中卒引きこもりゲーマーから社長に…今話題のお弁当屋「キッチンDIVE」“中の人”の意外な素顔とは? Twitter運用術も聞いてみたよ【50時間生放送企画記念】

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 今日本で最も有名なお弁当屋――「キッチンDIVE(@divemamuru)」をご存知だろうか?

 その特徴は、まず圧倒的な「価格破壊」にある。24時間営業で常に200円の弁当が置いてある上、なんと1キロの巨大おにぎりや、1キロの巨大弁当を500円そこいらで格安販売している。
 さらには、Twitter上にて数々の弁当無料配布キャンペーンまで打ちまくっており、主に「これで経営は大丈夫なのか」という驚きの声と共に、今や各種テレビやネットメディアで引っ張りだこの存在になっている。

 また、そうした企画を続々と推進するTwitterの“中の人”のエモーショナルな呟きも大変に話題を呼んでおり、今や飲食店としては異例のフォロワー数12000人超えを果たし、「ダイバー」と自称する熱狂的なファンクラスタまで形成し始めている。

いいよ…このツイートが2万回リツイートされたら3日間1000食無料で販売してやんよ…5万回で1週間…10万回リツイートで1ヶ月連続で毎日1000食無料で売ってやんよ…されるわけないのさ…… pic.twitter.com/UTKGMVhvlG

- キッチンDIVE (@divemamuru) May 17, 2018

1000リツイートしたらコロッケ100枚1円で売っちゃうもんね😆😆😆3000リツイート300枚5000リツイート500枚😆😆😆😆😆😆みんなでリツイート😆😆😆😆😆😆😆😆😆😆 pic.twitter.com/jVkJDnVuvD

- キッチンDIVE (@divemamuru) December 14, 2017

 さて、そんなお弁当屋「キッチンDIVE」だが、実はニコニコとの関係が深いのをご存知だろうか。

 実は2018年の「ニコニコ超会議」では出店して圧倒的な人気で完売させ、またその際に行った36時間ただ店内を定点観測するだけの公式生放送も好評を博した。
 「なんだその陳腐な企画は……」と思ったそこのあなた。驚くことなかれ、その来場者数たるやリアルタイムでのべ17万人にも及んでいる。これは、近年のニコニコ生放送では驚異的な数字である。

画像は前回放送のタイムシフトのスクリーンショット。36時間の間、21万件ものコメントが絶えず流れ続けた

 そして、そうしたファンの声に後押しされるかたちで、来たる7/20(金)「キッチンDIVE」の公式生放送が50時間の長尺となって再び催されることが決定したのだ!

 それを記念して今回、“中の人”こと店長の伊藤慶氏にロングインタビューを敢行した。しかも「ニコニコさんは特別ですから……」と例外的に顔出しの許可をもらった上、実に気兼ねのないラフな取材に応じていただいた。
 そこではお店の経営状況にはじまり、「中卒引きこもりゲームマニア」だった氏の半生、そして表現を志す若者に対する熱き想いなど――多岐にわたるディープな話を伺った。

取材、文/まなべ
取材、撮影/飯塚レオ

「とりあえず、デカンタからいきましょうか」

──前回の36時間生放送の反響を受け、今回7/20(金)に50時間バージョンで、再び生中継企画をすることになりました。今日は、その告知を兼ねた記念ロングインタビューとなります。

伊藤店長:
 ありがとうございます。とりあえず、デカンタからいきましょうか。

──えっと、呑むんですか……(笑)。

伊藤店長:
 まあいいじゃないですか。呑みましょ、呑みましょ(笑)。

──では、お言葉に甘えて……。というわけで、まずは早速、50時間生中継にかける意気込みなどをお伺いできればと思います。

伊藤店長:
 うーん、川上さんがうちに挨拶に来るくらいの数字がほしいですね。来場者数、100万人とか。

キッチンDIVE店長・伊藤氏

──もし達成したら、流石に歴史に残りますね(笑)。

伊藤店長:
 じゃあ、もし100万いったらTwitterで「川上さん、菓子折り持って来いやあ!」って言いますね(笑)。
 そこで、某ジ○リの監督のような勢いで持って「今のドワンゴはダメだ」みたいな愛のあるメッセージを伝えたいです。「あなた、途中で放ったらかしにしたでしょ?」 って(笑)。

