試乗 トヨタ・カムリ欧州仕様 英国人テスターの評価は?
もくじ
どんなクルマ?
ー アベンシスに代わり欧州へ再導入
ー チーフエンジニア「官能性を追求」
どんな感じ?
ー 内装は改善の余地あり 低速域は好印象
ー 優秀なハイブリッドシステム
「買い」か?
ー 官能性はないが、出来は良い
スペック
ー トヨタ・カムリのスペック
どんなクルマ?
アベンシスに代わり欧州へ再導入
これはロサンゼルス空港からのタクシーでよくあるクルマの欧州仕様だ。トヨタ・カムリは世界でもっとも成功した大型サルーンだろう。英国でも2004年まで販売されていたが、欧州市場がディーゼル化へと傾く中で販売が中止されていたのだ。
今は大型サルーン市場の動きは停滞しており、アベンシスが廃止される代わりにカムリが再び投入されることとなった。欧州向けはハイブリッドのみが設定されている。
このハイブリッドシステムに搭載されるのはストレート・インレットポート付きの2.5ℓ4気筒直噴エンジンだ。トヨタによればこのエンジンの熱効率は41%だという。これは電動モーターの90%超と比べたらゴミのような数字だが、ガソリンエンジンとしては良い方だ。
トヨタのハイブリッドシステムはエンジン、スターターモーター、ドライブモーターを搭載し、それらがプラネタリーギアで接続されて前輪を駆動する。スターター・ジェネレーターが回転差を吸収することにより、車速に関係なくモーターとエンジンの回転数を制御できるのだ。
発想自体は非常に単純だが、それを制御するソフトウエアは非常に複雑だ。トヨタのエンジニアがこれをCVTと呼ばれるのを嫌がるのも頷ける。システム全体の出力は218psだ。燃費は公称21.6km/ℓだが、われわれの試乗でのオンボードコンピュータの数値は15km/ℓ前後であった。
チーフエンジニア「官能性を追求」
このシステムの詳細はさておき、カムリがアベンシスの代わりというのは少々無理があるのではなかろうか。米国で年間40万台以上を売り上げるということからもわかるとおり、大柄なのだ。全長4.89mに達し、フォード・モンデオとBMW 5シリーズの中間の大きさだ。1840mmの全幅はモンデオよりわずかに狭いものの、Dセグメントでは最大級だろう。
トヨタのTNGAプラットフォームを採用しており、この最大の特徴は低いエンジン搭載位置と低いダッシュボードにより、重心を下げることができる点だ。高強度鋼をボディ各所に使用しており、Aピラーを細めながらもボディ剛性を高めている。ハイブリッドシステムのバッテリーや燃料タンクは後席の下に搭載している。そしてリアサスペンションはダブルウィッシュボーン式だ。
大型サルーンの運転は得てして退屈なもので、サスペンション構造なんてどうでもいいと思うかもしれない。だが待ってほしい。カムリのチーフエンジニアの勝又正人は、ハンドリング・エンジニアだったのだ。そして彼は欧州で研究開発担当の上級副社長であり、今でもセリカに乗っているのだ。
「われわれはハイブリッドシステムに官能性をもたせたいのです」と彼はいう。ステアリング搭載位置の剛性が「運動性能を実感させることに貢献するのです」とのことだ。欧州仕様は北米向けとあことなるダンパーを装着し、ダンピング、スプリング、アンチロールバー、ステアリングなどのセッティングも異なるのだ。試してみようではないか。
どんな感じ?
内装は改善の余地あり 低速域は好印象
乗り込んでみると、確かに大きく快適だ。カムリと聞いて想像する要素はすべてあるが、予想外のこともあった。
「予想外のこと」は、ドライビングポジションだ。望めば非常に低くすることもできるし、ステアリング位置の調整範囲も広い。
一方「想定内のこと」は、広い後席レッグルームと欧州車にはない高級「感」だ。柔らかい質感の素材は良いが、磨きすぎな硬い材質や古臭いギアセレクター、それに小さなインフォテインメントスクリーンはイマイチだ。
しかし、ハンドリングには感銘を受けた。クルマのエンジニア達はしばしば50mテストについて言及する。これは走り出してすぐの印象のことだ。荷重制御や低速域でのハンドリングと乗り心地がそのクルマへの印象を決定づける。その点カムリはスムーズかつ正確で、やや重いステアリングと優れたレスポンスが印象的であった。
優秀なハイブリッドシステム
どんな場面でも走りは良好だ。重心の低さが実感でき、ロールやピッチが抑制されている。ただし、5m級サルーンだから仕方ないことだが、1670から1735kgもの車重も感じられる。これは許容範囲であり、優秀で快適な移動手段であることに変わりはないが、決してキア・スティンガーなどのような衝撃的な運動性能ではない。
エンジンもモーターもトヨタが主張するほど「エモーショナル」ではない。しかし、優秀なのは事実だ。内燃機関と電動モーターが完璧なほどシームレスに協調している。アクセルを踏み込めば一本調子な音とともに強い加速が得られるが、巡航時にはほぼ無音で黒子に徹している。これ以上に優れたシステムは見当たらないだろう。
これがカムリを完璧なクルーザーたらしめているのだ。
「買い」か?
官能性はないが、出来は良い
ここで考えてみよう。カムリはDセグメントのライバルと比べて、それほどダイナミックではないかもしれない。しかし、優秀で、広く、静かで非常に快適なクルマなのは事実だ。
英国への正式導入は来年春を予定しており、価格は未定だ。Dセグメントのハイブリッド車は2万ポンド後半から3万ポンド前半が相場であり、ここでは3万ポンド(445万円)程度と予想しよう。ここでは星3.5と判定したが、最終スペックが出たらこの0.5の星は上下どちらにも動きうる。あなたが前席と後席どちらに乗るつもりだとしても、だ。