問題児ばかりが集う閉塞的なオフィスに、ある日突然見知らぬ美女が現れたー。

女派閥の争いにより壊滅的な状況に直面した部署に参上した、謎だらけのゴージャスな女・経澤理佐。

理佐は、崩壊寸前の部署の救世主となるのか?

「墓場」と呼ばれる部署に、ミステリアスな女・理佐がやってきた。

派手で超美人な彼女は、お局女性陣・おつぼねーずから早速目の敵にされてしまう

しかし理佐の活躍により、結託していた女達はついにバラバラになりはじめる中、おつぼねーずボス・陽子が課長と男女の関係であるという衝撃の事実が明らかになる。

さらには課長の「部長を陥れる」という野望を知った理佐。一体どう決着をつけるのか?




定時前。片付けを始めた少し騒がしい経理室内。

一昨日の密会の件で全く業務に集中できなかった春菜は、仕事から解き放たれる開放感に安堵していた。

そんな春菜の隣で理佐がおもむろに立ち上がり、姿勢正しく陽子の元に歩み寄る。

「お取込み中、ごめん下さいね。」

ふわりとした理佐の声。だがまるで耳に入っていないかのように、陽子は完全無視を決め込んでいる。

「あら、聞こえにくかったみたい…。では…。課長の事で、そう、藤沢陽子さんと課長の事でお話が…。」

理佐は周囲に聞こえるか聞こえないかの微妙な声量で、陽子に話しかけた。

さすがの陽子も、目を丸くしガタッと勢いよく立ち上がる。そして「別の場所で」と低い声で吐き捨て、理佐を睨みつけながら経理室から出て行った。

「あら怖い。1人じゃ無理だわ。」

理佐はくるりと振り向くと、茶目っ気溢れる表情で、春菜、そして相沢由美と水沢沙織にも一緒に来てほしいと促したのだった。


理佐と陽子の直接対決!理佐が用意した秘策とは?