──ええっと……。

伊藤店長:
 いや、冗談ですよ(笑)。でも、焼肉とかおごってくれたら嬉しいですね。

──ちなみに、前回の放送の反響ってお店的にはどうだったのでしょう? 基本的には、定点カメラを設置する番組ですが。

伊藤店長:
 防犯になって良いなと。あと、スタッフの背筋が伸びました。

──感想が経営者目線ですね。

伊藤店長:
 まあ反響としては、17万人の来場者数もですけど、コメントが21万件きていたのにはびっくりしましたね。思ったよりも、めちゃくちゃアクティブで。
 きっとNHKの「ドキュメント72時間」みたいなのと同じノリで見てくれたのかなと。いずれにせよ今回も、みなさまにはコメントでワイワイと楽しんでいただければと思っています。

──今回、前回と比べてもずいぶん盛りだくさんな50時間になっていますよね。

>>>50時間生放送 詳細はこちら<<<

ぶっちゃけ…経営大丈夫なの?

──さて、番組の告知をしたそばから急に下品な話であれですが……200円の弁当を出したり、無料キャンペーンをかなり積極的にやってる中で、ぶっちゃけ経営は大丈夫なのかなと気になってまして……。

伊藤店長:
 うまくいってるも何も、うちはTwitterを始める前からずっと黒字なんですよ。だって開店のときから全部200円均一で売っていて、それがあまりにも売れすぎちゃったので、他の商品を作る暇がずっとなかったくらいですから。
 ちなみに、低価格のお弁当が一時期流行ったりしましたけど、あれってうちがはしりだったりもするんですよ。

──あ、そうだったんですね。

伊藤店長:
 で、Twitterを始めてからの話でいうと……もうエグいぐらい売上が伸びてます。

 前にツイナビさんで調べたんですが、飲食店サービス業でフォロワーが1万人以上って、150アカウントくらいしかなったんですよ。そこからうちみたいに相互フォローしていない純粋な数だとさらにガクッと減って、たぶん上場企業のチェーンやラーメン二郎さんみたいなお店ぐらいかなと。

 で、うちの店の場合、1000人フォロワーいると毎日5人お客さんが来てくれるんですよ。今は12000人だから60人。ひとり当たり800円の買い物をしてくれるので、60×800円で1日約5万円。つまり、ツイッター効果だけで、年間で約1800万の売り上げになってるんです。

──凄まじい定着率ですね。ちなみに、純利益の方って……?

伊藤店長:
 そんなの、おおっぴらには言えないよ(笑)! まあだいたいTwitter経由の人が全体のx割で、原価がx割くらいなんですが……。

──あ、するとだいたい毎月xxx万円とかですか。

伊藤店長:
 そこ、カットでお願いしますね(汗)。

 まあでも、うちは浅草にもお店があるんですけど、実はそっちの方が利益はでていて。「次のお店出さないで、タワーマンション買うか」とか頭をよぎったりするくらいです。もちろんあくまで冗談ですが(笑)。今のお店の状況は本当にありがたい話で、本当にいつも皆さまに支えていただいてます……。

──実際、今後の店舗展開とかって考えていたりするのでしょうか?

伊藤店長:
 実は、来年あたりに都内の1等地に出店したいと思ってるんですよね。池袋、原宿、歌舞伎町みたいな、誰もが知っているような場所に出せたらいいな、と。
 ……あ、ワインがまた来ましたね! 乾杯しましょ!

ちなみにこの日、店長はデカンタ2杯とビール3杯を空けた。

──そのデカンタ……直接呑むんですか(笑)。

店長の半生1:引きこもり状態でゲーム業界マニア

──さて、今回のロングインタビューでは「どういう経緯で“キッチンDIVE”が誕生したのか」を伺っていければと思っています。というのも、1キロおにぎりやTwitterの企画って、色んなメディアさんが既に注目していて。もちろんそれも追々聞いていきたいのですが、この際、誰も聞いていない店長の半生からじっくり聞いていければなと。

