(左)ステップワゴン スパーダ、(右)セレナ(写真:Honda Media Website、日産自動車ニュースルーム)

ホンダステップワゴン」が盛り返している。日本自動車販売協会連合会(自販連)の統計によれば、今年上半期(1〜6月)におけるステップワゴンの販売台数は約3万1000台。前年同期で比較すると44%増と大きく伸ばした。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

昨年9月に施したマイナーチェンジ(一部改良)でフロントデザインの迫力を増したのに加え、それまでガソリンターボエンジン1本だったことから待望されていたハイブリッド仕様の追加が、カンフル剤になっている。マイチェン前は月販3000台を切る場面もあったが、足元では当初の販売目標である同5000台強まで挽回した。フルモデルチェンジから3年前後のタイミングで、これだけ伸びるのは珍しいケースだ。

ただ、それでも同ジャンルで競合するトヨタ自動車、日産自動車には水を空けられている。ステップワゴンとコンセプトや価格帯の近い、トヨタ「ノア」「ヴォクシー」「エスクァイア」の3兄弟は、同時期に3車種合計で約9万8000台(月販約1万6400台)を販売。ステップワゴンとは3倍の開きがある。日産「セレナ」も同約5万6000台(月販約9300台)で前年同期3%増と微増ながら、ステップワゴンとの差は約2万4000台もある。


ノア3兄弟(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

ステップワゴンが属するのは、仕様によって少しはみ出して「3ナンバー」になることもあるが、いわゆる全長4.7×全幅1.7メートル前後に収めた、狭い日本の道路で扱いやすい「5ナンバーサイズ」を基本とし、全高1.8メートルを超える背の高さを武器にする背高ミニバンだ。

1996年に登場したステップワゴン

初代ステップワゴンは22年前の1996年に登場した。それまでの日本のワンボックス(1BOX)車は、エンジンを座席の下に置いて後輪駆動とする「キャブオーバー」と呼ばれるタイプが主流だった。対して初代ステップワゴンは、ワンボックス車のように四隅まで切り立った車体形状を維持しながらも、車体前部(フロント)にエンジンを配置して前輪を駆動する「FF(フロントエンジン・フロントドライブ)」方式の採用により実現した低いフロアと広大な車内空間が受けて大いに人気を博し、その後のホンダの躍進を支える車種の1つとなった。

現行ステップワゴンは5代目に当たるが、初代の約48万台(月間平均約8100台)の後は、代を重ねるごとに右肩下がり。ステップワゴンは、追いかけてきた競合車種に抜かれてしまい、かつてこのジャンルで君臨した王者の影はなくなってしまっている。

現行ステップワゴンは2015年4月にデビュー。テールゲートが分割して横開きする「わくわくゲート」の採用や、排気量1.5L直4ダウンサイズターボエンジンを搭載するなど、ホンダらしい、ライバルとの違いを強調した意欲作となっていた。

ノア3兄弟、セレナとの差が開く

販売統計を見るかぎりは現行モデルになってからは苦戦が続いてきた。デビューした2015年(1〜12月)の販売台数は約5万3000台、2016年は約5万2000台、2017年は約4万6000台。決して絶対数が少ないワケではないが、ノア3兄弟は2017年に約18万8000台、セレナは同約8万4000台と競合他社とは2〜4倍の差が開いた。

トヨタはレクサスを除く4系列(カローラ店、ネッツ店、トヨペット店、トヨタ店)すべてを駆使してノア3兄弟を売っている。その拠点は合計5000店舗以上に上るとみられており、2000店強といわれるホンダが数の面で及ばないのは、ある意味で仕方がない。

ただ、日産の販売店数はホンダと同程度。マイチェンで商品力を増してもステップワゴンがなおセレナに及ばないことについて、販売ネットワークの規模は言い訳にできない。

セレナはガソリンエンジンで発電しモーターで駆動する「e-POWER」を今年3月に追加したが、供給能力の問題もあって大きく販売を押し上げる要素にはなっていない。ステップワゴンがマイチェンで追加したハイブリッド仕様は、動力性能はかなり力強く、それでいて燃費も良好だ。静粛性や走り出しの加速感などが購入者から高く評価されているという。この点で両車に決定的な差はない。

そもそも現行ステップワゴンはデビュー直後から販売苦戦に陥るのではないかと心配する声も多かった。最大の要因は、ハイブリッド仕様が当初は設定されていないことだといわれた。

新車販売全般で見れば、ハイブリッドの神通力は弱まってきているようにも見えるが、このクラスにおいては、少し前までは実用燃費(km/Lベース)で1ケタもザラだった。性能や燃費、イメージの良さから、このクラスのヘビーユーザーを中心に「とりあえずハイブリッドに興味がある」として、新車購入を検討するケースは実際にある。ハイブリッドといえるモデルが最近までまったくなかったステップワゴンの販促活動は、かなり厳しかったようだ。

