スカイトラックス社から授与された「5つ星」認定証を掲げるJAL赤坂祐二社長とともに記念写真に納まる同社関係者(写真:JAL)

JAL(日本航空)は7月17日、航空関連の格付け機関である英スカイトラックス(Skytrax)社から、世界で最高品質と認められる航空会社にのみ与えられる「5つ星」を獲得した。念願の「5つ星」を得た喜びの声をJALの赤坂祐二社長に授賞式会場で伺うことができた。


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スカイトラックスは1年に一度、航空会社を評価する「ワールド・エアライン・アワード」と、空港をランク付けする「ワールド・エアポート・アワード」からなる2種類の評定を発表している。

航空業界内には、さまざまなランキングや格付けがあるが、スカイトラックスの評定は中でも権威のあるもののひとつとして、航空会社や空港が高評価獲得に向け、サービス水準の向上に努めている。

スカイトラックスの「5つ星」とは?

JAL赤坂社長の「喜びの声」を紹介する前に、まず「5つ星」がどのようなものなのか、ざっと説明しておこう。

スカイトラックスの「5つ星」を持つ航空会社は、現在、全世界でわずか11社しかない。毎年見直しが行われ、サービスなどのレベルが低下すると剥奪されることもある。

日本では、JALの競合に当たるANA(全日空)はすでに2013年に同評定を獲得しており、機内誌などでも積極的にこれをPRしてきた。JALが今年獲得したことで、日本は世界で唯一、2社の「5つ星航空会社」を擁する国となったわけだ。

評定に当たっては、客室乗務員のサービス水準をはじめ、空港での搭乗手続き手際のよさ、ラウンジのレベル、機内食の量や質、機内のエンターテインメントの充実度などを自社の審査員や各国を飛び回る国際派トラベラーなどによりチェックされたデータを基に算出している。

ちなみに、スカイトラックスが評価しているのは5つ星だけでない。世界の300以上の航空会社について、1〜4つ星のランクも付与しているので、会社によっては非常に不名誉な評価を抱えてしまっているところもある。

では、現在「5つ星」にある航空会社全11社を紹介してみよう(英文名のアルファベット順)

スカイトラックス・5つ星の航空会社(2018年7月現在)

全日本空輸(2013年以降、6年連続)
アシアナ航空(2007年以降、12年連続)
キャセイパシフィック航空(2006年以降、13年連続。それ以前に2度獲得あり)
エティハド航空(2016年以降、3年連続)
エバー航空(2016年以降、3年連続)
ガルーダ・インドネシア航空(2014年以降、5年連続)
海南航空(2010年以降、9年連続)
日本航空(2018年に初獲得)
ルフトハンザドイツ航空 (2017年以降、2年連続)
カタール航空(2006年以降、13年連続)
シンガポール航空(2006年以降、13年連続。それ以前に2度獲得あり)

ちなみに今年の総合力で最も優れた航空会社に贈られる「ワールド・エアライン・アワード」にはシンガポール航空が選出された。2位はカタール航空、3位はANAがそれぞれ選ばれている。

以下は赤坂社長に「5つ星」を獲得した感想を直撃した。

「サービスが他社より劣っていたわけではない」

――念願の「5つ星」が獲得できた感想は?

赤坂:今回の「5つ星」獲得により、世界のトップ10として肩を並べることになったのは本当によかった。

過去に「5つ星」を得ている航空会社(昨年までに10社)の顔ぶれを見ると、われわれ(JAL)がそれらの会社と比べ、サービスなどが決して劣っているとは思っていない。ところがこれまでなかなか「5つ星」を得るだけの評価に至らず、とても悔しい思いをしていた。

正直なところ、社員たちが「どうしてわれわれは5つ星を取れないのだ?」と気にかけていたこともまた事実だ。そういう意味で、当社がこうした形で「5つ星航空会社」として認められたことについて、私として非常にほっとしている。


JALは今年のスカイトラックス授賞式で「ベスト・エコノミークラス・エアラインシート」を2年連続3回目で受賞した(ロンドン市内にて筆者撮影)

――「5つ星」を得るため、なにか具体的な施策を行ってきたのか。

赤坂:「5つ星」を得るために、特別なことをやったつもりはない。
客観的に見て、JALのサービスは独特で、欧米の皆さんの評価を受けにくい部分もたくさんあったように思える。

その辺りの「(日本人と外国人が考えるサービスの)違いの存在」についてわれわれは自覚していたし、その中で変えなければならないことは変えてきた。何もかもを外国流にしないで、やはり「(日本流のサービスにも)いいものはいい」ところがあると信じている。

赤坂:スカイトラックスには、しっかりと「日本においてエアラインのサービスはこのような形のものがすばらしいものと考えられている」と説明してきたし、そういったコンセプトでサービスの向上に努めてきたことも話したりもした。こういった経緯もあって、スカイトラックスとのコミュニケーションの時間がやや長めにかかってしまったかなあ、と感じてもいる。

