「声優にしかなりたくなかった」声優の仕事=人生と語る前野智昭が愛される理由

声優仲間から「独特な雰囲気がある面白いヤツ」と言われることの多い前野智昭。たしかに、彼の周りには独特な時間と空気が流れている。耳に心地よく響く声で淡々と質問に答えていくなかで、不意に差し込まれる「野菜の栄養素を調べながら食べるのが、すごく好き」といった言葉――つい笑ってしまうが、発している本人はいたって真面目に答えているだけ。いい意味でのマイペースともいえる前野の胸の内には、それだけではない、アツい思いが詰まっていた。

撮影/祭貴義道 取材・文/とみたまい 制作/アンファン
スタイリング/久芳俊夫(BEAMS) ヘアメイク/横手寿里

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これまでに類を見ない、スゴい擬人化がきた!

7月7日から放送がスタートした『はたらく細胞』は、前野さん演じる白血球(好中球)をはじめ、赤血球やマクロファージ、血小板といった人間の細胞を擬人化し、体内での働きを描いた、清水 茜さん原作の“細胞擬人化ファンタジー”です。
擬人化のなかでも類を見ないケースで、「スゴい擬人化がきたな!」と思いました(笑)。血液の成分として白血球や赤血球があって、それぞれの役割についてなんとなく知っている程度でしたが、そのほかにもいろんな役割を持つ細胞があって。「体の中で、こういうことが行われています」というのが、作品を通してすんなりと入ってくる感じがしましたね。
複雑な体内のメカニズムも、『はたらく細胞』を通して見るととてもわかりやすく、細胞たちに親近感を覚えますね。
そうなんです。細胞が働くお話ですが、そのなかでもいろんな感情の揺れ動きがあって。切ないお話もあれば、笑えるお話もある、すごく面白い作品だなと思いました。
「オーディションのときから非常に気合いを入れて臨んでいた」とのことですが。
テープでのオーディションを通過して、スタジオオーディションを受けさせていただいたのですが、事前に「最終審査は赤血球役の方との掛け合いになります」と伺っていて。それでスタジオに行ったら、赤血球役の花澤香菜さんがいらっしゃったので、「赤血球は僕のイメージ通り、花澤さんがキャスティングされるのかな?」と…。
前野さんの中での赤血球は、花澤さんが演じるイメージだったのですか?
原作を読んでいるときから、僕の中では花澤さんの声で再生されていましたね。
まだ花澤さんが赤血球役ということを知らないうちから?
そうですね。花澤さんとはここ10年ぐらいのあいだでいろんな作品で共演させていただいていて、メインキャラクターを一緒に務める機会もあったので、“勝手知ったる仲”といった感じなんです。ですから、「香菜ちゃんが赤血球をやるのならば、僕が白血球をやりたいな」という思いもあって、気合いが入りましたね。でも後から聞いたら、花澤さんもそのときはまだ配役が決定していたわけではなかったそうで。
白血球と赤血球の最終オーディションの場で幸いにも花澤さんと組むことができて、その掛け合いから白血球役に決めていただけたのは、すごく幸運なことだったと思います。
前野さんが演じている白血球ですが、どのように役作りをされたのでしょうか?
まず原作を読んで、白血球は冷静そうに見えますが、情にアツい部分があるキャラクターだと思いました。それに、すごくクールな一面と、雑菌に対しての攻撃的な一面のギャップを大きく出せたらいいなとも思って。そういったイメージを持ってオーディションに臨んだところ、「すごくキャラクターに合っています」とおっしゃっていただいたので、最初に感じたものが大きくは外れていなかったのかな?と思いました。
アフレコ現場で実際に演じてみて、お芝居を修正された点などはありますか?
1話のときに「白血球の冷静な面を、もう少し強く意識するように」といったお話を鈴木(健一)監督からいただきました。原作を読んで先の展開を知っていたからというのもあるかもしれませんが、最初から赤血球との距離が近い感じのお芝居をしていたようで、「赤血球に対しても、最初はもう少しクールに対応してほしい」といったディレクションをいただきましたね。
ちなみに、今日の撮影では全身白い衣装ということもあって、前野さんが実写版の白血球のように見えました(笑)。
ははは! でも、原作の清水 茜先生は『ドカベン』に出てくる不知火(守)のようなイメージで白血球を描かれたようなので、僕がビジュアルを寄せるのは難しいですよね(笑)。

