<トランプがプーチンに取り込まれたとして批判を浴びている米ロ首脳会談の直前、プーチンの敵サーカシビリは、トランプが大きな譲歩をし過ぎる危険を警告していた>

ジョージア(旧グルジア)のミハイル・サーカシビリ元大統領は、アメリカのドナルド・トランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領による米露首脳会談を前にした7月16日、米フォックス・ニュースの論説ページに寄稿、トランプはプーチンを相手に、東欧における親米諸国の生存を脅かすような大幅な譲歩をしかねないと警告していた。

案の定、会談後の16日に開かれた共同記者会見で、トランプはロシアのウクライナ侵攻やクリミア併合についてひと言も触れなかった。西ヨーロッパ諸国が何より恐れたのは、トランプがクリミア併合を追認してしまうことだった。さすがにそれはなかったものの(少なくとも公式には)、他の西側指導者のように非難もしなかった。

ジョージアは、ロシア国境沿いのコーカサス地方にある国で、2008年にプーチンのロシア軍の侵攻を受け、10日間と短期間ではあるが軍事衝突した親欧国(南オセチア紛争)だ。サーカシビリはロシアの侵攻を受けたときの大統領で、プーチンとは今も緊張した関係が続いている。

サーカシビリ自身、何かと問題の多い人物でもある。ジョージアの大統領退任後に、汚職や弾圧などで国際指名手配されたため反露親米のウクライナに亡命。しかし、やがて2017年には国籍を剥奪される。

短期間ながらウクライナのオデッサ州知事も務めたサーカシビリは、ロシアがウクライナ侵攻を図ったのはアメリカが十分強く出なかったからだと考えている。

「ジョージ・W・ブッシュとバラク・オバマの両大統領は任期はじめに、ロシアとの関係修復を試みるという同じ過ちを犯した。ムチを隠してニンジンを見せすぎたのだ。ブッシュもオバマも善意を示そうとしたのだが、プーチンはそれを弱さだと解釈した。プーチンが最もよく理解するのは、絶対的な力という言葉だ」

「欧米側がロシアの脅威を甘く見ていたことと、プーチンが『欧米の脅威』を過大評価していたこととが相まって、我が中央アジアは破滅的な影響を被った。ジョージアもウクライナもプーチンの侵攻を受け、クリミアは併合された」

【参考記事】ウクライナ戦闘激化で試されるトランプ──NATOもEUも捨ててロシアにつくのか?


「時々方針が変わるアメリカ外交と違い、ロシアの外交は明確で一貫している。プーチンは、ウクライナやジョージア、モルドバといったNATO(北大西洋条約機構)入りを熱望する旧ソ連諸国における『凍結された紛争(棚上げの紛争)』を扇動し、利用し続けるだろう。そうすれば、ロシア周辺の独立国家が、西側の軍事同盟に組み込まれることもなくなる。加えてプーチンは、旧ソ連圏における民族主義的で過激で腐敗した政治家を扇動し、社会を分裂させて、周辺国家の弱体化を図っている」とサーカシビリは言う。

ロシアのクリミア併合とその後も続くウクライナ東部への軍事介入をトランプが公に非難しなかったことで、これら旧ソ連の国々は今後ますます破滅的な方向へ追いやられていくかもしれない。

(翻訳:ガリレオ)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

クリスティナ・マザ