東野幸治

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 東野幸治が仲間たちの秘話をつづる連載「この​素晴らしき​世界」。今週のタイトルは「何事も用意周到な男、山里亮太(1)」。

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 ​お笑いコンビ・南海キャンディーズの、山里亮太という男は用意周到である。

 千葉県出身で現在41歳。高校時代にお笑い芸人に憧れます。当時はまだお笑いといえば大阪。そして吉本に所属することが一番のステータスだといわれていた時代。山里君は迷わず吉本入りを目指しました。それも東京ではなく大阪。「お笑いをやるなら関西弁をマスターする。そして大阪のNSCに入学する」という考えからでした。

 当然、「高校を卒業していきなりNSCに入学する」という選択肢もありましたが、ご両親は進学を望んでいました。それに反して両親を悲しませるより、関西弁をマスターする時間も必要だからどうせなら関西で学生生活を満喫しながらNSC入学時には晴れてネイティブな関西人になりすまそう、在学中には関西ローカルのお笑い番組やお笑い芸人もチェック出来るし――そんなことを多分、ひとり悶々と考えたのでしょう(本人の確認を取っていないので、あくまで想像ですが)。

東野幸治

 結果、ご両親を説得し、1年浪人した後に見事、関西大学に入学します。今のところすべてが用意周到に進んでいるでしょう?

 その後大学3年時に、予定通り大阪NSCに入ると「足軽エンペラー」というコンビを結成します。山里君の頭の中ではここからお笑いサクセスストーリーが待っていたと思うのですが、早々に挫折。

 理由はキングコング西野亮廣君と梶原雄太君)というコンビが同期にいたからです。入学当初から2人の漫才は完成されていて山里君をイラつかせます。そんななかキングコングは、NSCの在学中に結成5カ月、19歳という若さでNHK上方漫才コンテストの最優秀賞を受賞しました。これは結構な快挙で、山里君のイライラは膨らむ一方。

 そんな時、NSCの授業で講師の先生が衝撃の一言を発しました。「今年はキングコングが出たからもうイイだろ」。ショックでした。

 その日から山里君は変わりました。面白いネタを考えるより、キングコングにいかにダメージを与えて落ち目にするか。付き合わされたのは同期のネゴシックス君です。

 劇場近くのファーストキッチンで2人の勢いをどう止めるかの策を100円のホットドッグと水のみで何時間も聞かされました。「山ちゃん、もうやめようよ……」というネゴシックス君の声は全く届きません。

 授業で漫才の発表会があってもキングコングの時だけ絶対に笑わないのは当然の事。もちろん、クラスメート全員に「笑わないように」と根回しする徹底ぶり。

 他にも喫茶店でキングコングの悪口を書いたノートをわざと置いて帰ったり、ネットの普及前、数少ない掲示板に西野君の悪口を連日投稿したり……アナログからデジタルまで、嫉妬の乱れ咲きです。

 しかしそんな嫌がらせを全部、キングコングの2人は知っていたそうです。随分後に山里君が白状すると、

「それ知ってたよ。でも、えぇよ。俺がもしお前の立場だったら、同じようなことしてたと思う」

 西野君は山里君という名の糞野郎の肩を優しく叩いて去っていったとか。

 後に山里君はその時のことをこう語っています。「俺が死ぬべきだ」って。

「一切の非は自分にある」というスタンスで語っていたのですが、彼が絶対に死ぬつもりはないことや、このコメント自体事前に用意周到に考えられたものであることは、言うまでもありません。あくまで、山里君をよく知る私の意見ですが……。(続く)

東野幸治(ひがしの・こうじ)
1967年生まれ。兵庫県出身。東西問わずテレビを中心に活躍中。著書に『泥の家族』『この間。』がある。

「週刊新潮」2018年7月5日号 掲載