X線写真は発見から100年たつ今もなお白黒で撮影されるのが当たり前となっていましたが、X線で撮影することで人間の体内をフルカラー3Dモデルで再現できる医療用スキャナー「MARS」が開発されました。この最新のX線スキャナーには、ヨーロッパ原子核研究機構(CERN)が開発した技術が応用されています。

First 3D colour X-ray of a human using CERN technology | CERN

https://home.cern/about/updates/2018/07/first-3d-colour-x-ray-human-using-cern-technology

1895年にヴィルヘルム・レントゲンが発見したX線によって、生きている人間の中がどうなっているのかをフィルムに映し出し、写真や映像として確認できるようになりました。発見から100年以上がたった現代でも、X線医療の現場や空港の手荷物検査などに使われています。X線撮影した写真や映像は、その原理上、白黒でしか表示できませんでした。



3Dスキャナーを開発・販売しているMARS Bioimaging Ltd.は、医療用3Dスキャナー「MARS」を開発し、X線撮影した写真や映像をフルカラーの3Dモデルとして表示することを可能にしました。



このMARSに応用されているチップセット「Medipix」は、もともとCERNの抱える大型ハドロン衝突型加速器で粒子を追跡するために開発されたもので、イメージセンサーに衝突する粒子を正確に検出することができます。高解像度かつ高コントラストのX線写真を撮影することが可能になるため、Medipixの医療分野への応用が期待されていました。MARS Bioimaging Ltd.は、さまざまな大学や研究機関と協力して第三世代の「Medipix3」を開発し、MARSに応用しました。



MARSは、Medipix3で検出したX線のスペクトル情報を分析し、フルカラーの3D画像を生成します。X線は物質を通過するとエネルギーレベルが減衰しますが、この減衰したエネルギー量から、脂肪・水・カルシウム・病巣部分などを判別して色に反映させるという仕組みです。

例えば以下の画像は、腕時計をはめた手首をMARSでスキャンしたところ。手首部分の骨は断面まで再現されて映っていることがわかります。



また、かかとをMARSでスキャンした画像を見ると、複雑に組み合わさった白い足の骨以外に、かかとから足の裏にかけて黄色い脂肪があるのがわかります。



CERNによると、MARSの小型版も開発されていて、記事作成現在は骨や関節の健康状態、がん、血管疾患の早期発見につながる診断に小型版MARSを用いることが可能かどうかをテスト中とのこと。開発チームはテスト結果を「有望」だとみています。また、ニュージーランドの整形外科で、臨床試験としてリウマチ患者にMARSスキャナーを用いた診察が行われる予定です。CERNのナレッジ・トランスファーを務めるAurelie Pezous氏は「私たちCERNの研究が世界中に恩恵もたらしたことはとても喜ばしいことです。研究結果がこのように実生活に応用されることは、私たちCERNの研究にとって励みとなります」とコメントしています。