「もはや贈収賄の問題は官僚個人の責任を追及するだけでは改善しない、構造的な問題だと考えるべきだ」と指摘する古賀茂明氏

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「もはや贈収賄の問題は官僚個人の責任を追及するだけでは改善しない、構造的な問題だと考えるべきだ」と指摘する古賀茂明氏

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、文科省次官候補による裏口入学スキャンダルの背景について、考察する!

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文部科学省の前科学技術・学術政策局長、佐野太(ふとし)容疑者が受託収賄罪で逮捕された。2017年5月、同容疑者は「私大研究ブランディング事業」に東京医科大が選ばれるよう申請書の書き方を指南するなど便宜を図った見返りに、同大を受験した息子を不正合格させてもらったのだ。

文科省内で「事務次官に最も近い官僚」と評価されていたと聞く。そんなエースがなぜ、"裏口入学"などという超アナクロな不正に手を染めたのか。

ひとつ指摘できるのは、教育という非営利事業を扱う文科省の特殊性だ。例えば、経産省の官僚が企業関係者と会うのは日常茶飯事。だから、会合の席などで財界側から「この規制を緩和してほしい」などという要望を受けるのは、よくあることだ。

その際、当該の官僚に規制緩和をする権限があり、しかも金品などを授受したら、立派な収賄罪となる。そのため、官僚側も罪を犯さないよう、細心の注意を払う。

一方、文科省は、経産省のように利潤目的の企業関係者から規制緩和の陳情を受けることは少ない。つまり、規制などの個別案件ごとにワイロの受け渡しができる場面が少ないのだ。

ただ、特に大学は日々の運営や補助金の申請、その報告や新たな学部、学科設立の認可申請など、膨大な行政手続きで文科省に「お世話」になっている。その作業をスムーズに進めないと、大学経営が立ちゆかない。

その際に、文科省側で「指導」という便宜を図るのは珍しいことではない。ごくありふれた行為であり、そこに金品授受は伴わない。

こうした個別の「指導」に対して、教育機関の多くは、事務局などの主要ポストに文科省OBを天下りとして受け入れることで「ご恩返し」をしている。OBには給与や退職金が払われるから、広い意味では「贈収賄的」な関係だが、個別の案件ごとの対応がないため、ほとんど罪の意識が生じない。

だからこそ、佐野容疑者も軽い気持ちで"指南"をしてしまったのではないか?

もうひとつ、この「私大研究ブランディング事業」の採択は198大学中40大学の激戦だったのに、なぜか、加計(かけ)学園から2大学(岡山理科大、千葉科学大)も選ばれている。官僚経験者の私から見るといかにも不自然な事態だ。

「2大学は首相案件として無理やり採択された。それに比べると、オレは申請書の書き方を指南しただけ。大したことではない」と、佐野容疑者が考えたとしても不思議ではない。

佐野容疑者が今回の不正に手を染めた昨年5月は、文科省は横行する天下り問題でバッシングを受けていた。そんな時期にやらかしてしまうのだから、もはや贈収賄の問題は官僚個人の責任を追及するだけでは改善しない、構造的な問題だと考えるべきだ。

例えば文科省は教育を扱う省庁だが、実際は学校に運営ルールを守らせることを仕事にしている。だが、その運営ルールは、時代遅れな上に煩雑でわかりにくく、"バラモン教の教義"と揶揄(やゆ)される。

それゆえ大学が円滑な運営のために文科省OBの天下りを必要とし、そこに官僚が便宜を図る余地が生じるのだ。だったら、このルールを抜本的に見直し、できる限り簡素化させれば、天下りと癒着の文化から多少は脱却できるだろう。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中