日産は7月9日、工場出荷前の車の排ガスや燃費を確認する検査で測定データを改ざんしていたと発表した。会見の冒頭、山内康裕チーフ・コンペティティブ・オフィサー(左)らが陳謝した(撮影:大澤 誠)

「完成検査問題の再発防止に向けた取り組みを進めている中で、このような事案が発覚したことに対して深くお詫び申し上げる」

日産自動車は9日、国内全6工場のうち5工場で、新車出荷前に実施する排気ガスと燃費検査の測定データを改ざんするなどの不正が見つかったと発表した。記者会見した日産の山内康裕チーフ・コンペティティブ・オフィサー(CCO)は陳謝した上で、「時間はかかるかもしれないが法令順守意識の徹底が急務。調査を徹底的に進めていく」と述べた。


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日産では昨年9月、無資格の従業員が完成車を検査する問題が発覚し、国土交通省から2度にわたって業務改善指示を受けた。しかし、無資格検査発覚以降も一部工場で別の不正が継続していたことで、同社内における規範意識と危機感の低さが改めて露呈した格好だ。

不正が行われたのは19車種1171台

不正が発覚したのは、栃木、追浜、日産車体湘南、日産車体九州、オートワークス京都の5工場。完成車検査の工程で新車の性能を最終確認する抜き取り検査を行うが、燃費や排気ガスの測定データが自社で設定した基準から外れた場合、都合の良いようにデータをシステム上で書き換えていた。

また、抜き取り検査の際に車の速度や試験室の温度・湿度などの条件が国の定める試験基準から逸脱していたにもかかわらず、試験を有効としていた事例もあった。抜き取り検査をした2187台のうち、5割を超える1171台でいずれかの不正が見つかった。

不正があった車種は、「フェアレディZ」や「スカイライン」、「フーガ」など日産を代表する高級車に加えて、小型車の「ノート」や「マーチ」といった売れ筋車種も含めた計19車種にも及び、日産の国内生産全体に不正が蔓延していたといえる結果となった。


日産の山内CCOは、不正が行われた車種であっても保安基準に適合していると強調したが、不正の動機や背景については調査中として明言を避けた(撮影:大澤 誠)

今回の不正に関与していたのは現時点では計10人としており、不正マニュアルなどの存在は確認されていない。日産によると、残されていた信頼性があるデータを用いて再検証した結果、生産台数が少ない「GT-R」を除いた全車種について、保安基準に適合していることを確認したという。山内CCOは「カタログで公表している燃費の数値に誤りはない」と強調した。リコール(回収・無償修理)はしない方針だ。

不正の動機について、山内CCOは「再検査を避けるために、不正行為をしていたのではないかと推測される」と述べたが、調査中として明言を避けた。日産は外部の法律事務所に調査を委託し、動機など不正に至った原因の究明を進めている。1カ月後をメドに調査結果を公表する方針だ。

再発防止に取り組む中で不正発覚

会見では、不正の時期に記者の注目が集まった。データが保存されている範囲で調査した結果、不正は遅くとも2013年4月以降に始まり、山内CCOに不正が報告された今年6月19日まで行われていた。


日産が7月9日に開いた会見には多くの記者が集まった(撮影:大澤 誠)

日産では昨年9月、完成検査における無資格検査問題が発覚し、114万台のリコールに発展したうえ、約20日間の生産・出荷停止に追い込まれた。その後、法令順守など従業員に対する再教育を徹底することを含めて再発防止策を進めてきた。だが、再教育を無視するかのように、別の不正が続いていたことになる。

山内CCOは「完成検査問題以降も続いていたことは、この問題の根深さと、我々の(再発防止の)活動が道半ばであると認識している」と述べ、社内にはびこる規範意識の低さを認めざるを得なかった。

さらに深刻なのは、その間にSUBARUで同様の事例が明るみになったにもかかわらず、日産社内で問題が顕在化するまで半年も時間を要したことだ。スバルで昨年10月に無資格者による完成検査問題が、昨年12月以降には燃費と排気ガスのデータ改ざんが明るみになった。これを機に日産は燃費と排気ガスに関しても調査を開始し、測定に使用された機械のデータを精査することなどにより不正が判明した。

その間、日産の従業員から不正を告発するなどの動きはなく、自浄能力の低さが浮き彫りになったといえる。スバルの不正がなければ、問題が白日の下にさらされることはなかったのではないか。その点について、山内CCOは「起こりうる問題について優先順位をつけてリスク評価をしていたが、その評価の対象になっていなかった」と述べ、調査が追いついていなかったことを暗に認めた。

国内販売への影響は不可避か

相次ぐ不祥事の発覚によって懸念されるのが、イメージダウンによる国内販売への影響だ。無資格検査問題では工場の生産ラインが停止し、車両の登録ができなくなったことなども影響して、昨年10月の日産車の販売台数は前年比で4割超減少した。現在では生産は正常化し販売も前年並みにまでようやく回復してきた。


エンジンで発電してモーターで駆動する日産の「ノートe-POWER」。今回の不正発覚で好調な販売に水を差されかねない(撮影:尾形文繁)

そして、売れ筋のノートが「e-POWER」の搭載をテコに2018年上半期の国内新車販売で首位を獲得した。日産車として48年ぶりの快挙だ。ミニバン「セレナ」も登録車販売で上位に食い込み、「国内販売は苦しんできたが、やっと売れる車種が出てきた」(日産ディーラー)。明るい兆しが見えてきた矢先の不正発覚に、国内販売への悪影響は避けられそうにもない。