伊藤店長:
 お弁当屋さんの半生なんて聞いて誰が喜ぶのさ(笑)。でもまあ、じゃあ生まれから言うと……。

──そこは生まれからなんですね(笑)。

伊藤店長:
 1982年の葛飾区の柴又で生まれで、ずっと東京育ちですね。柔道のスポーツ推薦で中学に入学して、そこが国際大会で優勝する人がいるような名門学校だったんです。
 でも、中学2年生の時の骨折を機に、部活をドロップアウトして、結構荒れてた時期があって。だから、その後も高校には行ってないんですよ。

──聞いておいてあれですが、思ったより壮絶な人生の滑り出しですね。

伊藤店長:
 失礼だね(笑)!
 ……それで、当時の荒んだ僕の心を救ってくれたのが、深夜のTV番組でたまたま見たゲームクリエイターの飯野賢治さんだったんですよ。

──ああ、あの『Dの食卓』『エネミーゼロ』などを世に送り出した……。パフォーマンス的な発言や数々の逸話から、 “異端児”なんて呼ばれたりもしていた方ですよね。

伊藤店長:
 そうそう。もう反骨精神むき出しで、20代の若者が100万本規模のビックタイトルを作って「セガやソニーに物申す」みたいなことをやっていたわけですよ。彼の人生も、ドロップアウトしたあとに天下を取りにいっていたので、勝手に共感しちゃってて。中学二年生の男児からしたら、もう尾崎豊のような憧れのロックスターでしたね。

 ……まあ大人になった今思うと、あの人のことを悪く言う人もそんないないので、表ではビックマウスなわりに裏で挨拶メールを送ったりしていたんじゃないかとか思うのですが。

──(笑)。ちょうど90年代に、ゲームクリエイターがメディアに露出してきた時代ですかね。

伊藤店長:
 そうそう。飯野さんを始め、岡本吉起さん、小島秀夫さん、飯田和敏さんなど個性が強い人たちが、もう株主の顔なんか伺わないで好き放題言ってて。今、もうクリエイターってあんまり過激な発言できないでしょ。

──すぐ炎上する世の中ですしね。というか「キッチンDIVE」さんが昨今のTwitterアカウントにしては際どい発言や企画が多いのって……。

伊藤店長:
 はい、完全に彼らの影響ですね(笑)。

 でも当時は「何でも言える」空気が本当にあって。昔、伊集院光さんの番組に「ファミ通」の浜村編集長を呼んで、ゲーム業界の裏話をするコーナー【※】があったんですが、そこでは平気で、ドラクエの発売日とか言っちゃってたんですよ。

 「あの人気の作品あるじゃん、堀井さんが作ってる……」「某“アレ”ですね(笑)」「“アレ”の販売日ね、ここだけの話、半年後に伸びるらしいよ」「またですか〜、あそこは何年伸ばすつもりですか〜」みたいな感じで。それ言っちゃって大丈夫なのかというドキドキがあって、すごく面白かった。

※「GameWave」という番組の「浜さん光のすげ〜イイ話」というコーナー。

──そんな話が(笑)。では、結構ゲームもやりこまれてた感じでしょうか?

伊藤店長:
 特に『かまいたちの夜』『風来のシレン』『リアルサウンド』とかは好きでしたね。「三国志」シリーズとか『ザ・コンビニ あの町を独占せよ』などのシュミレーションゲームも延々やってましたが、もうそこらへんからマリオとかメタルギアとかも入ってくるので選べません(笑)。

 ……ただ、ぶっちゃけると、僕はゲームじゃなくてあのときの「ゲーム業界」が好きだったんですよ。

──どういうことでしょう?

伊藤店長:
 やっぱり当時って、ちょうどPlayStation、セガサターン、NINTENDO64で三つ巴の戦争していたときだったんですね。当時はものすごい熱量があって、「スクウェアが100万台増えるらしい」とか「エニックスがPS陣営に行けば牙城が崩れる」みたいな戦況があって……それがリアルな企業間での関ヶ原の戦いのようで面白くて。

画像は右からPlayStation、セガサターン、NINTENDO64。
(画像はすべてパブリック・ドメイン。wikipediaより)

