費用対効果計れず、必要データ数「正解ない」
 物材機構はMI研究をけん引してきた。27万3830物質の結晶構造データ、29万8000件の特性データを収録したデータベースを整え、物材機構の連携企業には第一原理計算などの解析ツールを含めて研究環境を提供している。また鍛造や溶接などの製造プロセスと材料組織、材料特性データから、材料の疲労寿命や脆化などの性能を予測する統合システムを開発。製造装置のセンサーデータをMIに活用する仕組みを整えた。

 企業にとってはMIを活用する際に、自社保有データに物材機構のデータを加えて解析範囲を広げられる。最も複雑な製造プロセスのデータも扱う仕組みも用意された。

 旭化成の中尾副社長は「社内技術者の業績評価を変えなければならないかもしれない。オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)からデータ科学的な技能継承。ノウハウなどの構造化できないデータの扱いも解決しなければならない。いずれにせよ生産技術やプロセス技術の強化は必須。チャンスも課題もある」と展望する。

 問題はMI用にデータを集める費用対効果を計れない点だ。材料学者の考える物理現象の複雑さと、情報科学者がデータを読み解く複雑さが対応していない。つまり物理現象に対して学習データがどれだけ必要かわからない状態にある。正攻法は確立しておらず、出村副部門長は「正解がない」と説明する。

 反対に費用対効果が計れた物理現象から事業の採算性を計算できるようになる。解けた問題からビジネスになるため、企業は手の内を明かさない。産業技術総合研究所人工知能研究センターの麻生英樹副研究センター長は「(情報科学者にとって)問題を解くのに必要なデータ量を求められたら研究は終わったも同然」と指摘する。

 MIは学から産への移行期を迎えつつある。研究環境を整えたが確立した正攻法はまだない。一方、民間ではMIの事業化が進んでいる。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年12月13日
※内容・肩書は当時のもの
【用語解説/マテリアルズ・インフォマティクス】
 材料の構造や物性などのデータを基に、ITやビッグデータ、AIなどを活用して物理法則に基づいて新材料の分子構造や組成、特性を求める。研究者の経験に依存した従来の手法に比べて大幅に開発期間を短くできる。