6月のテストマッチで日本代表は強豪相手に2勝1敗。来年のW杯に向けて順調な仕上がりぶりを見せた

写真拡大 (全4枚)


6月のテストマッチで日本代表は強豪相手に2勝1敗。来年のW杯に向けて順調な仕上がりぶりを見せた
ロシアで行なわれたサッカーのW杯は大盛況のうちに幕を閉じたが、来年、日本で行なわれるラグビーW杯はそれ以上の活況を見せるかもしれない。

ラグビーW杯は、サッカーW杯、夏季オリンピックに次ぐ観客動員力を誇る「世界3大スポーツ大会」のひとつとして知られる。実際に、2015年のイングランド大会では約250万人のファンがスタジアムで試合を観戦し、世界中で40億人以上がテレビで視聴した。19年の9月20日から11月2日にわたって日本で行なわれる第9回大会は、アジア初開催の大会としても注目を集めている。

世界の強豪20チームが参加し、日本全国12会場で48試合が開催される予定で、すでにチケットの先行販売が始まっている。日本代表の試合はもちろん、大会3連覇を狙う"オールブラックス"ことニュージーランドや、日本代表前HC(ヘッドコーチ)のエディー・ジョーンズ氏が指揮するイングランドなどの試合、決勝トーナメントのチケットは特に人気が高い。日本だけでなく世界中の熱狂的なラグビーファンから、約200万の応募があったという。

15年のイングランド大会で南アフリカ戦を含む3勝を挙げた"ブレイブブロッサムズ(桜の戦士たち)"ことラグビー日本代表(世界ランキング11位)は、すでにW杯出場権を獲得している。16年秋には、現役時に日本代表としても活躍した、ニュージーランド出身のジェイミー・ジョセフ氏が指揮官に就任して強化を進めている。 

ラグビー日本代表は今年6月のテストマッチで、欧州6ヵ国対抗に参加するヨーロッパの強豪・イタリア(同14位)と2試合、スクラム強国として名高いジョージア(同12位*対戦時)と激突した。共にスクラム、ラインアウトといったFW(フォワード)のセットプレーが強い相手で、FL(フランカー)リーチ マイケル主将は「いい力試しになる」と腕をさすっていた。


イタリアとのテストマッチ第1戦で、約60mの独走トライを決めたWTBの福岡。50m走5秒7のスピードスターは、先発出場が1試合のみに終わった前回W杯の雪辱を誓う

イタリアとの1戦目はリーチ主将を筆頭に、15年W杯組が出色の出来を見せた。司令塔SO(スタンドオフ)田村優が得意のキックでゲームをコントロールすれば、スピードスターのWTB(ウイング)福岡堅樹(けんき)が快足を披露。さらに、現在の代表で唯一の海外組で、昨年のスーパーラグビーの「ベスト15」にも選出されたNO(ナンバー)8のアマナキ・レレィ・マフィが持ち前の突破力を見せるなど、1勝5敗と大きく負け越していた強豪に34-17で快勝した。

イタリアとの第2戦は相手の勢いに後手を踏んで22-25と惜敗したが、最大16点差をつけられながらもPR(プロップ)具智元(グジウォン)、FL/NO8姫野和樹、SH(スクラムハーフ)流大(ながれゆたか)、SO松田力也といった若手が奮起し、一時は1点差に迫る接戦に持ち込んだことは大いに評価できる。

3戦目はFWに強みを持つジョージア戦。日本代表33名のうち30名がサンウルブズ所属の選手で、スーパーラグビーを通して鍛えてきたスクラムと、積極的に前に出る組織ディフェンスが機能。28-0と零封して完勝し、ホームで欧州勢に2勝1敗と勝ち越しに成功した。


身長189cm、体重112kgの恵まれた体格を生かした突破力が持ち味のマフィ。現在、スーパーラグビーに参加するオーストラリアのレベルズで活躍するNO8は、日本代表でも抜群の存在感を放つ

そんな日本代表は、開幕まで450日を切ったW杯で、目標の「ベスト8以上」に進むことができるのか。

予選プールAに入った日本代表の開幕戦は、19年9月20日に行なわれるロシア(同19位)戦。その後はアイルランド(同2位)、ヨーロッパ・オセアニアのプレーオフ勝者(同17位のサモアが濃厚)、スコットランド(同7位)と対戦する。当初、開幕戦はルーマニアと対戦予定だったが、ルーマニアが欧州予選で出場資格のない外国籍選手を起用し、勝ち点が削減されたことでロシアに変更された。

日本代表にとって、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、イングランドといった、優勝経験のあるチームと同じ組に入らなかったことは幸運だった。また、開幕戦で対戦する格下のロシア、プレーオフを勝ち上がってくるだろうサモアに対しては、現在の日本代表の力を鑑みれば勝利することができるだろう。

各予選プール5チーム中、上位2チームが決勝トーナメントに進出できるが、日本代表の前に立ちはだかるのは、欧州王者のアイルランドと、前回大会で敗れたスコットランドだ。どちらかといえばくみしやすいのは優勝候補アイルランドより、ランキングでもやや下のスコットランドになる。予選プール最終戦のスコットランドとの試合が、プールAで2位以内に入れるかの最大の焦点となるだろう。

もちろん、開催国の日本代表にはホームアドバンテージがある。すべてのスタジアムで試合を経験しているのに加え、予選プールは中6日の日程で、東京、静岡、豊田、横浜と、関東と中部のみでの開催となった。さらに、スコットランドは3戦目と4戦目の間が中3日しかない過密日程のため、コンディション的にも日本代表が有利となる。

ジョセフHCが就任してから、チームも実力をつけてきている。日本代表選手の多くがスーパーラグビーのサンウルブズでプレーし、高い強度の試合を経験していることが大きい。現在の日本代表はパスだけでなく、キックをうまく使ったアタックを目指しており、一昨年はウェールズ(同3位)と互角に戦い、昨年はフランス(同8位)と引き分け、今年6月にイタリアを撃破したことは大きな自信になったはずだ。

日本代表は今年11月にニュージーランド(同1位)、イングランド(同4位)の胸を借りる。「まだ道半ば」と指揮官が言うように、この1年でスコットランドを上回る力をつけられるか。日本代表の躍進こそが、W杯の盛り上がり、そして大会成功のカギを握っている。

取材・文・撮影/斉藤健仁