──その渦中でまるで“戦国武将”のように振る舞う豪胆なゲームクリエイターたちがいた、と。まさにシュミレーションゲームみたいなノリで楽しんでいたんですかね。

伊藤店長:
 だから、もう当時はほぼ全てのゲームメディアの情報を抑えていましたよ。「ファミ通」「ゲーム批評」はあたりまえ。取り寄せオンリーの業界誌とかも買ってて、そこにはゲームの販売店向けに「今週は何を仕入れるべきか」みたいなことが書いてあるんです。「メッセサンオー」など人気店の店長さんを呼んで、お金の事情をガンガン聞いたりみたいなものとか、結構熱心に読んでましたね。

──そこらへんは、のちの経営者っぽいですね。中学生で業界誌を読みこんでるなんて、相当なゲーム業界マニアですよね。

伊藤店長:
 今思うと、お金の動きに魅せられてたんですよね。当時は若いクリエイターが活躍していて、一攫千金の夢があったんです。

 今となっては考えられないですが、当時コナミが「遊戯王」のヒットで約7億円とかの予算のボーナスをみんなに配ったという噂話があったくらいですから。コナミの会長がパーティー会場に行って挨拶をすると、社員がまるでジオン軍みたいに直立不動で挨拶をして、敬礼までしていたみたいで。
 で、そこで会長がボーナスとか配るんです。『パワプロ』のプロデューサーに2000万円を現金で渡したとかいう逸話もありましたよ。

直立不動のイメージ
(画像は「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」第3話 予告 第2弾より)

──もし本当だったらバブルすぎますね。それにしても、ゲームよりもお金が重要だったとは……。

伊藤店長:
 いや、ゲームも好きだったんですからね(笑)! 当時は鈴木裕さんの『シェンムー』とかも好きで、街歩きをして缶ジュースを買うだけで楽しいのが、本当に革新的でした。

シェンムー(1999・セガゲームス)
(画像はAmazonより)

 しかも、『シェンムー』って当時のゲームショウでは、本当にゴージャスな存在だったんですよ。というのも、どう考えても数千万円じゃ足りないような巨大なブースを作ってるんです。普通ハリボテでしょってところを全部、ガチで凝った装飾を使ったりしていて……ってこれもお金の話か(笑)。

──(笑)。

伊藤店長:
 実際、当時のゲームショーは本当にバブリーだったんです。「ゲームが儲かる」みたいな雰囲気で、外部のパチンコメーカーとかが異様にお金をかけてブースを作ったりしていましたね。
 でも、僕は業界誌を読み込んでるので、そのゲームがどれくらい売れそうかかがわかってるんですよ。すると、だいたい1万本くらいしか売れない見込みのゲームに、明らかに2000万とかかけてたりして。

──「あ、これ採算合わないな」とかも計算できたわけですね。

店長の半生2:予備校用のお金をアーケードに使い込む

──なんだかゲームの話ばかり聞いちゃいましたが、中学を卒業してからは、他にはどんなふうに過ごしていたのでしょう?

伊藤店長:
 あと当時はラジオにもハマってて、多い日だと一日20時間ぐらいは聞いてました。そのきっかけもゲーム業界で、コナミとかがラジオのスポンサーもやってて、ゲームクリエイターが自分のラジオの番組を持ってたりしたんです。

 当時は國府田マリ子さんの「ツインビーPARADISE」とか、「荒川強啓 デイ・キャッチ!」での宮台真司さん、あと定番ですが伊集院さんと爆笑問題さんの番組なんかが好きで。ひたすらラジオを聞きながら延々とゲームをする……そういう生活が、中学を卒業してから大検とるまでの5年くらい続きました。

──5年……なかなかに長いですね。

伊藤店長:
 だからしばらくそういう生活をした後に、学生という身分があるといいなと思って。それで予備校に通い始めたら、今度はゲーセンにハマっちゃって(笑)。予備校用に親から貰っていた食費代とかをほぼゲーセンに溶かしていきましたね。

──わりとどうしようもない話ですね(笑)。ゲーセンではどんなゲームをやっていたんですか?

