卓越した空戦能力に、先進の対地能力。約束された成功のもと誕生したF-15E「ストライクイーグル」はこの30年間、期待どおりの強さを発揮し、いまだ量産が続けられています。その「最強」たる理由の一端を解説します。

対空も対地もハイレベルな万能機

 今年2018年、アメリカ空軍の戦闘爆撃機ボーイングF-15E「ストライクイーグル」が1988(昭和63)年の配備から30周年を迎えました。「戦闘爆撃機」とは戦闘機としての空中戦能力を持ちつつ対地攻撃用の爆弾やミサイル搭載能力を付加した機種であり「戦闘攻撃機」とも呼称します。


離陸するF-15E「ストライクイーグル」先進的な対地攻撃センサーを操作するため後部座席に専任の兵装システム士官が搭乗する。(関 賢太郎撮影)。

 実のところ全く爆弾を搭載できない戦闘機というのはほとんど存在しないので、あらゆる戦闘機が戦闘爆撃機たりえますが、たいていの機は空中戦寄りの性能であったり、対地攻撃を重視したりと、得意とする分野を持っています。

 しかしF-15Eは違いました。30年前の実用化当時、空中戦、対地攻撃どちらにおいても比類なき高性能を有し、まさに完全無欠の万能機として誕生しました。

 まずF-15Eの空中戦能力はその原型機であるF-15「イーグル」によって担保されています。F-15は2018年現在、空中戦でただの一度も敗北することなく、100機以上の敵機を撃墜した記録を持っており、その空戦能力はほぼそのまま引き継がれました。また一時的にF-15Eの方が優れていたこともあり、F-15に対してF-15Eと同等の電子機器を搭載し空戦能力を引き上げる改修が行われたこともあります。

 そしてなによりF-15Eの真髄は対地攻撃能力です。原型機F-15から燃料タンクや兵装搭載量の増設/増量が行われていますが、こうした機体のメカニズムもさることながら、既存の戦闘機よりもはるかに優れる電子機器を搭載し、時代を超越した照準能力を与えられた点がより重要であると言えます。

その強みは先進的すぎたレーダーにあり

 各種電子機器において最も高価で重要な存在が、機首部に格納されたAN/APG-70火器管制レーダーです。このAN/APG-70は、戦闘機搭載用としては世界ではじめて「合成開口レーダーモード」を実用化しました。合成開口レーダーモードとは、地表のある領域を移動しながらレーダーで数秒間走査し、得られた多数の反射波データを1枚に合成することで、写真画質の「地図」を作ることを可能とします。

 この合成開口レーダーモードの視程は最大150kmであり、約40kmの距離であれば建物はおろか個々の自動車まで判別できる解像度を得ることができました。しかも、悪天候であろうが夜間であろうが一切関係なしにです。

 この合成開口レーダーモードを活用すれば、標的の座標を遠距離から取得し、GPS/INS誘導爆弾にそれをセットすることで、F-15Eは標的を一切目視で確認できなくとも正確に爆撃できる能力を獲得しました。

 そしてもうひとつの重要な電子機器が、「ランターン(LANTIRN)」と呼ばれる2本の赤外線画像ポッドです。ランターンは分厚い雲を透過することができず、また比較的近距離でしか使えませんが、昼夜問わずより高精細なリアルタイム画像を取得できることや、移動目標を照準できるという点において合成開口レーダーモードに勝ります。またレーザー照準装置が組み込まれており、レーザー誘導爆弾を使った精密爆撃には必須の装備です。

 F-15Eは配備開始の翌年1989(平成元)年末に実働体制にはいり、そのわずか1年後の1991(平成3)年1月に湾岸戦争で実戦デビューしました。湾岸戦争におけるF-15Eの活躍ぶりは伝説的です。ある一夜の作戦において2機のF-15Eがそれぞれ8発のレーザー誘導爆弾を搭載し、なんと16両の車両を破壊、撃破率100%を記録しています。またある作戦では、レーザー誘導爆弾を飛行中のヘリコプターに直撃させ、「爆弾で航空機を撃墜」してしまったことさえありました。

伝説的な実戦デビューの、その後は…?

 2018年現在ではF-16やF/A-18、F-35などをはじめに合成開口レーダーモードやランターンないしそれと同種の赤外線センサーを搭載する機種が当たり前になってはいるものの、湾岸戦争の時点でこれを実現していたF-15Eは、まさに現代型戦闘爆撃機「マルチロールファイター」の歴史を築き上げた戦闘爆撃機であったと言えるでしょう。


AIM-9、AIM-120空対空ミサイル、SDB GPS/INS誘導爆弾、ペイブウェイレーザー誘導爆弾を装備し大搭載能力をアピールするF-15E(関 賢太郎撮影)。

 F-15Eはあまりに強力すぎたため、1990年代にこれを導入したイスラエル空軍型F-15Iやサウジアラビア空軍型F-15Sでは合成開口レーダーモードやランターンの最大解像度を使用できないようソフトウェアで制限がかけられました。2000(平成12)年以降は規制も緩み、F-15Eと一部同等以上の性能を持つ韓国空軍型F-15K、シンガポール空軍型F-15SG、そしてサウジアラビア空軍が再びF-15SAとして導入しており、さらにカタール空軍もF-15QAの導入を決め、量産は継続中です。

 アメリカ空軍のF-15Eも数度にわたる性能向上によって、レーダーは新しいAN/APG-82へ、ランターンもより高性能なスナイパーXへ換装されており、30年が経過した今もなお卓越した空戦能力と対地攻撃能力を兼ね備えた最高クラスの戦闘爆撃機として各国の第一線で活躍しています。

 F-15Eの設計寿命は16000飛行時間でしたが、最大36000飛行時間へ拡張可能であると見られ、年間300飛行時間程度で酷使といえるレベルですから、現在生産中のF-15SAやF-15QAなどは優に100年は使えます。ドラえもんの誕生日(2112年9月3日)以降も「ストライクイーグル」は健在であるかもしれません。

【写真】F-15Eのコックピットまわり


F-15Eのコックピット前席。空戦から対地攻撃までこなすため、アナログ計器類は廃止されディスプレイを中心とした配置になった(画像:アメリカ空軍)。