一方、競合のノア3兄弟やセレナもハイブリッド仕様が販売の主力を占めているワケではない。ハイブリッド仕様は販売価格そのものが高くなるためで、ガソリンエンジンモデルの販売構成比も低くない。

だからガソリンエンジンモデルだけの比較ならステップワゴンも競合ともう少し渡り合えた可能性もあったが、そうはならなかった。指摘されるのはステップワゴンが採用した1.5Lダウンサイズターボエンジンの採用であろう。

ターボエンジンの一般的なイメージ

ダウンサイズターボは排気量を小さくして燃費性能の向上をはかる代わりに、ターボを採用することで適宜パワーが必要なときに補う。フォルクスワーゲンが日本国内で販売しているミニバン「シャラン」が1.4Lターボエンジンを搭載しているように、世界市場で見れば、ステップワゴンクラスで1.5Lターボエンジンを搭載することは、トレンドに合った選択。いまだに2Lエンジンをラインナップし、それがメインユニットとなっているヴォクシーやセレナに比べれば先進的ともいえる。

これについては有利には働かなかったという見方が強い。このジャンルのミニバンのメインターゲットは、いわずとしれた現役子育て世代であり、子どもの習い事の送迎や日常の買い物などで、ママさんたちも積極的に運転している。ターボエンジンにはスポーティだが燃費はよくないという一般的なイメージがあることに加えて、車体の大きさと比較した場合の相対的な排気量の小ささそのものに、パパさんも抵抗を示すケースが少なくなかったのではないかというのだ。

これがいまだに尾を引いているように見える。ステップワゴンが追加したハイブリッド仕様の販売は好調だが、ハイブリッドはパワーユニットをギリギリ納めなければならないことから、スポーティモデルで車体サイズが少し大きい「スパーダ」のみの設定。ノーマルモデルは1.5Lターボのみなのだが、このノーマルモデルは外観がおとなしいこともあって、競合車種に対する競争力を上げられていない。

それ以外の要因を挙げるなら、ホンダ、日産の取り扱い車種との関係だろう。日産にとってセレナはコンパクトカー「ノート」と並ぶ売れ筋車種。SUV「エクストレイル」も比較的堅調だが、それ以外の主力車種はモデルがかなり古い。

例を挙げればコンパクトカー「キューブ」は2008年、同じくコンパクトカーの「マーチ」、ミニバン「エルグランド」が2010年にそれぞれ現行モデルが登場。細かな改良は加えているが、フルモデルチェンジは久しくしておらず、販売現場も力を入れて売っている車ではない。

ホンダにはマーチやキューブと競合する「フィット」(2013年登場)、コンパクトミニバンの「フリード」(2016年登場)、SUV「ヴェゼル」(2013年登場)といった比較的新しいモデルの販売が堅調なだけでなく、軽自動車の販売比率も高い。その大きな要素になっているのが圧倒的な売れ行きを誇る「N-BOX」の存在だ。

2017年のホンダの国内新車販売台数72.3万台(乗用車38.1万台、軽自動車34.2万台)のうち、軽自動車は5割近く、N-BOXは3割に当たる21.8万台も売れている。商品力も高く売りやすい車だけに、販売現場もN-BOXに傾注しやすくなっている。

日産も軽自動車を売っているが、2017年の国内新車販売台数52.7万台(乗用車38.1万台、軽自動車18.2万台)のうち3割強とホンダほど、軽自動車に傾注はしていない。

つまり、セレナの販売に力を入れやすい日産と、ステップワゴンの販売に力を回しにくいホンダという構造がある。

一気にダウンサイズしてしまう傾向が目立つ

セレナもエルグランドからのダウンサイズニーズや、キューブやノートからのアップサイズニーズを取り込んでいる。しかしホンダは販売店関係者に言わせると、たとえば、ステップワゴンよりも格上のミニバンである「エリシオン」や「オデッセイ」ユーザーが一気に「フリード」や「N-BOX」へダウンサイズしてしまう傾向が目立ち、ステップワゴンユーザー自体も同じ傾向があるという。

N-BOXやフリードユーザーの代替えを、ステップワゴンに誘導しようとしても、もともとホンダ車ユーザーは定着率(ホンダ車からホンダ車へ代替えを続けてくれる)がトヨタや日産よりも高くなく、新車購入後のメンテナンスや車検などの法定点検は格安車検業者やガソリンスタンドなどに流れ、ホンダディーラーへの入庫率も悪いとみられている。ほぼ“売り切り”のような状態となってしまい、セールスマンも思うようなアフターフォローができないので、販促活動が難しくなっているようである。

マイチェンで商品力を増したステップワゴンがノア3兄弟はおろか、セレナの背中もなかなか見えないのは、複雑に絡み合った理由によるもののようである。