伊藤店長:
 『WCCF』の走りのサッカーのカードゲームとか、『バーチャロン』『バーチャストライカー』をやってましたね。
 逆に当時人気だった『バーチャファイター』は「俺の100円が全部大人たちに飲まれてしまうわ」と思ってやらなくて。だって、大人たちがゲームセンターでコミュニティを作って、ビデオカメラを回して修行し合ってるんですよ。

 当時は月に20万つぎ込むなんて普通だった時代だったので、もう「筐体買ちゃえよ!」って感じで。子供目線で「汚い大人たちめ……」と思っていました(笑)。

──常にお金には敏感ですね(笑)。

伊藤店長:
 ただ、よく行っていた四谷の店では良いこともあって。そこのオーナーさんが「お金ねえんだろ? 10ゲーム入れてやんよ」と優しくしてくれたり、焼き肉とかに連れていってもらったりしたんですよ。僕は中学を出てからずっと引きこもりのごとき生活をしていたので、その時、居場所となるコミュニティがあることの大切さを身をもって学びました。

──いい話ですね……。ちなみに、その後大学とかにはいったのでしょうか?

伊藤店長:
 一応大学に入学はしたんですが……いわゆる大学デビューを壮大に果たしてしまって(笑)。それまでの生活とはうって変わって、渋谷でフラフラと遊びまくってましたね。大学は全く通わず、完全に現実をフィーバーしまくってました。

 そして、ゲームも深夜ラジオも聞かなくなった代わりに、その後の2ちゃんねるに繋がる「セガBBS」などを始めとする半匿名型の掲示板で、朝から晩までチャットに呆けてて(笑)。今思うと、あのコミュニケーションの日々が今のTwitter活動に繋がっている気がします。

──ゲームマニアを捨て、大学デビューでリア充化ですか……(爆)。

店長の半生3:おばあちゃんの骨折、そして独立へ…

伊藤店長:
 でも、そんなリア充生活もすぐに終わることになるんですよ。
 というのも、おばあちゃんが骨折しちゃって、お弁当屋さんだったうちの両親が介護で仕事ができなくなっちゃったんですよね。それをきっかけに、僕が大学を中退して、本格的にお店を手伝うことになったんです。

 だから、独立に際しても、両親が長年やってきたノウハウや人間関係の蓄積が元からあったんです。西原理恵子さんとか、紅白歌手の三山ひろしさんを始め、本当に色んな方が応援してくださっていて。
 ただ、そういう人間関係を父が残してくれたんですけど、その父親の知り合いのコンサルタントのすすめで僕の店舗として東あずまにお店を出したら……これが見事に大コケで(笑)。

──ひどいですね(笑)。

伊藤店長:
 「こりゃだめだ」と思って、僕が決めた亀戸に移転したのが8年前、今の「キッチンDIVE」の始まりでした。

 ここってもともと某銀行のATMが入る予定だったのが、半年かけておじゃんになって。そのタイミングで僕がお店に行き、その場で業者さん2件呼び、オーナーさんに「家賃10万引いてくれるなら明日契約しますよ」と取引をしたんですよ。保証金の500万も、どんと出して。

──おおお、男気ありますね。

伊藤店長:
 そしたらオーナーさんも熱意を感じてくれたみたいで。僕はその時27歳とかだったので、やっぱりやる気がある若者にダメ元でも貸してやりたいと思ったんでしょうね……本当にありがたい話です。

「1キロ弁当」で仕掛けたTwitter営業

──そこから数年後に、Twitterの活動で爆発的な人気を得ていくわけですね。きっかけはなんだったのでしょう?

伊藤店長:
 オープン当初はお店は順調で、200円弁当だけで1日1000〜1200食は売れてたんです。ただ、近くの大型商業施設が工事期間に入って経営打撃を受けちゃって。

 そうした中で、すぐに客数は増えないから、客単価を取る施策として1キロおにぎりを始めたんですよ。もともと、沖縄にメガ盛りの「キロ弁さん」というお弁当屋さんがあって「売れてるみたいだし、ちょっとパクろう」みたいなノリでした。

──なるほど(笑)。

伊藤店長:
 そこでまず最初にやったのは、大食い関係の人にとにかく「1キロおにぎり食べてください」というリプライを送ったことでした。すると、Dracöさん(@GogglePlay)や、マックス鈴木さん(@FReeMax1027)が食べてくれて、大食い関係の方が数千人単位でうちのフォロワーさんになってくれたんです。

 彼らって年間200〜300店回っているので、どうしても企画不足になりがちらしくて。だからこうした企画を打つお店に対してファンや選手たちって、もちろん批判的な人もいますけど、ほとんどはすごく仲間意識を持って応援してくれるんですよね。

──なるほど……Twitterですごくコアなコミュニティに向けて、企画ごと営業していったのが良かったんだと。

マムルボンボンの影響でTwitter開設へ

──それにしても、このTwitterってどういう経緯で始められたんですか?

