人気は確かだがNO.1獲得のための自社登録やフリート販売も目立つ

 7月5日に自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)がそれぞれ、6月単月の通称名別販売台数とともに2018暦年締めでの上半期(2018年1月から6月までの累計販売台数)の通称名別販売台数のランキングを発表した。

 そして同日に日産自動車はノートが上半期に7万3380台を販売し、除軽統計(軽自動車を含まない)において販売台数ナンバー1になったというニュースリリースを発信した。そのリリースには1970暦年での上半期販売台数でサニーが1位に輝いてから48年ぶりに日産車がトップになったと報じている。

 日産自動車は現行セレナデビューや、現行ノートが2016年に行ったマイナーチェンジと同時にeパワー仕様を追加したあたりから、とくに販売ランキングというものを強く意識するようになっているように見える。それまでも“ミニバン”だとか“SUV”など、カテゴリー別での自社車両販売ランキングトップ獲得を意識していたようだが、ことノートに至っては除軽だけでなく含軽(軽自動車も含んだ販売ランキング)ランキングでもトップを狙っているかのような熱心さがヒシヒシと統計数字の動きから伝わってきた。

 とはいうものの、2017事業年度(2017年4月から2018年3月)の販売台数では、プリウスが除軽統計ではトップとなり、ノートはトップを逃している。その差は1万7964台(月平均は1497台)となっている。これは2017年秋に発覚した日産自動車の完成検査不正問題により、販売台数が一時的とはいえ大幅ダウンした影響が大きかった。年明けから急速に回復傾向に転じたものの、完成検査不正問題発覚以前のペースには戻り切れなかったことも影響したものと考えられる。つまり、完成検査不正問題がなければ2017事業年度も販売トップになっていたのは間違いなかったともいわれている。

 話を2018暦年締めでの上半期販売ランキングに戻そう。含軽(軽自動車も含む)統計での販売トップはNボックスで12万7548台となり、ノートの約1.7倍を販売したことになる。その販売台数推移を見ていると、含軽統計でもさまざまな締めのタイミングでのトップは当然狙っているとみられるノートだが、ここ最近は含軽統計ではNボックスが楽勝でトップとなっているので、“登録車”とか前置きなしに“販売ナンバー1”と言いたい日産としては、Nボックスは目の上のコブのような存在ともいえるだろう。

 通称名別での上半期の販売台数の発表、そして日産のリリース発信などを受けて、各メディアではノートが日産自動車として48年ぶりに販売トップとなったことを報じている。しかし、それを手放しで喜べるかといえばそうでもないようである。

 自販連統計によれば、2018暦年での上半期通称名別販売ランキングトップ20位の構成をみると、日産はノートを含んで計3台、ホンダが4台、マツダとスバルが各1台、そしてトヨタが11台となっているのである。トヨタ、ホンダ、日産は“日系ビッグ3”といわれる総合メーカーである。いまではトヨタや日産はOEMとなるが、この3メーカーは軽自動車から、センチュリーやシーマ、レジェンドまで、さまざまなボディタイプやサイズのモデルをラインアップしている。

 トヨタは11車種がランクインしており、小さめなクルマが目立つもののバランスよく売れているのがわかる。セダンやステーションワゴンのラインアップがメインとなるカローラシリーズ(販売台数への反映はほとんどないが、ギリギリのタイミングでスポーツがデビューしているので)が12位に入っているなど、以前ほどではないものの、プリウスやアクアが看板車種のような売れ行きにはなっているが、一部車種に極端に販売車種が偏重することなく新車を販売しているのは、ある意味トヨタのセールスパワーの底力の現れといってもいいだろう。

 一方の日産は、「メーカー自体も日本市場では軽自動車とノート、セレナ、エクストレイルが売れていれば良いと思っているのでは?」と、業界関係者だけでなく、広くクルマ好きの間で話題となるほど販売好調といえる車種が限定的となっている。

 ある事情通は「ノートと車格の近いクラスでは過去にティーダがあり大ヒットしましたが、いまはラインアップされていません。キューブは2008年デビューなので10年選手となり鮮度は完全に落ちています。ステーションワゴンのウイングロードもなくなりました。このような車種のユーザーは代替えしたくてもある意味行き場を失っています。そのようなひとたちに加え、サイズの大きい日産車も状況は似たり寄ったりなので、そのようなモデルからダウンサイジングするユーザーも加わり、代替え先がノートに集中していることも、ノートの販売台数が多くなっている要因としては大きいのです」と話してくれた。

 2018暦年締め上半期の販売台数統計を見ると、アクアはモデルの鮮度も落ちており、ノートeパワーの話題に押され気味のように見えるが、前年同期比103.1%となっている。さらにフィットやデミオも前年同期比で100%を超えており、統計数字を見るからにはノートに食われているという印象はない。もちろん新規ノートユーザーの取り込みに成功しているのだろうが、現有日産車ユーザーの代替えがノートに集中している動きがノートの販売好調に貢献していることも大きいようだ。

 筆者が見聞きしている範囲では、ノートやセレナ、エクストレイルは自社登録を行い、販売台数の積み増しを実施して、登録済み未使用中古車として流通させたり、カーシェアリング、レンタカーなどへのフリート販売にも熱心な様子がうかがえた。日産以外の多くのメーカーも程度の差こそあれ、同様のことは行っているようだが、やはり販売ランキングにこだわるあまりなのか、日産の“熱心さ”が目立っているように見える。

 今期の販売台数と前年、つまり2017暦年での上半期販売台数とを比較すると、ノートは今期で販売トップとなったものの、前年同期比87.1%となっている。つまり前年の同じ時期よりは売れていないということになる。セレナが103.2%、エクストレイルは100.5%と、ギリギリ前年同期比プラスとなっているが、軽自動車のデイズは93.6%となっており、国内市場で販促メイン車種とされているモデルでも、まだまだ完成検査不正問題発覚以前のペースを完全に取り返しているとはいえない。

 このような現状を打破する意味でも、日産はほかのメーカーより、さらに販売ランキングトップに対するこだわりを持っているように見えるのかもしれない。日本市場では消費者の自動車への感心が薄まり、一時期“クルマの白物家電化”などと呼ばれたが、いまでは所有せずにシェアリングする動きもかなり目立っているので、“クルマのコインランドリー化”が進んでいる。そのような状況下で新車を販売していくには、商品の魅力を説明するよりも、「同クラスで一番売れています」とか、「軽自動車を除くと日本で一番売れているクルマです」というセールストークの販促効果のほうが高いのである。

 さまざまな背景はあるものの、eパワー仕様の追加などで商品性が大きく向上したこともあって、今日ノートが大ヒットしているという事実は、販売統計が物語っている。

 ランキングにこだわる姿勢を否定するつもりはないが、極端に売れ筋モデルが偏っているという状況は日本国内だけで、北米や中国など世界市場ではじつにバランス良く販売している。

 日産に限って言えば、もう少し”内向き目線”、日本市場でもバランスよく売るような努力を意識してもらえると、日本の新車販売市場ももう少し活性化するのではないかと、今回の販売台数統計を見て改めて感じた。