「5つ星」獲得は、日本流サービスが認められたことも要因

JAL自身が発表したニュースリリースによると、「5つ星」を獲得できたその背景として、以下のように説明している。

これまで磨き上げてきた商品、サービスを海外のお客様にも提供できるよう、グローバルな視点から、機内食や機内エンターテインメント、空港・ラウンジサービスなどを改善してきたほか、多様化するお客様のニーズに寄り添った幅広いお客様のニーズに寄り添った幅広い選択肢の提供や、パーソナルかつ高品質なサービスの多様を進めてきたことが評価された

インバウンド客が右肩上がりで増え続ける日本において、国際線における航空会社のサービスはどうあるべきかについて聞いてみた。

――日本を訪れる外国人観光客が増加する中、日系航空会社としてのサービスのあり方は?

赤坂:われわれが「5つ星」獲得を目指すに当たって、「日本人が作ってきた」サービスというものを変えるつもりはまったくなかった。こういった日本流のサービスについて、「海外の人々にきちんとご理解いただきたい、認められたい」という気持ちでこれまで進めてきた。今回の受賞は日本人のサービスのスタイルが世界に認められたという点で、非常に意義があるものと理解している。

外国人の搭乗客が増えていることもまた事実で、日本流のサービスにはない彼らが求めるニーズも併せてとらえなくてはならない。そういったものも融合しながらサービスの形を作っていくべきだ、と考えている。これまで「5つ星」を受けるための努力のプロセスの中で行ってきたことが評価につながったように思える。

「なにもかも外国人のニーズに合わせる」のでもなく、かといって「日本的でドメスティックなサービスを推し進める」時代でもない。日系航空会社に求められるのは、「日本人が持つ伝統的なサービスの提供」と、「外国人の方々に受け入れられるサービスを作り上げるための努力」の両面があると考える。それらをさらにしっかりと作り上げていくことが今後の大きな課題ではないだろうか。

これらの背景を見ると、今回の「5つ星」受賞と、日本へのインバウンド客が急激に伸びたタイミングが重なったことは決して無関係ではない、と考えている。

――東京五輪など大きなイベントを控えた、このタイミングでの「5つ星」獲得の意義とは?

赤坂:今回の「5つ星」獲得は、遅すぎもせず、早すぎもせずとてもいいタイミングだったように感じている。これからいよいよ東京五輪を控えたこの時期に「5つ星が取れた」のは対外的なアピールを進めるうえで大きな力となる。

スカイトラックスの審査員らのスタンダードに合うようにサービスの仕組みを変えていたら、あるいはもっと早く獲得できていたかもしれない。

しかし、われわれとしてできることとできないことがある。それらを長期にわたってスカイトラックスとコミュニケーションを取りながら、また、自分たちのサービスを見てもらいながら、じっくりと進めてきた結果が今回の獲得につながったと考えている。

11社の中でも上位を目指したい

――今後のステップは?

赤坂:「5つ星」が取れたことで、社員に対して「われわれのサービスを作り上げるため、これまで進めてきたことは間違っていなかった」というメッセージを私から示すことができる。それは大きな収穫だ。

今回、われわれは「5つ星」という最高の水準に立てたわけだが、今後は11社の「5つ星航空会社」の中でも、つねに上位にいるような形に進めていきたい。

航空会社というのはBtoCのビジネスで、お客様あっての商売なのでいろいろな総合的な見方において評価をされるべきで、「どこかの評価が著しく悪い」というようなことがあってはならない。世の中にはスカイトラックスだけでなく、別の評価もある。スカイトラックスの「5つ星」が絶対的な評価でもなく、ひとつの見かたでしかない。したがって、いろいろな角度のどこから見てもトップ水準にあることが必要だと考えている。

そういった背景を考えると、スカイトラックスの「5つ星」を取る目的だけに絞って、「サービスの形を変えるのはよくないこと、足りないこと」と言い続けてきた。また今回、「5つ星」が獲得できたことにより「これでわれわれのサービスは十分な水準に達した」などと思ってはならない、と強く感じている。

※ ※ ※

「JALに乗る英国人の反応は、昔といまでは急激に変わりましたね。以前の日本人向けに特化したサービスはイマイチ好かれなかったのに、いまでは『機内に足を踏み入れた途端、日本にもう着いたようだ』って喜んでくれるんです。最近のサービスのほうがむしろベタベタな日本のスタイルじゃないのに。面白いですよね」

授賞式のあと、JALに20年近く勤める英国人のベテランキャビンアテンダントがこう話してくれた。

JALは今回の「5つ星」獲得に際して出した声明文の終わりに、「世界でいちばん選ばれ、愛される航空会社を目指す」と記している。日本流スタイルを軸にしっかり守りつつ、幅広い海外の人々のニーズを受け入れながら、サービスを向上させていくことが今後の課題といえるだろう。