伊藤店長:
 「おにぎりと言えば『風来のシレン』でしょ」と思って、マムルボンボン【※】を置いていたら、それがTwitterでバズったんです。それをきっかけに、お店の中の人のアカウントを真剣にやることにしたんですよね。

近所の弁当屋、なんでこんな巨大なおにぎりにこだわるんだろう…と思ったら店内にあるマムルのぬいぐるみで疑問が氷解した pic.twitter.com/0cPjZB4G7Y

- Tsugaru@BDP4th[C-19] (@tsugaru_hobby) July 18, 2017

※マムルボンボン
ゲーム「風来のシレン」シリーズのキャラクター。シリーズでは、標準食料におにぎりが用いられている。

──なるほど……完全にゲーム業界マニアだったおかげで、今の状況が生まれているわけですね。

伊藤店長:
 それに、実際に始めて見るとTwitter運用も「ゲーム」だなと思うことが多くて。

 ある日、「1000RTいったらコロッケ100枚を1円で売るよ」と呟いた時に、本当にぱっと1000RTいってフォロワーさんが100人増えたんですよ。それで、そんなふうにRTキャンペーンを打って、お店のファンが増えて、売り上げにも直結して……という良いサイクルが確立した瞬間があって。

──RTキャンペーンが、フォロワーを増やすゲームの“攻略法”だったわけですね。

伊藤店長:
 そして、そんなふうにフォロワーが増えていくのが、お店のファンが増えて純粋に嬉しいのはもちろんですが、ゲームみたいな感じでまた楽しくて。
 だから、『ドラゴンボール』のスカウターで戦闘力をはかるみたいに、人気店や、大食いのタレントさん、レイヤーさんのフォロワー数なんかを見て密かな目標にしてましたね。それはなんというか、よく言われる承認欲求とはちょっと違う、数字を追いかける楽しさみたいなのがありました。

──いわば“レベル上げ”の楽しさですよね。ちなみに、それまでSNSの類ってやられたんでしょうか?

伊藤店長:
 いや、それが全くの素人で。でも一時期はTwitterに熱中しすぎてて、おかげで2017年の7月に本格始動してから1年で12000人フォロワーまで増えました。ちょうど3000人超えたあたりから、経営に明らかな良い影響が出てきたので、そのこともやる気を後押ししましたね。

炎上に対する嫌われる勇気

──でも、よくあるSNSマーケティングの話とかでいうと、フォロワー3000人って決して多いわけではないですよね。それで売上に影響がでるということは、それだけアクティブなユーザーが多かったのでしょうか?

伊藤店長:
 まさに、熱心なフォロワーさんのみを増やすようにかなり気を遣っています。
 例えば、議論を呼ぶような人の倫理観や価値観に触れるようなツイートを呟くんですけど、そうするとフォロワーさんは20〜30人減るんですね。今はもうしてませんが、昔はうちに対する悪口を引用RTして「営業妨害」だと叩いたりもしてました。

1000リツイート達成記念1円トンカツ祭りをやって思った事。レジを担当してたスタッフに言われたんだけど1円トンカツだけを買っていったお客様が10人近く続いてしんどくなりましたと言われました。激安イベントで激安商品だけ買うのはどうかな〜。おにぎり買うとか募金箱に10円入れてくれるだけで助かる pic.twitter.com/alYkWhP03D

- キッチンDIVE (@divemamuru) December 17, 2017

※過去には、「キャンペーン中に激安商品だけ買うお客さん」に対し、疑問を投げかけるツイートをして炎上したことも。お店の姿勢を理解しているファンと、ツイートでお店を知ったツイッターユーザーの間で意見が割れた。

──なかなか過激なことをしていますね……。

伊藤店長:
 でも、それでフォロワーさんが減るのはしょうがない。それで、ちゃんと本当に「いいね」と思ってくれるお客さんを増やしていくことに価値があるんです。だって、無料キャンペーンを打ちまくれば、表面的なフォロワー数だけでいったらチート的に伸びていくんですよ。でもやっぱりいたずらに数だけ増やしても意味はなくて。

