―なんで“にゃんにゃんOL”を選ぶの!?

ハイスペ男子の結婚式で、こう思ったことのある高学歴女子は多いのではないだろうか。

お嬢様女子校から東大に入り、コンサルティング会社でマネージャーになるべく仕事に邁進している大西夏希(28歳)もその一人。

一流大学に入り、一流企業で仕事を頑張ってきた自分は、婚活なんかしなくても自然と結婚できるはず ……。

そう思っている夏希が、結婚できない本当の理由とは―?

幼馴染の留美にやんわりと夏希自身に原因があるのでは?と問題提起され、原因を探るべく苦手なお食事会参加を試みた夏希。

ハイスぺ男子に媚びる千春を軽蔑していたが、結婚という目標に対しての動機が不明瞭なせいで媚びから逃げている、と留美に指摘され…。




“お疲れ様☆夏希、今度いつオフィスに来る?ランチしたいなと思って♪”

結婚したい動機を考えることから逃げるように、プレゼンの資料作りに躍起になっていると、PCに千春からの能天気なメッセージが表示された。

“今週は木曜ならオフィス行くよ。”
“わぁ〜い♪じゃあ、出れそうになったらメッセージ頂戴ね。ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ…。”

ちょっと聞いて欲しいこと、ねえ…。自分も、こんな風に人に相談できたら、結婚したい動機が判明するのだろうか。



『セラフィーナ ニューヨーク 丸の内店』に入ると、一面ガラスの窓を背に千春がちょこんと座っていた。こちらに気付き手を振ってくれるが、絵文字満載のメッセージとは裏腹に元気が無さそうだ。

夏希は2,500円の豚肩ロースの香草パン粉焼きを、千春は1,100円のパスタランチを頼む。

「どうしたの?聞いて欲しいことって。」
「あ、うん…この前のお食事会、どうだったかなと思って。誰か連絡とっている人とかいる?」

夏希が少しの間沈黙していると「…実はね、一哉さんと連絡取れなくなっちゃったんだ。」と消え入りそうな声を出す。


お食事会でイチャついていた千春と一哉に一体何が!?


“名家の令嬢”という肩書だけでは戦えない、平成の婚活事情


「あの日ね、一哉さん、マンションの下までタクシーで送ってくれたんだけど…お手洗い借してくれって言ってきて。留美のご主人の同期とは言え、いくらなんでも会ったその日にお家にあげるなんてって思って断っちゃったの。」

うんうん、と夏希が大きく頷くのを確かめると、千春は続ける。

「その後、お礼のLINEをしたんだけど、お返事無くて…。でもね、男らしくて素敵な人だと思っていたから、また会いたくて、頑張って誘ってみたんだ。けど既読スル―されちゃって。」

豚肩ロースを食べる手を止めて「そんなの気にすることないじゃない」と夏希は言い放ったが、どうやら千春の求めていた答えでは無いらしい。

慌てて、「だって、会ったその日に家にあげなかったからって連絡取れなくなるような男なのよ?もっと誠実な人を探した方が良いに決まってる」とフォローする。

「そうだよね…。でも、やっぱり私レベルじゃ相手にされないんだと思うと辛くて。」

…私レベルって?朋子という女が慶介と結婚できたことを思えば、千春が一哉に相手にされない理由が分からなかった。




「それに私、焦ってるの。夏希もうちのお姉ちゃんのこと知ってるでしょ?」

突然どうしたのだろうと思いながらも、女子校の2つ上の学年にいた千春の姉を思い浮かべる。二人はとても似ていて、お姉様はシロツメクサといった感じだ。決して花屋に並ぶことの無い花―。

