どの大学の学内セミナーに参加するかなど、「ターゲット校」を定めて採用活動をしている企業は少なくない (写真:tkc-taka / PIXTA)

学生アンケートを読むと、「学歴フィルター」や「ターゲット採用」の評判が悪い。特に学生が怒りを見せるのが、会社説明会の予約だ。本選考で落とされるのは仕方ないとしても、説明会予約であからさまな差別をする企業に対しては、憎しみに似た声をあげている。


だが同時に、こんな疑問が生まれる。「そんなにたくさんの企業がそれほどあからさまに学歴で差別しているのか?」

今回はそれをデータで確認していこうと思う。HR総研では、2018年3月に企業の採用担当者向けに、「2019年新卒採用に関する調査」を行っている。回答企業は上場及び未上場企業の採用担当者145社だが、実名を公表しないことを条件にしているので、より本音の回答が得られている。

企業がターゲット層の学生を採用したいと考えているのは確かだ。2019年卒の新卒採用の課題を複数回答で聞いてみると、最も多いのは、「ターゲット層の応募者を集めたい」で54%だった。「応募者の数を集めたい」(40%)や、「大学との関係を強化したい」(39%)、「内定辞退者を減らしたい」(29%)、「学内企業セミナーの参加大学を増やしたい」(26%)といった課題よりも、頭ひとつ抜けている。

大企業に限れば「半数」がターゲットを設定

しかし、実際に何か特別な施策を実施しているかというと、そうではない。「ターゲット大学を設定し、特別な施策を講じているか」という設問に対して、「している」と回答した企業は39%であり、残りの61%はしていない。これを多いとみるか、少ないとみるか。

ただ、規模によって温度差があり、従業員1001人以上の大企業で「している」と回答した企業は半数を超えているのに対し、中堅・中小で特別な施策を講じている企業は30%台にとどまっている。


規模が大きい企業は、予算や人員があるのでターゲット採用に取り組めるが、中堅・中小では難しい、と言うことなのだろう。

ターゲット校として設定している大学数で最も多いのは「1〜10校」で6割に達する。「11〜20校」も2割程度あるが、それよりも多く設定している企業はきわめて少ない。そもそも絞り込む行為がターゲッティングなので、少ないのは当たり前だろう。

ただし、ここでいう「ターゲット」とは、この大学からしか採用しない「指定校」、という意味ではない。あくまでも「採用重点校」といった意味合いである。たとえば、採用実績校は重視・優遇する傾向にある。また地元にある大学は、定期的に学生を企業に送り込んでくれる可能性があり、関係構築にも熱心になる。

超難関校限定セミナーは企業にもハードルが高い

では、どのような活動で、関係を強化しているのだろうか?

「ターゲット層を採用するために実施・検討している施策」を複数回答で聞いたところ、「キャリアセンター・就職部訪問」が最も多く54%、そして「大学主催の学内セミナー」が45%となっている。キャリアセンターを訪ねて親密な関係を築き、学内セミナーに招いてもらって、学生を集めるのが王道になっている。


キャリアセンター訪問以外で目立つのは、学生と接触する機会を設ける活動だ。「インターンシップの活用」(47%)、「先輩・リクルーターの活用」(38%)、「研究室訪問」(37%)、「内定者の活用」(25%)と続く。意外に少ないのは、就職ナビなどが主催する「ターゲット大学別の合同セミナー」で、22%しかない。就職ナビが主催する大学別セミナーは、旧帝大クラスに限定されていることが多く、超大手企業向けのイベントととらえられているのだろう。

フリーコメントの中に、ターゲット採用に関する企業からの興味深い内容があったので、紹介したい。

「行っているのは(逆求人やリファラル=縁故採用など)ダイレクトソーシングの活用強化(ターゲット層の学生が対象)。上記学生を対象に、3月以前に企業研究会、採用選考を実施。採用実績のある大学の学科ごとの就職担当教授を訪問し推薦求人依頼を実施。ターゲット大学の学内ガイダンス参加(採用実績があっても参加できないケースがある)。OBリクルーターによる学内説明会参加。最終選考合格者へのフォロー活動(配属希望部門との面談など)」(従業員規模301人〜1000人、メーカー)

とても精力的だが、これくらいの取り組みを行わないと満足な結果は得られない、ということかもしれない。

ターゲット採用は学歴採用を意味すると思っている人はかなり多い。「学歴」は「どのような高等教育を受けたか」を意味する用語であり、大学や大学院、専門学校といった最終学歴を指しているが、新卒採用・就職の世界では、学歴は具体的な大学レベルを指している。

そして、学歴採用は、高学歴(難関大学、高偏差値大学)の学生を採用することを意味している。


上のロゴをクリックするとHRプロのサイトへジャンプします​​

しかし、今回の調査によれば、偏差値が高ければ高いほどいい、ということではなさそうだ。どの企業も「優秀学生がほしい」というが、その意味は、入社してくれる可能性があり、ともに働いて成果を上げる人材がほしいということだ。

今回の調査でターゲットとする大学グループを聞いたが、最も多いのは「GMARCH・関関同立クラス」で49%と半数を占める。一方、「旧帝大クラス」や「早慶クラス」は、ともに31%とやや差が開いている状況だ。

もっとも東大、京大、早慶の学生がほしくない、ということではないだろう。難関大学の学生は超大手企業に就職することが多いので、狙っても採用効率が悪いと判断しているのかもしれない。

露骨な差別をする企業はかなり少ない

ターゲット大学を設定している企業は、ターゲット大学の学生と非ターゲット大学の学生を、どのように線引きしているのだろうか? 結論から言うと、それほど露骨な差別を行っているわけではないようだ。


ターゲット大学以外の学生に対する対応についてたずねると、「ターゲット大学より下の大学を選考段階には上げていない」はわずか5%。「ターゲット大学以外は特別ルートのみ対応している(体育会、特定ゼミなど)」の4%を合わせても1割に満たない。機械的にはねる企業はとても少ないのだ。

最も多いのは「すべてを通常の選考ルートに上げている」の64%。次に多いのは「ターゲット大学よりもやや広めに線引きをし、それ以下は選考段階に上げていない」の24%。この2つを合わせると86%で9割に近い。

ターゲット大学を設定していても、明確に門戸を閉ざす企業はかなり少ない。そもそもターゲット大学を設定しているのは4割弱。6割強は設定していない。

それなのに、学生の多くは、大学名でフィルターにかけられていると感じている。この矛盾は長年放置されたままだ。大学フィルターを行っている少数の企業の事例を見て、「企業は大学で選んでいる」と思っているのかもしれない。

おそらく、企業が大学や専攻に関する見解を明示すれば、学生のいらだちはかなり解消すると思うが、開示している企業は皆無。学生のためにせめて採用実績校をわかりやすく公表するくらいはしてもらいたい。