 だから理想のイメージとしては、ラーメン二郎さんのファンに近いですね。あれくらい骨太な12000人の、力強いパワフルなお客さん。そうしたアクティブなユーザーさんに訴えようと思ったら、必然的にネガティブなユーザーさんの反応も絶対に増えるので、そこはしょうがないと割り切ることですよね。

──ただ、今って炎上を始めとするSNSの負の側面が大きくて、過激なことは言いにくくなっているのかなと。そのへんは、実は多くの有名Twitterアカウントの悩みだと思うんですが……。

伊藤店長:
 そこはいかに嫌われる勇気をもって、好きなことを書くかに尽きるんじゃないでしょうか。別に万人に好かれるためにTwitterをやってるわけじゃないですし、僕の場合、個人の発言として最終的な責任をとれますしね。

 ただ、過激な発言に噛み付いて騒ぐのって、文脈をよく分かっていないだけでしかないことが多いですよね。そういうの全部分かってる人からしたら「尖ってるな」で終わるわけで、そこらへんは見せ方が難しいところです。僕の世代の経験で言うと、まさに昔のダウンタウンさんとかって、そういうところを繊細に意識しながらやってきていたと思うんですが。

キッチンDIVEと岩下の新生姜がコラボしたドデカおにぎり

 ……ただまあ最近、例えば岩下食品さんとコラボしたりする中で、そうした仲良くしていただいている相手にまでご迷惑や負担をかけたりはしたくないという気持ちもあって、悩むことも多くなりましたよ(笑)。とはいえ、できるだけ見せ方の工夫で補うことで、自分自身のスタンスは変えないつもりでいます。

「子ども食堂」にかける想い

──そういう意味で最後に聞きたいのが、つい先日、恵まれない子供たちにご飯を無料で食べさせてあげる「子ども食堂」をやる、という旨の呟きをされていましたよね。それが結構エモーショナルな呟きで、ひとかたならぬ想いがあるのかなと思いまして……。

野郎ども!!キッチンDIVEを支えろ!!
15歳以下ツイッターでメールしろ!!!
本当にお腹が減ったらメールしろ!!
代表の俺の権限で1キロ弁当も1キロおにぎりも食わしてやる!!!!
ピンチの時に大人を信じろ!!!! pic.twitter.com/xjjDRfUbpH

- キッチンDIVE (@divemamuru) June 9, 2018

伊藤店長:
 ああ、これは実は酔っ払って、つい気持ちがアツくなって書いちゃったもので……。

──えええ! 酔って思わず、ですか(笑)。

伊藤店長:
 本当にべろべろで、ツイートしたことすら忘れてて。朝起きたらフォロワーさんが100人ぐらい増えて、通知見たら1000RTされて「キッチンDIVE頑張ってる」「応援する」とかいう声が山のように届いていました。
 あの時はひっさびさに焦りましたね……やっぱり酒呑んでTwitterはダメですわ(笑)。

──今も結構酔っ払らわれてますが(笑)。

伊藤店長:
 ただこの企画って、言ってなかっただけで、実はずっと思っていたことなんです。やっぱり僕自身、予備校時代にゲーセンのコミュニティに心を支えてもらったりしたので、その恩返しはずっとしたくて。

 すると、うちを支えてくれているお客さんの中には、YouTuberの人だったり、地下アイドルの子だったり、表現活動をしている若い子たちがたくさんいるわけですよ。そしてそういう子には、なかなか恵まれない状況で、不遇な思いをしている子たちもいる。
 そんなふうに、これから頑張って売れようと必死になっている子たちを見ていると、ちょっと思うところがあって。その一環として「子ども食堂」を年内にはなにかしら実現させたいと思っています。

 ちなみに僕は、ニコニコ動画だって、そういう子たちの居場所になってると思うんですよ?

