大和ハウス工業 代表取締役社長/COO 芳井敬一氏

写真拡大

これからビジネスマンはどう変わるべきか。「プレジデント」(2018年4月30日号)では、特集「いる社員、いらない社員」で、大企業のトップ29人に「人材論」を聞いた。今回は、大和ハウス工業の芳井敬一代表取締役社長/COOのインタビューをお届けしよう――。

■32歳のときに転職して、大和ハウス工業に

創業100周年の2055年に連結売上高10兆円という大きな目標を掲げている大和ハウス工業。18年3月期の売上高は3兆7500万円を見込むと順調に成長を続けており、目標達成の前倒しが現実味を帯びてきた。中途入社から出世の階段を駆け上がった芳井敬一社長に、次世代を担う人材について聞いた。

――芳井社長は、支店長試験のときに「次の世代の人材を育てたい」とアピールして経営陣を驚かせたとか。ミドルマネージャーのころから人材育成を意識していたのですね。

私は32歳のときに転職して、大和ハウス工業に入社しました。入ってわかったのが、この会社には頭が下がるくらいに頑張るスタープレーヤーがいるということ。一方、その次を担う層が育っていなかった。スタープレーヤー頼りだと、その人が抜けた後に組織として成長が止まります。そういう問題意識があって、人を育てたいと言いました。

じつをいうと、もともと小学校の先生になりたくてね。大学は哲学専攻ですが、教職課程で先生になる勉強をしていました。わが社の企業理念の1つに、「事業を通じて人を育てること」がありますが、転職してそれを読んだとき、教育者になりたかったという自分の思いと重なった。その意味では、マネージャーになる前から人材に関心が高かったです。

――御社の強みの1つが営業部隊です。営業で活躍するのは、どのような人材でしょうか。

私たちは「す・か・さ・ず運動」を実践しています。すぐやる、必ずやる、最後までやる、ずっとやる。つまりは諦めない営業です。

もちろんお客様が他社を選ばれたら、それ以上追いかけはしません。ただ、とにかく契約が決まるまではお客様のところに通い続けます。最初は「この土地は放っておく」といったお客様も、通い続けるうちに途中で事情が変わって、建物を造ろうという気になるかもしれません。そうなったとき、「困ったときはいつでもどうぞ」と待っているだけの営業に、いったい誰が電話したいと思いますか。真っ先に顔が思い浮かぶのは、いつも顔を見せてお客様と正対している営業です。だから、諦めない営業が大切なのです。

他の業界も同じでしょう。昼時になると、わが社のビルの1階ロビーには保険会社の営業担当が保険の勧誘にやってきます。ほとんどの方は、何回かトライしてダメだったら顔を見せなくなる。でも、某保険会社の人はずっと通い続けて、「こんな保険が出ました」とチラシを配って歩いた。私は保険に入る必要がなかったけど、「入るときは、この子からや」と思って、実際、のちに2本入りました。

コツコツやる営業は非効率だとバカにする人もいるでしょう。でも、私が入社したころの大和ハウス工業はまだまだ知名度の低かった会社。無から有を生もうと思ったら、効率なんて言ってられません。おかげさまでいまは選択肢に入れていただける会社になりましたが、勘違いしてはいけない。誰でもラッキーパンチを一発は打てるかもしれませんが、努力してない人に2発目はありません。地道にやり続けられる人だけが勝ち、最終的に数字も上回ります。

――粘り強く努力できる人と、できない人。どこで見分けられますか。

採用面接では、正解のない質問をぶつけて、不測の事態に強いかどうかを見ます。いまの若い人は勉強熱心で、面接では耳に心地のいいことを話してくれます。たとえば「学生時代はバイトに明け暮れて、こんなお客様に出会って成長した」とかね。でも、面接マニュアルに模範回答が書いてあるようなやりとりをしても仕方がない。だから「どんな色が好き?」「きみの名前の由来は?」と質問して、反応を見ます。

べつに間違い探しじゃないから、何を言ったっていい。アドリブでその人なりの回答を聞きたい。ただ、目が泳ぐ人はダメです。子どものころ適当なことを言って、母親から「目がウソって言ってる」と見透かされたことはありませんか。人間の本音は目に出ます。目が泳ぐのは、不測の事態から逃げようとしている証拠。逆に真っすぐに見返してくる人は、逃げない人だと感じます。

――芳井社長の仕事人生の中で、自分の成長を実感できたのはどんな時期でしょうか。

私は経営幹部を育成する「大和ハウス塾」の1期生。選ばれたとき、現会長の樋口に、「きみたちを選んだのは過去を評価したから。しかし、将来が保証されたわけではない」と言われました。この言葉が好きでね。人はつねに新しい気持ちで自己成長しなければいけない、と胸に刻みました。

振り返ると、転職したときは新しい気持ちで素直に頑張れたと思います。前職は違う職種なので、仕事のやり方はまったく違います。しかも先輩は年下ばかりです。ただ、前職のキャリアや年齢を引きずっていたら成長はない。新しい職場では基礎から学ぶ必要があるのだから、他の1年生と一緒に朝早く来て掃除からやりました。おかげで先輩からもいろいろ教えてもらえました。

――御社は海外事業に積極的です。グローバルで活躍できるのは、どのような人でしょうか。

住宅営業で結果を出した社員を海外事業部に移すとしましょう。海外事業で一般建築を担当するとなると、いきなりの赴任は難しい。まずは、国内で一般建築の営業を担当させます。肝試しにいろんな会社に行かせますが、たいていの社員はここでバテます。企業のお客様は個人のお客様と違ってなかなか会ってもらえないから、どうしていいのかわからなくなるのです。

ただ、成績を残してきた社員たちだから、もともと嗅覚はいい。じっと待っていれば、遅かれ早かれコツをつかんで結果を出せるようになります。大切なのは、このとき赤いじゅうたんを敷いて、「はい、どうぞ」とお膳立てしないこと。自分で成功体験をつかめば、必ず伸びます。

あとは健康ですね。残念ながら、志と体は別のものです。志を持って海外に行っても、異国の地で体調を崩してしまうことがあります。心身ともに健康であることが、海外で活躍する条件でしょう。

▼QUESTION
1 生年月日、出生地
1958年5月27日、大阪府大阪市
2 出身高校、出身大学学部
大阪府立大和川高校、中央大学文学部
3 好きな言葉
事業を通じて人を育てる
4 最近読んだ本
『勝つための準備』エディー・ジョーンズ、持田昌典
5 尊敬する人
織田信長
6 私の健康法
走ること、舞台鑑賞

----------

芳井敬一(よしい・けいいち)
大和ハウス工業 代表取締役社長/COO
大阪府大阪市出身。中央大学文学部を卒業後、神戸製鋼グループ会社を経て、1990年大和ハウス工業入社。2013年東京本店長、16年取締役専務執行役員。17年11月より現職。

----------

大和ハウス工業 代表取締役社長/COO 芳井 敬一 構成=村上 敬 撮影=榊 智朗)