東京の至るところで目撃される、婚活モンスター。

他をも圧倒するほどのこだわり。

時としてそれは、人をモンスターに仕立て上げる。

結婚へのこだわりが強いばかりに、モンスターと化してしまう、婚活中の女たち。

あなたのまわりにも、こんなモンスターがいないだろうか…?

前回は、すぐに家族に会わせようとする芙美を紹介した。さて、今週のモンスターは…?




「わ、麻友さん仕事本当に早いっすね!俺も見習わなきゃ… 」

六本木の、アプリ開発をしているベンチャーで働く麻友。上智大学を卒業後、新卒で入社して5年目になる。

大学の頃の成績は常にトップクラス。入社後も仕事が出来る麻友は同僚から一目置かれる存在で、会社の後輩からも慕われていた。

「そう?週末も家でまとめてたからね、大体イメージは出来上がってたの」

麻友はそう言い、空になったマグカップとパソコンを持ち席を立った。

時刻は12時40分、ちょうどお昼の時間だったので会社近くにある『マーサーブランチ』でランチをしようと考えていた。

「麻友さんこれからランチですか?良かったら一緒に行っても良いですか?」

社会人2年目の健太は、爽やかで愛嬌がある男。仕事ができるという理由で、健太から慕われていることは麻友も気づいていた。

「うん、良いよ。フレンチトースト食べに行こうと思ってたんだけど良い?」

「めっちゃ食べたい、行きましょう!」

店に着くと店内はほぼ埋まっていたが、ちょうど前の客が出たところで、二人は運良く入ることが出来た。

一人行動が多い麻友だが、イケメンで社内の女子から人気が高い彼が自分を慕ってくれている事に、悪い気はしない。

「麻友さん一人暮らしですよね?夜はいつもどうしてるんですか?」

運ばれてきたフレンチトーストを前に、健太が子犬のような目を向けてきた。

「う〜ん、結構前だけど彼と別れてから一人が多いかな。お料理とか色々習い事してるからそこで知り合った人と食べたりもするけどね。食べることが好きだから色々開拓してるんだ」

麻友は毎週末、花嫁修業として料理やテーブルコーディネートの教室に通っている。そこで仲良くなった“婚活女子”たちと食事に行くことが多い。

「え、今彼氏居ないんですか?麻友さん綺麗だし仕事も出来るし料理も出来るのに、なんで?」

身を乗り出す健太に、麻友は興味津々な様子で見つめられた。

なぜ3年も彼氏が居ないかなんて、本当は麻友が一番知りたいことだ。


会社では美人で完璧な麻友。だが実は…?


「なんでだろうね…食事会に呼んでくれる友達はいるんだけどなかなかうまく行かなくて」

「よし、麻友さん。僕の大学の先輩に声かけてみますんで再来週の金曜日空けておいてください。僕が食事会開くんで!」

「え、わ、分かった。ありがと…」

健太はそう言ってフレンチトーストを口に頬張りながら、早速先輩に連絡をとっていた。



『19時に会社の1階で待ち合わせして、一緒に行きましょう!』

食事会当日、健太からLINEが届いた。

男性は健太を含め3人が来る予定だったため、麻友は料理教室で一緒の“婚活女子”は誘わず、彼氏持ちの友人2人に声をかけていた。

婚活女子たちと同じフィールドで戦い、男性を奪われて先を越されるのは嫌だったからだ。

1階で麻友を見つけた健太は、満面の笑みで手を振り小走りで麻友のもとにやってきた。

「いやぁ、今日はまた一段と綺麗ですね!先輩たち喜んじゃうなー。じゃあ行きましょうか!」

そう言って健太は会社の前でタクシーを止め、目的地を告げた。

店に入ると、麻友と健太以外はすでに着席しており、早速盛り上がっていた。健太の先輩は皆大手の商社に勤めており、いかにも女性慣れしている様子だった。

「お、健太来たか、こっちこっち。噂の麻友ちゃんだね?今日は美女ぞろいで嬉しいな〜!皆フリーなの?」

「ちょっと先輩食いつきすぎですよ。まずは乾杯させてください」

健太は笑いながら言うと、テーブルで冷やしてあったシャンパンをグラスに注ぎ麻友に手渡した。

「乾杯〜!」




こうして食事会はスタートした。

「何度も言っちゃうけど皆さん本当に美人ですね!絶対モテるでしょう」

健太の先輩はご機嫌な様子で言い、それを聞いた麻友の友人は「またまたお上手!ありがとうございます」と否定をせずにお礼を言ったが、麻友だけは違ったのだ。


さっそく露呈する、麻友のモンスターっぷりとは?


