20日)では13.3倍と、まだ割安さが強く残ると言える。

今週は先週末の米ドル円相場が1ドル=111円台半ばに下押ししており、輸出株を買いづらい空気が週初は強いかもしれない。加えて、先週まで日経平均が2万2900円前後に達すると、「何となくこれ以上株価が上がらないのではないか」といった、根拠の薄い高値警戒感から、利食い売りが嵩んでいた。そのため、2万3000円を超えるには、まだ少しエネルギーと時間が必要かもしれない。

それでも、実態面での日本株の投資環境の良さに着目した、中期上昇相場の流れの中にあると考える。そのなかで、今週の日経平均株価は、2万2400〜2万3000円を予想する。