周りのキャストをも引き立たせる、花澤香菜の声

花澤さんをはじめ、小野大輔さん(キラーT細胞役)、井上喜久子さん(マクロファージ役)など、顔なじみの役者さんが多いアフレコ現場だと思いますが、雰囲気はいかがでしょうか?
とても良いですね。いろんなキャストさんがバランス良くいらっしゃるなかで、喜久子さんや小野さんがすごく…なんて言うのかな? “演じやすい空気”を作ってくださるんです。
“演じやすい空気”ですか?
もちろん頑張らないといけないんですが、肩に力が入りすぎず、いい意味でリラックスして挑める楽しい現場ですね。もちろんそれは、スタッフさんがそういった空気を作ってくださるというのもあります。『はたらく細胞』の現場は毎回、大量の差し入れをスタッフさんが用意してくださるんです。時間をかけて収録していく現場なので、僕らのお腹の具合をスタッフさんが良い感じでコントロールしてくださって(笑)、すごく助かっていますね。
なるほど。それにしても『はたらく細胞』のキャストは、それぞれ演じている細胞のイメージにピッタリだと思いました。
本当にそうですよね。マクロファージ役の喜久子さんは、いろいろとアドリブを入れられる方で…今回もすごく力が抜けた感じの面白いアドリブが入って、良い空気を作ってくださるなぁと思いました。朝の第一声のご挨拶でも、だいたいいつも笑いを取っていらっしゃるし(笑)。
さきほど「原作を読んでいる段階からイメージしていた」とおっしゃった、赤血球役の花澤さんはいかがでしょう?
何にでも一生懸命に取り組む、本当に赤血球みたいな方ですよね。あとやっぱり、花澤さんがいるとすごく…「周りも立つ」といいますか。花澤さんの声って、一緒に演じている人のキャラクターをも引き立たせると思うんです。だから、花澤さんがいることによって、僕が演じる白血球や、小野さん演じるキラーT細胞のようなキャラクターがより引き立つんじゃないかなと思っています。
小野大輔さんのキラーT細胞も、ピッタリすぎるキャスティングだと思いました(笑)。
本当に(笑)。小野さん自身、個性的な方ですから(笑)、うまい具合にキラーT細胞のあの独特な個性を引き出していらっしゃいますよね。じつは僕、白血球とキラーT細胞の2役をオーディションで受けさせていただいたんですね。でも正直なところ、自分の中ではあまりキラーT細胞がイメージできなかったんです。その後、小野さんが演じられることになったと聞いたときに、「あー、なるほど! すごくしっくりくるなぁ」って、ピッタリとハマった感じがしましたね。
ほかにもたくさんの細胞が登場しますが、気になるキャラクターは?
第1話で登場した肺炎球菌がすごくトゲトゲしい攻撃的なフォルムで、しかも吉野裕行さんが演じられるということで、「1話にして、強敵が出てきたな」と思いました。段ボールを内側からギーって開ける描写がありましたが、すごく怖かったです(笑)。
今後もいろんな細胞や体に起こる症状などが描かれていきますが、改めて気になった細胞・細菌・病気などはありますか?
寄生虫と戦う、好酸球という細胞に親近感を覚えましたね。原作ではアニサキス(魚介類に寄生する寄生虫)と戦うお話ですが、僕も以前、アニサキスで苦しんだことがあったので、「あのとき自分の体内では、好酸球がすごく頑張って活躍してくれていたんだなぁ」と思いました。
始まったばかりの『はたらく細胞』ですが、注目ポイントを教えてください。
基本的には原作に沿ってアニメーションも進んでいくと思いますが、音声がつくからこそできる“遊び”みたいなものも随所に盛り込まれていますので、原作とアニメ、それぞれ違った楽しみ方ができると思います。それと、珍しいメンツでオープニングテーマ(『ミッション! 健・康・第・イチ』)を歌わせていただいているので、そこにもぜひ注目して聞いていただければと思いますね。