──「キッチンDIVE」さんは今年の超会議にも出店されていましたね。

伊藤店長:
 あれは、もともとは姪っ子の高校受験が大変そうだったので、それを応援したいと思って営業をかけたんですよね。彼女はニコニコ動画が好きで、特にコンパスが好きみたいでして。
 やっぱり僕にとってのゲームショウがそうだったように、15、6歳のときの思い出ってすごい大切で、あの子の一生の思い出を作ってあげられたらいいなと思ったんです。

 で、やっぱりニコニコ超会議に出店することによって、ゲームやアニメ、サブカルチャーが好きな人に対して理解のあるお店だと認知していただけるわけですよ。うちのもともとのお客さんたちも、コスプレをして働いてくれたりもして、そういう良い関係を結べる場になったかなと思います。

「キッチンDIVE」店内には、主にお客さんからプレゼントされた二次元系のフィギュアやぬいぐるみが置かれている。

 ちなみに余談ですが、超会議2週間前に僕が骨折したせいで在庫をあまり作れなくて、両日とも終了時間前に完売したのに、結果は80万円の赤字でした。来年は黒を出せるはずなので、ぜひまた出店したいですね。

──それにしても、人生の節々で骨折が登場する半生ですね(笑)。……とにかく、来年も楽しみにしています!

今後やりたいことは「人助け」

──さて、ここまでゲームマニアとしての半生やTwitter術などについて伺ってきましたが、そろそろお時間が迫ってきました。最後に、今後やりたいことなどをお聞かせいただければと……!

伊藤店長:
 えっと……これだけ話しておいてあれですが、本当のことを言うと、正直言ってTwitterにはもう飽きてて。

──ええーーー(笑)!

伊藤店長:
 というか、最近はTwitterやっていて、心が痛くなることのほうが多いんです。
 例えばうちだけのために、わざわざ「北海道から来ました」とかいう人とかも増えてたりもしていて……お気持ちは嬉しいんですが、でもうちは小銭を集める商売のお店なのですごい申し訳なく思っちゃって。フェイストゥフェイスで、顔が見えちゃうところまで来ちゃうから、余計そういう人たちの気持ちが汲めて、辛いんですよね……。

 まあ単純に飽き性で同じことをずっとやりたくないのもあるので、これからはTwitterではなく、YouTubeやニコ生みたいな新しいことにチャレンジしていきたいなとは思ってます。ここらへんは、まだ悩んでいるところですが。

──同じことを続けない……まさに続編を嫌った飯野賢治さんのポリシーそのものですね。

伊藤店長:
 あと、まだ妄想だけどやりたいのが「在庫処分のお祭り」ですね。アニメメーカーやゲームメーカーに声をかけて、余っているキーホルダーやCDや試供品を持ち寄って、うちで全部無料で配るみたいな企画をやれないかなと。
 そうしたメーカーさんって、おそらく在庫の問題を抱えていて。でも、タダではけるのはイメージが悪いし100円でセールなども中々打ちづらいという時に、うちを使ってお祭りにできれば「太っ腹だね」という感じでできるんじゃないかと思ってて。

 それに、僕らも僕らでゲームやアニメを応援する層に認知してもらえるのは嬉しいですしね。だから「子ども食堂」も含め、これからはお店を使ってそうした「困っている誰か」を応援するような企画をやっていきたいと思っています。

──今日は長時間、ありがとうございました!(了)

お知らせ

50時間生放送

 記事の冒頭でもお知らせした通り、「キッチンDIVEの店内生中継」の第二弾を実施することに決定! 詳細なスケジュールは生放送ページにてご確認いただきたいのだが、「店内全品タダ」「3キロ弁当の制作」など、エキサイティングな催しが目白押しの50時間となる予定だ。

 放送開始は7/20(金)の17:00〜を予定しているので、お楽しみに!

募金を集めています

【お知らせ】多くのお客様フォロワー様いつもキッチンDIVEを応援しご贔屓にして頂きありがとうございます
この度キッチンDIVEは西日本豪雨災害被災者支援として皆様から頂いた猫型ロボット募金を全額ドラえもん募金に寄付したいと考えます
テレビ朝日にドラえもん募金箱が設置され次第届けに行きます。 pic.twitter.com/8Cs5MhsWMt

- キッチンDIVE (@divemamuru) July 9, 2018

 キッチンDIVEでは現在、この度の西日本豪雨を支援するための募金を集めています。生放送企画が終了する7/22(日)までに集まった金額は全額寄付されるとのことです。