駅のコンコースでよく流れている「ピーン、ポーン」。ある人を安全に誘導するために重要な役割を担っている音です。何のために流されているのでしょうか。

役割は道路の信号機と同じ

 鉄道駅のコンコースでは「ピーン、ポーン」という、少し間延びしたチャイム音が一定の間隔で繰り返し流れていることがあります。人が多くて騒々しいときでも、この音は比較的よく聞こえます。


比較的大きな駅のコンコースでは「ピーン、ポーン」という音が一定の間隔で流されている。写真はイメージ(2017年6月、草町義和撮影)。

 しかし、このチャイムが何のために流れているのか、それを知っている人は少ないかもしれません。

 この音は「盲導鈴」「誘導用電子チャイム」などと呼ばれています。目が見えない人を安全に建物の入口などに誘導するための案内装置で、道路に設置されている音響式信号機と同じ役割を持つ装置といえます。駅だけではありません。空港のターミナルビルや市役所、病院など、不特定多数の人が出入りしている比較的大きな公共施設にも設置されています。

 鉄道駅に盲導鈴を初めて設置したのは、関西の大手私鉄・阪急電鉄(1976年)といわれています。その後、駅の盲導鈴は全国各地に普及。とくに大きな駅のコンコースでは「ピーン、ポーン」の盲導鈴がよく聞かれるようになりました。

 ただ、音声や音響による案内装置は、それぞれの施設の管理者や音響機器メーカーなどが独自に考案したものが広まり、音の種類もさまざま。全国的には統一されていませんでした。場所によって盲導鈴の音が異なると、その音が本当に誘導のための音なのかどうか、分からなくなってしまいます。

 そこで、2000(平成12)年に「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(交通バリアフリー法)が施行されたのを機に、音声と音響による案内の統一を目指すことになりました。2002(平成14)年には「旅客施設における音による移動支援方策ガイドライン」が制定され、盲導鈴などの音声、音響案内の統一を図ることが示されました。

基本は「プラス10dB」

 現在は交通バリアフリー法を発展させた「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー新法)に基づくガイドラインが制定され、これにより盲導鈴などの音を使った案内の方法が定められています。具体的には以下の通りです。


駅に盲導鈴を初めて導入したのは阪急電鉄と言われている(2017年2月、草町義和撮影)。

・駅の改札口:「ピン・ポーン」またはこれに類似した音響
・エスカレーター:「(行き先)(上下方向)エスカレーターです」
・トイレ:「向かって右(または左)が女子トイレです」
・プラットホームの階段:鳥の鳴き声を模した音響
・地下鉄入口:「ピン・ポーン」またはこれに類似した音響

 ガイドラインでは「ピーン、ポーン」ではなく「ピン・ポーン」と表現されていますが、いずれにしても駅の改札口の音響は統一。プラットホームに通じる階段では別の音(鳥の鳴き声)を使って案内することが定められました。

 ちなみに、日本工業規格(JIS)でも誘導用電子チャイムの仕様が決められています。それによると、1フレーズの長さは原則5秒以内で、フレーズ間の無音は原則2秒以下。スピーカーは歩行者の流れにあわせた方向(主要動線)に向け、設置の高さは2.4m〜3mか0.8m以下の範囲とされています。

 なお、音量は「周辺の環境騒音に対して約10dB以上大きいこと」とされています。目が見えない人は常に静かな場所だけを歩くわけではありませんし、誘導用電子チャイムの音が周囲の音でかき消されてしまっては意味がありません。周囲の音よりは必ず大きくするようにして、多少うるさくても聞こえるようにしているのです。

【写真】「ピーン、ポーン」流す装置


駅に設置されている誘導用電子チャイム。視覚障害者向けの装置であることを示すマークが貼られている(2018年7月、草町義和撮影)。