<世界中の注目を浴びる存在だけに国籍も取得できる方向で動いているが、セレブにされてしまうことやPTSDなど不安もいろいろ。同じ悪夢を生き抜いた仲間と一生連絡を取り合うことが大事>

6月23日にタイ北部チェンライのタムルアン洞窟で大雨による増水のために動けなくなった少年サッカーチーム「ワイルド・ボーアズ」(イノシシの意味)のコーチとメンバー13人は、7月10日夜までに全員が救助され、現在は近くの病院で手当てを受けている。少年たちのこれからの将来はどうなるか、また普段の生活に戻るためにどんな支援が必要か、という新たな問題が浮上している。

米コロンビア大学講師のリチャード・アングルは、世界的な脚光を浴びた少年たちが「セレブ」にならないように注意が必要だと言う。少年たちがこの先もずっと「洞窟から救出された少年」として周囲に扱われると、それだけが唯一のアイデンティティーになってしまうからだ。

最初に洞窟で行方不明となり、捜索で見つかり、洞窟から出られないことがわかり、順番に救出され、遂には全員が無事に救出された。その全ての展開を通じて、世界中の人々の心を鷲掴みにした。少年たちの健康状態は良好と伝えられているが、心配なのは過酷な試練を乗り越えた後の精神面の健康だ。

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メディアや政治家に気をつけろ

ノースカロライナ州ウィンストン・セーラムの精神科医ケン・ダナムによると、少年たちはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と鬱病、アルコール依存症という、災害の生存者が最もよく苦しめられる3つの症状が見られないか経過観察を受ける必要があるという。

また少年たちとコーチが生涯を通じて、お互いに連絡を取り合うことも重要だと言う。特殊な悪夢を生き抜いた経験を共有できるのはこの13人だけだからだ。

「極限状態の経験を共有する人物の存在と支援は、少年たちがこれから『通常』の生活を生きるうえでも助けになる」と、ダナムは話している。

2010年に起きたチリの鉱山の落盤事故で、坑道内に69日間閉じ込められた、当時の現場監督ルイス・ウルスアは、タイの少年達がしばらくの間、世間の注目から逃れられることは望ましいことだと話している。ロイターの取材に答えたウルスアは、少年たちがメディアや政治家、それに今回の出来事で金儲けを企む人々からの注目を一身に浴びることは困難な事態だ、と話している。

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しかしウルスアは、心の準備ができた時点で少年たちが体験を語ることをすすめている。「いつの日か、2〜3年のうちに、彼らも体験談を話すことができるようになるだろう。我々もそうだったように、今回の出来事は、生き抜く信念と希望をどう持ち続けるか、という物語だ」

ジェニ・フィンク