「いやいや私なんて全然綺麗じゃないですしモテないですよ、今年に入って2人に振られてますから。本当にそのくらいモテないです」

麻友の言葉に、場が一瞬だけしんと静まり返った。だがすぐに男性たちがこの場を盛り上げる。

「そんなことないよー!健太に聞いたけど麻友ちゃんお料理教室に行ってるんでしょ?家庭的な人良いよね」

しかしこのフォローの言葉にも、麻友は否定的だった。

「もう家では全く作らないので流石にまずいかなあと。包丁も教室に通うまで3年近く握ってなかったんですよ。でもあと2年のうちに絶対結婚したいので、その時にバランスの良い食事を旦那さんに作ってあげたいなと思って」

そう言って麻友は、健太が取り分けてくれたカルパッチョを頬張った。

少し気まずそうな雰囲気を感じ取った麻友の友人は、フォローするように男性陣に話を振る。

「や〜私も料理頑張らなきゃな。あ、ところでこのワイン美味しいですね、びっくり」

「そうなんだよ。シラーなんだけど重すぎないんだよね、最近流行ってるらしくてオーナーに頼んでたんだ、実は。俺ワイン好きでさあ」

よく分かってくれた!と言わんばかりに健太の先輩は嬉しそうにワインの豆知識を披露し、それに対して麻友の友人は「勉強になりますー」と相槌を打っていた。

しかし、麻友は少し納得が行かない表情で口を開いた。

「うーん、でもちょっと渋みが気になりません?カベルネ・フランの方がスッキリしていておすすめですよ。あ、実はワインエキスパートの資格もとったんですよ、結婚したら夫婦で晩酌したいので詳しいほうが良いかなって」

先ほどの話からまた追い打ちをかけるように発言した麻友に、男性陣は苦笑いをし顔を見合わせた。だが、その様子に気づかない麻友はワインリストをしげしげと眺めながら会話を続けた。

「このワインリストの中なら…これがおすすめですよ、タウラージ。それも、48ヵ月熟成のコレ。皆さんはどうですか?」

ほろ酔いの麻友はそう言って、皆が見えるようにワインリストを広げた。

「麻友、いいペースで飲んでるね、私はちょっと化粧室に行こうかな」

その様子を見かねた友人が、麻友の腕を軽く引っ張り不思議そうな顔をする麻友を一緒に連れて行った。

「は〜〜…もうダメだよ麻友!麻友が頭良くて知識が豊富なの分かるけど、男性の会話にはある程度相槌打って聞いてあげないと!あと褒められたらありがとうございますで良いから。いい加減そろそろ “成功”したいんでしょ?」




そう言われても、麻友には分からなかった。

“成功”、すなわち交際に結びつける為には本当のこと、思ったことを口に出さずに我慢し、小芝居をする意味が。

「なんで男性をいちいち立てなきゃいけないの?いちいち男の顔色見て発言するの、私には出来ないよ、自分に嘘付いてるみたいで。私は、ありのままの自分を受け入れてくれる人がいいんだもん」

そうして麻友と友人が席に戻ると男性陣は会計をしていたが、またここで麻友はとどめの一言を言ってしまうのだ。

「ここのお店高そうですし半分出しますよ、皆さんきっと毎日飲み会されてるでしょう、奢ってばっかりじゃ飲み会貧乏になっちゃいますよ」

これにはさすがに麻友の友人二人も呆れた顔をした。

男性陣は笑いながら「いいよ、いいよ」と言って支払ってくれたが、二次会は開かれずに麻友は終電前に帰宅したのだ。今日も“成功”することなく。

そして次の週、会社に行くと健太が同期と何やら話をしている姿が見えたため、食事会のお礼を言おうと彼に近寄った麻友だが、その足は止まった。

「やーそうそう、仕事出来て美人でもあれはちょっとね。なんでも素直に言えばいいってもんじゃないじゃん?あれじゃ付き合ったとしても周りに紹介できないよな。美人なだけに残念だわ。とりあえず先輩に謝っておいた!」

ー素直のどこが悪いのよ…!

麻友は心の中で悪態をついた。

深い仲であれば素直さは存分に発揮していい。だが、まだ互いのことを知らないうちから“素直さ”を出している麻友は、ただのわがままな女だ。

自分を受け入れてもらうことしか考えられない、自己中な女として、人は麻友のことを見る。

だが、結婚したいと焦るほどに「そのままの自分を受け入れてくれる人を、早く見つけたい」と、間違った方向へと突き進んでしまう。

結婚したいと足掻いている麻友のような女は特に、男性に対して彼らの前で“素直に凄いと思っているフリ”をして、彼らの自尊心を高めてあげる事が大切な時もある。

時には女優になること。これが出来るか出来ないか、あるいは自然と出来ているかが成功の鍵となるだろう。

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結婚相手に”4K”を求める女