金正恩(キム・ジョンウン)氏

写真拡大

北朝鮮の金正恩党委員長の身辺に、異変が生じている可能性がある。

朝鮮中央通信など北朝鮮メディアは8日、同日0時に、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長ら朝鮮労働党と政府、軍の幹部らが、金日成主席の死去から24年に際し、錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を参拝したと伝えた。しかし、金正恩氏が参拝を行ったとのニュースは、現在まで伝えられていない。

韓国の国家情報院(国情院)は以前、金正恩氏について「パーティー狂いで不摂生」であるなどとして、健康不安説を報告していた。そういったこともあり、金正恩氏の動静情報は国際的な関心事となっている。

(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙

金日成主席と金正日総書記の誕生日と命日に、同宮殿を参拝するのは毎年恒例の行事だ。金正恩氏は時に、幹部らとは別行動で参拝し、そのニュースが少し遅れて伝えられたこともあった。しかし、今回は2日が経とうとしているのに発表がない。

また、参拝は新年に際しても行われてきたが、金正恩氏は今年の正月にも参拝に行っていない。金正恩氏の胸中で、参拝という行為そのものに対する考え方の変化が起きている可能性もあるが、新年と命日とでは重みが違う。

金日成・正日の両氏は北朝鮮において絶対的な存在であり、金正恩氏の権力もまた、彼らの血統であることから生まれている。参拝は他の誰にも増して、金正恩氏本人にとって重要なものではないのか。ましてや北朝鮮国内には、金正恩氏に対して、母親が日本の大阪出身であることや金正日氏の正妻ではなかったことを理由に、正統性を疑問視する向きもあるとされる。参拝を「蔑ろにしている」と見られることは、得策ではない。

こう考えると、健康問題を含む身辺の異変のほかに、参拝を中止する理由が見当たらないのだ。

ちなみに、金正恩氏が1月1日の参拝に行かなかったときには、筆者は特に異変を疑わなかった。金正恩氏はこの日、施政方針演説「新年の辞」を肉声で発表しており、健在であることはすぐにわかったからだ。

では、今回はどうか。北朝鮮メディアは6月30日から3日連続で、金正恩氏が中国との国境地帯を視察したことを伝えた。しかしその報道の中で、視察の日時は明らかにされていない。金正恩氏はまた、韓国の文在寅大統領に自ら提案した南北統一バスケットボール大会(4〜5日・平壌)にも顔を出しておらず、今月6〜7日に訪朝したポンペオ米国務長官とも会っていない。

金正恩氏側近である金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長は5日、バスケ選手団を引率して訪朝した韓国の趙明均(チョ・ミョンギュン)統一相に対し、金正恩氏がバスケ大会を観戦できない理由を「地方視察中だから」と説明したとされるが、それから4日経っても視察のニュースは発表されていない。

6月19〜20日に中国を訪問し、習近平国家主席と会談して以降の金正恩氏の詳しい動静は、不明なのだ。

ちなみに、韓国の聯合ニュースは9日、金正恩氏の専用機「チャムメ1号」が同日、ロシアのウラジオストクまで飛行し、北朝鮮に戻ったと伝えた。聯合は「同地は9月に国際会議『東方経済フォーラム』が開かれるため、金委員長のフォーラム出席に備え、実務団を乗せて飛行した可能性がある」としている。この日、金正恩氏本人が専用機に乗っていた可能性もゼロではないが、いずれにせよ、動静はなお、不明なままだ。

このような細かいことを気にしていても、金正恩氏がすぐに元気な姿を外国人や外国メディアに見せれば、すべては解決する。だが、その時がなかなか来なかったら、関係国の政府は非常に困る。

少し前までなら、北朝鮮を監視する国情院や米CIAが、異変情報を流したかもしれない。しかし韓国にとっても米国にとっても、今や金正恩氏は大事な対話相手であり、機微に触れる情報を一方的に流すことはないようにも思える。ということはやはり、北朝鮮ウォッチャーは入手できる限りの情報を駆使して、金正恩氏の動静を観察しなければならないのだろう。