「お姉ちゃんね、この1年位お見合いをしているんだけど、苦戦してるの。」

千春の実家は田園調布の豪邸だ。初等科のメンバーの中でも毛並みの良さはピカイチ。

しかし、その名家のネットワークを総動員してお姉様のお見合い相手を探しても、肩書きは素晴らしいが、どうしても生理的に無理と思うような人物ばかりらしい。

千春の両親はとても厳しく、通常の門限は20時。女友達との約束がある日も22時。それでも家族仲はとても良く、姉妹揃って門限を守っていたそうだ。

その結果、お見合いで苦戦している姉を見て、このままではマズいと真剣に思い、両親の大反対を押し切って目黒で一人暮らしを始めたというのだ。

名家の令嬢という肩書だけでは、現代のお見合い市場で“普通の商社マン”とは出会えないのだ。

「このままじゃ、私も、どうしても好きになれない人と、お見合い結婚するしかないかもしれない…。」

泣きそうになっている千春をどう慰めて良いのかが分からない。

「ごめん。感情的になっちゃって。夏希みたいなキャリアウーマンには馬鹿みたいな悩みだよね。」
「…そんなことないよ。」

悲しみを堪えて必死に笑顔を作っていた千春が、驚いて顔をあげた。


夏希の抱える苦悩とは―?


高学歴お嬢様を苦しめる、家庭内のガラスの天井


「この前の父の日に、久しぶりに家族で『すし久遠』に行ったんだけど…尊敬する女性の先輩の話をしたら、うちのお父さん、何て言ったと思う?」

夏希の苛立ちを押さえられない物言いに、たじろぐ千春。

「でも、その人、独身なんだろう?って。仕事の内容になんか興味も示さなかったんだから。」
「…そんな。」

「うちのお父さんは、東大出の官僚だから頭固いのよ。女子大を出たばかりの母とお見合い結婚したから、女が家庭を支えるべきだと思ってるんじゃない。失言する政治家みたいなこと言うんだから。」

夏希の勢いは止まらない。

「お母さんもひどいのよ。去年さ、女子校の同窓会報で、働く女性をテーマにした特集の取材を受けたじゃない?あれを見たお母さんの同級生が、みんな夏希の結婚の心配してるわよ、とか言ってきて。両親揃って、私が結婚もせず働いてるの、面白くないのよ。」

「そんなっヒドイ!その記事、うち、家族全員で読んだよ。うちのお父さんが、夏希ちゃんはさすがだなあって言ってたよ!!」

両手をグーにして、今にもテーブルを叩きそうな勢いで拳を上下する千春。

「…私ね、実は、その記事で夏希が薦めてた本、読んでみたんだよ。」

意外な千春の告白にビックリして怒りが静まる。

「私は夏希みたいに頭良くないけど、そういう素敵な男性を支えたいと思うから、少しでも分かりたくて。正直言うと、本の内容は全然理解できなかったの。でも、夏希がスゴイんだってことは分かったよ!」

なぜか得意気に語る千春がいじらしい。




気が付けば、一哉以上に千春の“さしすせそ攻撃”に心を救われている自分がいた。

夏希自身、仕事は好きだしやり甲斐も感じているが、常にコンサルタントとしてのアウトプットを求められ、プレッシャーに押し潰されそうになる時もある。

更に、評価してもらう為にはマネージャーに器用にアピールする必要があり、それでも納得のいかないフィードバックを受けることもあるのだ。

両親からも上司からも認められず孤独に苛まれる時、こんな風に無条件に自分を受け入れてくれる存在がいてくれたら―。

夏希は、心の中でモヤモヤしていた“結婚したい動機”が、徐々にハッキリとした形になってくるのを感じた。

「千春、ありがとう。ごめんね、私が話聞いてもらっちゃって。」
「そんなことないよ!あ、もう戻らないとだよね?」

そう言って席を立った千春が、夏希の後ろのテーブルに向けて会釈をしている。振り向くと、本を片手にコーヒーを飲んでいる男性が目に入った。

「お知り合い?」
「あ、うちの会社の人だよ。武田翔さんってマネージャーさん。」

ギラギラした感じのしない、この男性が同業者だとは意外だった。

今の話、聞かれてたら気まずいな…。でも、沢山いるコンサルタントから同じプロジェクトにアサインされる可能性は低いから大丈夫か、といつになく夏希は楽観的だった。

そう、来週呼ばれている幼馴染の帰国パーティーが急に楽しみになってきたのだ。動機さえ固まれば、結婚への近道は拓けるはずだと信じていた―。

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浮かれる夏希の前に立ちはだかる規格外女子!!