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2002年の包括的業務・資本提携時の狙い

 一部の報道で米国のウォルマートがスーパーマーケット(SM)の西友売却を検討して日本から撤退することが明らかになった。ウォルマートは2002年3月、バブル期のファイナンス事業の失敗などで苦境に立たされていた西友と包括的業務・資本提携を結んだ。当時、ウォルマートは世界中で事業展開を進めており、世界2位の経済大国で成熟した消費市場である日本に魅力を感じて進出を決めた。

 2008年には完全子会社化し、世界中に張り巡らされた商品調達網や商品開発力を活用し、メーカーとの直取引も行い、EDLP(エブリデー・ロー・プライス)路線を進め、レイバースケジュールやマルチタスクなどでローコストオペレーション改革にも取り組み、ウォルマート流の経営手法で立て直しを図った。さらに、単品の大量陳列、作業を省力化するウォルマート製の什器の導入、バックヤードの効率化などにも着手し、売場改善も進め、コストの削減も図った。商品管理では店頭での「スマートシステム」、取引先とも情報を共有する「リーテルリンク」を導入するなど、ウォルマートの手法により効率化を図った。

米国流を貫き、短期的な成果をもたらしたが……

 経営を主導したのが、米国ウォルマートから送り込まれてきた人材や外資系企業の経験者、マンパワーにおいても米国流を貫き、社内に創業者サム・ウォルトンの教えを広めることで精神的支柱とし、従業員のロイヤリティを高める一方でドラスティックな経営手法で改革を断行した。

 しかし、そのマネジメントは短期的な成果をもたらしたものもあったが、結局、抜本的な改革には結び付かなかった。

 売上げや利益など経営数値は外資系企業でよくありがちな未公表で、経営の実態はベールに包まれていて、漏れ聞こえてくる範囲で収益の改善が進んでいるなどの声も聞かれたが、結局、事業を継続していくだけの価値がないとウォルマートが判断するに至ったわけである。

スーパーセンターがうまくいかず、SMに特化

 なぜ、世界一の小売業であるウォルマートが日本で成果を上げられず撤退することになったのか、実はその前にも、ウォルマートの勝ち組モデルであるスーパーセンター業態で進出した韓国、ドイツなどの失敗例がある。

 日本でも当初はスーパーセンター業態を開発し、事業モデルを転換しようとしたがうまくいかず、SM事業に特化し、事業エリアも首都圏に絞り込み、都市部での小型店で活路を見出そうとした。そしてネットスーパーにも先駆的に取り組み、黒字化を果たしたとされ、2016年にはネットスーパー併設型店舗を開設するなど新たな展開も見せていた。

 商品面では、当初はウォルマートの調達網から供給された輸入品は、スペックや品質などで日本の消費者に受け入れらないミスマッチもあったが、その後、その溝を徐々に埋めながら、2012年には「みなさまのお墨付き」「きほんのき」といった日本版のPBも開発していった。

EDLPの価格が特売価格よりも高かった

 

 西友が展開する毎日同じ価格で販売するEDLPは、特売やセールで価格を下げるハイ&ローで競合店と安売り競争に明け暮れていた同業他社にとっては大きな驚きをもたらされた。その以前からEDLP戦略は知られていたが、西友が取り組んだことで一気に広く知られるようになり、他企業でも採用するところが相次いだ。これからはハイ&ローではなくEDLPの時代で、安売りのチラシはなくなるだろうと断言した経営者もいた。

 しかし、現状は特売は日常的に行われており、チラシもむしろ増えているという現実がある。なぜ安売りはなくならないのか。需給ギャップという根本的な問題をはじめ、卸売り業者を介在した日本特有の商習慣などが背景にあり、出店過剰による過度の競争も影響している。そして何より消費者が特売に反応し支持しているという状況がある。

 そのため、西友は他店のチラシで西友より安い価格であれば、チラシを持参すると同額で販売するという「価格保証」を行うなどで対抗したが、根本的な問題はEDLPの価格が特売より高いという点にあった。

 確かに販売する側にとってはEDLPは煩雑な価格変更も不要で、安さを恒常的にアピールでき、消費者にとっても特売やセール期間中でなくても毎日安く買えるというメリットがある。

 しかし、絶対的な安さでなければ消費者は魅力を感じない。その安さは本国の米国では圧倒的なバイイングパワーで実現できたが、売上高約7000億円の西友では不可能だった。

