今回のビジネス女子マナーは、坂野あすかさん(仮名・28歳)からの質問です。

「IT関連会社に勤めています。社内でもそうですが、社外の方とやりとりする際のメールなどで、たとえば、リテンション(顧客維持)、トラフィック(総アクセス量)などカタカナ用語を使う時、“日本語のほうが伝わるのでは……”という気持ちになることが多々あります。でも、他の人が普通に使っている言葉をわざわざ日本語に変えるのも嫌味な感じ?と思うこともあり戸惑います。マナーとしてどう考えたらいいのでしょうか。教えてください」

いわゆる業界用語だけでなく、コンプライアンスなど、英語のほうが耳にする機会が多い言葉も多々あります。賢いビジネスウーマンとして、これらの言葉をどのように使いこなしていけばいいのでしょうか。鈴木真理子さんに伺ってみましょう。

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ビジネスでは「相手にきちんと伝わる」ことが最優先

英語やカタカナの言葉、略語などを使うと、一見、仕事ができる風なイメージにもなりますよね。自分の格を高めたり、尊敬されたいが故に、わざと難しい言葉を選ぶ人もいたりして。でも、相談者さんのおっしゃる通り、ビジネスのやりとりでは、「相手にきちんと伝わる」ことが大切です。

すべてを日本語にしなければいけないというわけではありません。ただし、難しい言葉や硬い言い回し、専門用語や業界用語、そしてカタカナ言葉については、いつでも「読み手が理解できる言葉」に臨機応変に言い換えられる人が優秀といえます。

コンプライアンスの意味は?日本語で言うと?

たとえば、「コンプライアンス」。ニュースの報道などでもよく耳にすると思いますし、企業でもコンプライアンスについて、レクチャーやセミナーを開催しているところも増えています。コンプライアンスの意味をデジタル大辞泉で引くと、

1.要求や命令への服従。

(ア)法令遵守。特に、企業がルールに従って公正・公平に業務を遂行すること。
(イ)服薬遵守。処方された薬を指示どおりに服用すること。

とあります。ビジネスで使うコンプライアンスは(ア)ですね。法令遵守。読めますか 遵守はじゅんしゅと読みます。難しいですね。遵守は、デジタル大辞泉に

法律や道徳・習慣を守り、従うこと。

とあります。つまり「ちゃんとする」ということですが、法令遵守という言葉自体が「硬い言い回し」です。コンプライアンスのほうが通りがいい、というのも理解できるのではないでしょうか。ただ、当然意味は知っている、という状態にしておきたいですよね。

では、コンプライアンス違反となるのはどのような行為でしょうか。企業でいうと、産地偽装や粉飾決算、インサイダー取引や談合など、いわゆる不正、問題行為です。また、社員の過労死や賃金未払いもコンプライアンス違反となります。

一方、社員でいうと、セクハラ、パワハラ、横領や機密情報の流出など。SNSの個人アカウントで会社が公表していないことを発信するのもコンプライアンス違反となります。「コンプライアンス意識をもって行動すべし」といったことを社内でも言われているかもしれませんが、コンプライアンスが何なのか、何が違反となるのか、きちんと理解していないと行動も伴いませんね。「なんとなく知っている……」が、いちばん危ういのだと心してくださいね。

日本語にしたほうが伝わりやすい言葉とは?

業界によっては、年配の方であればあるほど、カタカナ用語に拒否反応を示す方もいらっしゃいます。若い世代や自社ではベーシックな言葉となっているカタカナビジネス用語も、日本語だとどう言い換えられるのか、覚えておいて損はありません。

たとえば、「アジェンダ」。一般的には「今日のアジェンダは……」などと、会議の議題のことをいうときに使うことが多いですね。でも、計画や日程表のことをアジェンダというところもあります。会議の際に口頭で「アジェンダを発表します」といえば、アジェンダという言葉自体が分からなくても、議題のことだな、と理解できますね。でも、たとえばメールで「アジェンダを送ります」となったら、次の会議の議題なのか、日程表なのかわからないという事態も起こりえます。最初に書いたように、相手がストレスなく理解でき、伝わることが重要。ですので、メールの場合は、日本語に書き換えたほうが伝わりやすいといえそうです。

また、バッファという言葉も要注意です。よく、「スケジュールにバッファを持たせる」といった使い方がされますが、この場合のバッファは「余裕」という意味です。一方、「配布資料にバッファを作ってください」というときには「予備」という意味になります。

しかし、バッファは本来「緩衝」と言う意味。なので、プチプチなどといわれるエアパッキンやゴムの緩衝材などをバッファという業界もあります。また、調整役、仲裁役ができる立場の人をバッファと呼んだりも。つまり、業界によって使い方が違うカタカナ用語も、とくに社外の方とやりとりする場合には、日本語で表現したほうが「伝わりやすい」となるでしょう。

とくにカタカナ用語については、一般化していると思っているのは自分だけ、という場合も少なくありません。使用するときには、まずは一拍おいて、「相手に伝わりやすいかな」と考えることが大切です。

コンプライアンスという言葉そのものに過敏になっている企業人も少なくありませんが……。



■賢人のまとめ
英語やカタカナの言葉、略語などを使うと、一見、仕事ができる風なイメージ。でも、ビジネスのやりとりでは、「相手にきちんと伝わる」ことが大切です。コンプライアンスのように、日本語にすると、より難解となる言葉もあり、すべてを日本語にすればいいというわけではありませんが、日本語だとどう言い換えられるのか、覚えておいて損はありません。

■プロフィール

女子マナーの賢人 鈴木真理子

三井海上(現・三井住友海上)退職後、“伝える”“話す”“書く”能力を磨き、ビジネスコミュニケーションのインストラクターとして独立。セミナー、企業研修などで3万人以上に指導を行う。著書は『ズルいほど幸せな女になる40のワザ』(宝島社)のほか、近著『仕事のミスが激減する「手帳」「メモ」「ノート」術』(明日香出版社)、『絶対にミスをしない人の仕事のワザ』は7万部を超えるヒットとなる。 

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