野菜の栄養素を調べながら食事をするのが好き

ところで、前野さんご自身も「健康オタクなところがある」とのことですが、具体的には?
そうですね、たとえば…僕、野菜の栄養素とかを調べながら食べるのが、すごく好きなんですよ。ブロッコリーを食べながら、「なるほど、ブロッコリーにはこういう栄養があるんだ。この栄養は最近不足してたから、いっぱい食べなきゃ」と考えて摂取するのが好きで。
それは昔からですか?
30歳を過ぎた頃からですかねぇ。いろんな食材の栄養素を調べて、自分に足りていないものを補うためのメニューを考えるのがすごく好きですね。普段から食事の内容には気をつけるようにしています。
なぜそういった食事スタイルに変わったのでしょうか?
歳を重ねているなかで、ありがたいことに、今も人前でいろいろとやらせていただく機会があるので…見た目も中身も含めて、体には気を使わないといけないなと思うようになったからでしょうね。
とくに気をつけて摂っているものはありますか?
たんぱく質を摂るようにしています。
筋トレやダイエットをされている声優さんがこのところ多い印象ですが、前野さんも何かされていますか?
僕も定期的にジムに通って、運動するようにしています。といっても、週に2回ぐらいですが。筋トレもしますが、有酸素運動が多いです。僕、お酒を飲むのが好きなので、「これだけ頑張って運動を習慣的にしてるから、ある程度は好きに飲み食いしてもいいだろう」って(笑)、理由づけのために運動してますね。もちろん、運動した後はすごく気持ちが良くてリフレッシュできるから、ストレス発散というか、もう趣味でもあるんですが。

下積み時代は、年収が3万円のときもあった!

