茨城県鉾田市のイチゴ農園では、インドネシアからの技能実習生6人が貴重な戦力だ(記者撮影)

例年より早い梅雨明けとなった6月末、茨城県鉾田(ほこた)市のイチゴ農園を訪ねた。室温が40度近いビニールハウス内で、インドネシア・バリ島出身の男性6人が働く。5月に収穫が終わり不要になった畑のうねを覆うマルチシートを片付ける。

作業をリードするのは来日3年目の外国人技能実習生、グデ・アンドリプトラナさん(24)。「暑さには慣れているし、作業はきつくない」と余裕の表情だ。夏場も秋からの出荷に向け、畑に堆肥をまいて耕す土作りや苗作りの作業が忙しい。

鉾田市は市区町村別の農業生産高が全国2位。特産のメロンやイチゴが有名だが、水菜やサツマイモ、ゴボウは産出額が日本一で、首都圏の台所を支えている。

茨城県では約5000人の実習生が農業で働くが、そのうちの4割、約2000人を鉾田市が占める。依然として中国人が最も多いが、最近ではベトナム人やインドネシア人も増えている。

小さくない農家の負担

途上国への「技術移転」を目的に1993年に始まった外国人技能実習制度。今では約26万人の実習生が人手不足の77職種に「労働力」を供給している。実習生を含む外国人労働者は2017年に過去最多の約128万人に拡大した。


グデさんらが働く村田農園は1999年から実習生を受け入れている。「最初は安い労働力という意識があったのも事実」と農園代表の村田和寿さんは振り返る。ただ、実習生受け入れが売り上げ拡大に寄与する中、意識は変わっていったという。「今では実習生は貴重な戦力。彼らがいなければ経営は成り立たない」と話す。

実習生受け入れにかかるコストは決して安くない。給料などに1人当たり年間200万円程度かかるほか、往復の渡航費も農家の負担だ。実習生の宿舎兼事務所の整備に約2600万円も投資した。実習生は、水道光熱費を含む寮費3万円や税金、国民健康保険料などを天引きされて、月に平均で十数万円の手取りを得る。


実習生は来日後最低1カ月間、日本語を学ぶ(記者撮影)

グデさんは母国にいる弟の学費として毎月2万円の仕送りをしながら、実習期間の3年間で200万円を貯めた。取材は帰国直前だったが、「可能なら、もっと長く働いて稼ぎたい」と本音を漏らした。帰国後は200万円を元手に土地を買い、カカオの栽培を始める計画だ。日本で学んだ畑の土作りを生かすという。

ホウレンソウや水菜を栽培する飯島浩さんの農園では、インドネシアからの実習生4人が働く。当初はメロンやイチゴも栽培していたが、「時期によっては実習生のために仕事を作らないといけなかった」(飯島さん)ため、通年で出荷できる葉物野菜に専念したという。

実習生の受け入れが広がるにつれ、飯島さんのように栽培品目を切り替える農家も増えている。特にメロン栽培は手間がかかり、農家の高齢化や人手不足も足かせになっている。鉾田市のメロン農家はこの10年で半減した。

受け入れ体制の厳格化で権利保護を徹底

実習生の受け入れには、農家を監督し、現地の送り出し機関との調整などを行う監理団体がかかわる。鉾田市の監理団体、グリーンビジネス協同組合の塙(はなわ)長一郎・代表理事は「実習生と旅行に行ったり、祭りに参加したりする受け入れ農家も多い」と話す。

とはいえ、一足飛びに関係性ができたわけではない。市内では別の農協系監理団体に属する農家で4年前に残業代の未払い問題が発覚。農協系監理団体は5年間の実習生受け入れ停止処分を受けた。それ以降、この地域では「農家に対しての指導を強め、実習生の権利保護を徹底している」(塙代表理事)。受け入れ体制が厳格化される中で、実習生が仕事や生活をしやすい環境が整ってきた。

政府は2017年11月、技能実習制度の在留期間を最長3年から同5年に延ばしたばかり。さらに6月に閣議決定した「骨太の方針」に、外国人の就労を目的とした新たな在留資格の創設を盛り込んだ。具体的な受け入れ業種の決定はこれからだが、農業を含む重点5分野で、「特定技能」を持つ人材を2025年ごろまでに50万人超受け入れるという。新制度では最長10年在留が可能になるが、「移民政策とは異なる」として家族の同伴は認めない。


構造問題から目を背けるな

農業の実態に詳しい東京大学大学院の安藤光義教授は「新制度ができても、外国人労働者の増加は限定的ではないか」と指摘する。「日本の農家は家族経営が主体。実習生を受け入れている農家でも、外国人労働者をさらに増やすためには、経営者とは別に日本人の管理者が必要となるが、現状では確保が難しい」(同)。問題は結局、待遇の悪さを背景とした日本人の人材不足に行き着く。


当記事は「週刊東洋経済」7月28日号 <7月23日発売>からの転載記事です

「待遇の悪さをいとわない外国人労働者に安易に依存することは、日本の産業界が抱えている問題の先送りにしかならない」と、経済学の視点で外国人労働者問題を研究する慶応義塾大学の中島隆信教授は警鐘を鳴らす。労働集約型の産業は生産性の低さが課題とされるが、それが固定化されることになりかねない。

茨城県の農業従事者は20代の48%が外国人という現実がある(2015年)。外国人労働者を受け入れても、次世代の担い手不足は一向に解消しない。構造問題から目を背けない姿勢が必要になる。