ここしか空いていなかったので、と理佐が通したのは、20名ほど入る広めの会議室だ。

窓からは夕焼けの光が柔らかに差し込んでいるが、室内の空気は重く湿っぽい。

「話って何?忙しいんだけど。ってか他の3人は一体何でここにいるの?」

藤沢陽子がすごい剣幕で捲し立てる。春菜や他の経理メンバーはこれまで、この陽子の迫力にいつも委縮し、何も話せなくなることが多かった。

だが、理佐はそんな陽子の圧を感じないようだ。

「藤沢さん。現実を見ませんか?」

そしておもむろに「これは今日の昼に録音したものです」と言って、スマホの音声を再生しはじめたのだった。



理佐の心情


-藤沢さんにとって酷な内容だし、少々荒療治だけど…仕方がないわね…。

理佐はそう決意し、呆気にとられている女たちの前に、1台のスマホを置いた。その中には、理佐が昼間に経理課長と対峙した時の会話が録音されているのだ。

ー思い返すだけで腹が立つ。女をバカにしてるとしか思えない、課長の身勝手な話の数々。

理佐は再生ボタンを押す。流れ始めた音声に静かに耳を傾けながら、その時の虫唾が走るような出来事を思い返していた。



「あの…2人きりで、ご相談させて頂きたい事があるんですが…。」

理佐は昼過ぎ、1人で歩いている課長を見つけ、ゆっくりそして艶っぽく話しかけた。

実は課長はかつてセクハラスレスレの常習犯で、女癖の悪さでバツイチになったという秘密がある。

真実を知る理佐は、課長がこの誘いに喰いつかない事はないだろうと踏んでいた。

「お、経澤君が僕に相談なんて、珍しいね。場所を変えて話を聞こうじゃないか。」

全身をなめるような経理課長の目線に嫌気がさしつつも、理佐は課長の後を追う。

「わたし、課長のお力になりたいんです。」

小さな会議室に通された理佐は、こう切り出した。

そこから理佐は、課長がいかに素晴らしく、なぜ課長の役に立ちたいと思っているか、日頃の課長の(数少ない)いい部分を誇張して伝える。

全ては、「よく見てくれている!」「自分の味方だ!」と思わせる為の作戦であった。

そのうち、いい気になった課長は、様々なことをペラペラと喋り出した。周囲の環境や経理部メンバーに対する過激な言葉がしばらく続く。

「俺の方が経理部長にふさわしいのに」
「経理部の連中は使えないヤツばかり」

-ホント、ダメな管理職の典型ね…。録音されているとも知らずに…。

理佐はほくそ笑む。

「そんな風に思っていらっしゃったんですね」
「え!存じ上げなかったです」

肯定も否定もしないような言葉を選び、絶妙なタイミングで相槌を打つ。

課長は聞いてもいないことをホイホイと話し続けていた。

そして、一通りの不満を言い終わってスッキリしたのか、次第に理佐の話をし始めたのだった。

「経理部をバラバラにして部長に責任をとらせようと思っていたのに、決算をアッサリ進めた経澤君にも、正直腹が立っていたよ…!」

課長は笑いを含みながら話す。

「だがその後、営業部の不正を暴き解体させ、経理部が注目されることになった。この件に関しては、経澤君の直属の上司であるこの俺が、高く評価をされたんだ。これには大変感謝をしているよ。」

そんなことを言いながら、次第に課長は理佐との距離を縮めてくる。そして、耳元でこう囁いた。

「どうだ?俺と組まないか?経澤君は賢いし、優秀。何より美しく、社内でも目立つ存在だ。俺が経理部長になった暁には、そうだな、経澤課長なんてどうだ?」

耳からゾクリと全身に悪寒が走った。理佐は思わず一歩踏み出し、距離を空ける。

しかしここで一気に畳みかけるべく、とある質問をぶつけた。

「1点気になることが…。課長は、藤沢さんに目を掛けていらっしゃると伺いましたが…。」


ヒトと思えない…!陽子に対する課長の本音


「彼女には、目を掛けてやってるなんてもんじゃないよ。」

そういうと課長は大声で笑った。その声が会議室に響きわたる。

「そうだな、いい表現が見つからないが、強いて言うなら…便利屋かな?彼女、とっても使いやすいよ、コンプレックスの塊だし。

彼女も36歳になって、随分と年齢や結婚のことを気にしているからね。結婚を匂わせれば、簡単に言うことを聞いてくれるよ。」

課長は肩を震わせ、バカにするように笑う。

そしてニヤリと笑い、恐ろしい言葉を口にした。

「その点、経澤君は利口だし全然違う。もし目を掛けてほしいのであれば…。…経澤君が望むなら、いつでも可愛がってあげるよ。」

理佐は思わず身震いし、そこで再生を止めた。

そのときの課長の表情が、目の裏に焼き付いて離れない。そして課長の言葉は、理佐の耳にいつまでもねっとりと纏わりつき、鳥肌を立たせるのだった。




「藤沢さん、これが現実です。」

顔を上げた陽子の顔色は、真っ白だ。唇を噛み、肩は震えている。だがそれは、怒っているのか悲しんでいるのか分からず、理佐はただ、陽子の反応を待っていた。

「で?これを聞かせて、どうしようっていうの?課長との件を自慢したかったの?ってかあんた、部長の愛人なんじゃなかったっけ?」

陽子は静かに質問する。冷静さを保っているかのようにふるまっているが、わずかに声が震え、怒りがおさまりきらない様が伝わる。

どうやら陽子には、この課長との一連のやり取りが、理佐の演技によるものだということがわからないようなのだ。

今回の理佐の行動には、当然目的があった。

おつぼねーずから聞いていた話を、課長本人の口から聞き、彼の真意を確かめること。

課長の言葉を録音すること。

そして、藤澤陽子の呪縛を解くこと…。

だが背景を知らない陽子には、理佐の行動は課長を狙っているように見えるのだろう。

「まず、私は部長の愛人ではありません。あと、残念ながら私は課長に興味はないです。荒療治ではありますが、藤沢さんに現実と向き合ってほしかったんです。」

理佐は真剣に陽子に語りかける。

そのとき、春菜と視線がぶつかった。春菜は、“部長の愛人ではない”と理佐が口にした瞬間、あからさまにホッとした顔を見せた。おそらく彼女は、理佐の愛人疑惑の真相が気がかりだったのだろう。

その瞬間、陽子の悲壮な叫び声が響き渡る。

「あんたに何が分かるっていうのよ!」

「分かりますよ!年齢を重ねることへの不安に押しつぶされそうになる気持ちは、みんな一緒です。課長はあなたの女性ならではの弱い部分につけこんだ。私は許せません!絶対に!」

理佐の言葉に、会議室はシンと静まり返った。

「自分で自分を信じてあげないと。その不安を払拭するために、努力するんです。スキルや経験は、自分を裏切らない。

…私に、そのお手伝いをさせてくれませんか?」

▶NEXT:7月17日火曜更新予定
最終回:人の弱みに付け込む課長に制裁を!そして明らかになる理佐の正体・過去とは