声優というお仕事についても伺っていきたいのですが、あらゆる作品に引っ張りだこの前野さん。
いえいえ、そんなことないです(笑)。
そうやって声をかけられる「前野智昭としてのニーズ」はどこにあるとお考えでしょうか?
えー、なんだろう?(笑) わかんないですけど…僕、出演した作品のグッズを集めたり、自分で使ったりするのがすごく好きで。イベントでいただいたグッズを普段使ったりしているんですが、僕のそういうところにお客様が親近感を覚えてくださっているみたいです。本当に、その作品の“ファン代表”みたいな感覚で関わらせていただいている部分もあるので…もしかすると、そういうところも注目していただいているのかもしれませんね。
これまでさまざまなキャラクターを演じられてきた前野さんですが、「こういう役もやってみたい」というのはありますか?
あ〜、いろいろやりたいなぁ(笑)。敵なんだけど、すごくカッコいい…『機動戦士ガンダム』で言うところの、シャアみたいな役もやってみたいですし。あとは、本当にもう「絵に描いたクズ」みたいな(笑)、皆に嫌われるような役もやりたいですね。いかに皆さんに嫌われるかが勝負のキャラクターで、「嫌われれば嫌われるほど勝ち」みたいな役どころをやってみたいです(笑)。
たしかに、そういった役はなかなかありませんね。
「クズみたいになってしまったのは、じつはこういう深い理由があるからなんです」という、全部を知ると憎めないキャラクターというのは何回かやらせていただいたことはあるんですが、全部を知ったうえでも「本当に救いようがないクズだな」っていうキャラクターをやってみたい気はしますね(笑)。
ほかに、お仕事で今後チャレンジしてみたいことは?
いろんな役をやりたいし、いろんなお芝居もしたいし…舞台の経験もあまりないので、やってみたいですね。僕ら声優は基本的に台本を手に持ってお芝居しますが、舞台でのお芝居は、台詞を自分の中に落とし込んで、それを舞台上で表現することになりますよね。そういった表現に関して僕は未知数な部分があるので、挑戦できたらと思います。
声優としてお仕事をするうえで、常に大事にしていることはありますか?
「お仕事ができる喜び」でしょうか。それとやっぱり、作品の告知などで声優をフィーチャーしていただくことも多いんですが…今こうして取材していただいているのも、まさにそうですよね。でも、作品の打ち上げに参加させていただいたりすると、ひとつの作品を完成させるために、本当に大勢の方が携わっていることを実感するので、そこのところを忘れないようにしないといけないと常々思っています。
なるほど。
「何々役の前野さんです」って言っていただけることが多いんですが、その“何々役”を演じるうえで、これだけ多くの方たちが作品づくりに尽力されている。そのうえで僕ら声優が立っているんだということを、忘れないように。仕事が順調で日々忙しくさせていただいていると、つい忘れがちになってしまうかもしれませんが、僕は常に大事にしています。
というのも、僕は下積み期間が長くて、年収が3万円とかっていう時代もあったので…そういう経験も活きているのかなって思いますね。
年収が3万円ですか!?
ヤバいですよね? 「年収が3万」って(笑)。年に3回ぐらいしかお仕事がなかったんですよ。
それでも腐らないで続けていた?
正直なところ、半分腐っていましたけど(笑)。それでも必死にもがいて、なんとか活路を見出せたので、決して無駄な時間ではなかったとは思います。もちろん、そんな時期を通らずに、ポンポーンって順調なほうがいいのかもしれないですけど…。
そういった思いもされながら、声優をずっと続けている理由はどこにあるのでしょうか?
僕はもともと、声優にしかなりたくなかったんです。ほかのものに興味がなかったのが大きいのかもしれないです。もう本当に、小学校2年生ぐらいから「声優の仕事に就きたい」と漠然と考えていたので。それ以外のビジョンを描いてなかったぶん、「これだけ長い期間、胸の内に温めていたものが、現実にならないわけがないだろう」みたいな、変な自信があったんですよね。そういった思いが、どこかで力になっていたのかもしれません。
本当に小さい頃から声優を目指していらっしゃったんですね。
そうですね。僕の当時の人生プランは、24歳ぐらいでガンダムの主役をやって、27歳ぐらいで日本武道館を埋めて、30歳でマイホームを建てて、みたいな。まぁ、どれも叶っていないんですけど(笑)。
昨今では人気の職業になっている声優業ですが、かつての前野さんのように「声優になりたい」と思っている方に、どんなお仕事だと説明しますか?
人生におけるすべての経験が、声優として何かを表現する際に糧になるので、無駄なことは何もないですね。僕の場合、これまで遊んできたテレビゲームや観てきたアニメーションなど、すべての趣味が表現の引き出しになっています。僕はたくさん遊んで育ったほうだと思いますが、そのなかで、今の表現に活きているものがたくさんあるから、本当に小さい頃にたくさん遊んでいてよかったなとも思うんです。もちろん勉強も大事ですよ?(笑)
勉強も遊びも、すべてが活きてくるお仕事が声優ということですね。
本当にそうですね。そうやって、すべての経験が表現に活きるお仕事ってなかなかないと思うので、「仕事=人生」みたいな感じになりますよね。こんなに楽しいお仕事はないと思います。
前野智昭(まえの・ともあき)
5月26日生まれ。茨城県出身。A型。主な出演作に『図書館戦争』(堂上 篤)、『暁のヨナ』(ハク)、『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズ(カミュ)、『KING OF PRISM』シリーズ(速水ヒロ)、『刀剣乱舞』シリーズ(山姥切国広)、『重神機パンドーラ』(レオン・ラウ)など。

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    出演作品

    TVアニメ『はたらく細胞』
    7月7日(土)よりTOKYO MX・BS11・MBSほか各局にて毎週土曜日に放送中
    7月9日(月)より各サイトにて配信中
    https://hataraku-saibou.com/

    ©清水茜/講談社・アニプレックス・davidproduction

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