EDLPの価格が常に安くはならなかった

 一方で、消費者とのコミュニケーションでは一定の成果を上げることができた。「KY」(カカクヤスク)のキャンペーンでは、テレビCMが話題なるなど反響を呼び、低価格の西友を印象付けることに成功した。実際、西友の店舗に価格の安さに引かれて足を運ぶ人も多く、卓抜したPR戦略だった。

 

 その後も低価格の打ち出しに、3カ月以上の期間限定の値下げ「プライスロック」を展開し、低価格を主導、EDLPにおいて一定の存在感を示してきたことは事実で、西友の果たした役割は大きい。

 ところが、何度も書くように結局、西友によって価格破壊は起こらなかった。端的にいえばEDLPの価格は常に安くはならなかったのだ。かつてダイエーの創業者である中内㓛は、消費者のために、メーカーから小売りへ価格の決定権を奪うため、価格破壊に挑んで、松下電器(現パナソニック)をはじめ、メーカーとし烈な戦いを繰り広げ、ある程度の成果を収めることができた。

 ウォルマートの安売りは結果を出せなかったのは、たとえていうとEDLP教はウォルマート=西友によって日本に伝播されたが、西友はその教祖となれなかったわけだ。その半面、ドン・キホーテやトライアルといったDS勢力が凌駕する形で勢いを増していったのが、この間の日本の小売業界だ。

PBで品質と低価格の両方を追求するも

 そして今でもEDLPは永遠のテーマであり続けている。今日も安さを求めて大勢の人たちが西友の店舗を訪れている。しかし、その安さは相対的なものであり、新たな価値を生む安さではない。安さはバリューの一部であり、常に追求していかなければならないものである。付加価値があれば価格は高くてもいいという論調がかつて見られたが、それは誤りである。価値を高めながら同時に安さも実現してこそのバリュー提供なのである。

 西友はNBをEDLPで安く売り、PBで品質を保証しながら低価格を打ち出した。その戦略は従来の考えの範疇を超えるものではなく、イノベーションを起こすものではなかった。世界一の小売業であるウォルマートの商品調達、商品開発、物流、情報システム、店舗オペレーションなどを導入したが、結果的に日本では実を結ばなかった。

アズダを手放す時点で売却は予想されていた

 ウォルマートは事業の整理を進めており、4月には同社傘下の英国3位のSMのアズダが同業の2位のセインズベリーと経営統合することになった。アズダは商品開発やMDで優れたノウハウを持ち、ウォルマートや西友にも大きな影響を与えてきた。そのアズダを事実上手放すことになった時点で、より価値が劣る西友の売却は既に予想されていた。

 そして今回の撤退報道となったわけだが、既定路線で決して驚きではない。カルフール、テスコといった世界有数の企業が日本に進出し撤退していった。「ウォルマートお前もか」だが、人口減少が進む成長余力が乏しい日本の消費市場という現実も直視せざるを得ない。

 しかし、社会構造が大きく変わり、生活者のライフスタイルも変化する中で、そこにはかつてないチャンスも広がっている。さらに、今後成長が見込めるアジアを中心とした海外マーケットは大きな可能性を秘めている。市場の内外の壁を越えて事業を展開していくことで成長が担保できるわけで、シュリンクする国内マーケットという限定な視点から見ていては道を大きく誤ることになる。

売却先はイオンか? 伊藤忠商事か?

 西友の売却先としては、買収額は数千億円に上ると推測され、引き受け手も限られるが、既にイオンや伊藤忠商事、国内外のファンドなどが取り沙汰されている。イオンは2020年までに売上げを現状の4000億円から1兆円にすることを目標にDS事業の拡大を掲げているが、西友を傘下に収めることができれば、それを軽くクリアする。

 伊藤忠商事はユニー・ファミリーマートホールディングス(HD)を傘下に抱え、同HDは、昨秋、ドンキホーテHDと資本・業務提携、今年にはユニーとドン・キホーテの融合したDS業態を6店舗オープンした。

 両社はいずれも西友を買収できれば大きなメリットを得られ、2020年500店舗・売上高1兆円を目指すドンキホーテHDにも資金調達の面で問題があるとはいえ、同じことがいえる。

 売却先がどこに落ち着くかは今のところ不透明だが、流通業界の地図が塗り替えられ、再編が進むきっかけにもなることも予想され、ウォルマート化した西友がどのように変貌し、生まれ変わるかも注目される。