元ドイツ代表監督のクリンスマン氏は日本代表監督への就任が噂されるが…【写真:Getty Images】

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【USAトゥデー記者・特別寄稿|後編】アメリカ代表はあまりにも高い代償を払った

 日本サッカー協会の田嶋幸三会長は5日、日本代表をロシア・ワールドカップ(W杯)ベスト16に導いた西野朗監督の退任を発表した。

 後任候補として報じられているのが、2011年から16年までアメリカ代表を率いたユルゲン・クリンスマン元監督だ。現役時代は西ドイツ代表のストライカーとして活躍し、1990年イタリアW杯優勝を経験。「クリンシー」の愛称で親しまれ、2004年のドイツ代表監督就任を皮切りに、指導者の道を歩み始めた。

 そんなクリンスマン氏の人物像について、11年から5年間率いたアメリカ代表監督時代に番記者を務めた「USAトゥデー」紙のマーティン・ロジャース氏が特別寄稿。「前編」で「日本の大事にしている“和”を乱す人間」と綴っていた同氏は、「後編」でもアメリカ代表監督時代に選手や周囲に対して責任転嫁をしてきた経緯を回顧。「日本サッカー協会は泥沼離婚のような状況を覚悟すべき」「リスクの高い人材」と警鐘を鳴らしている。

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 クリンスマンは2011年7月の代表監督就任時には、ヨーロッパスタイルの流れるようなサッカーをアメリカ代表でも取り組むと約束し、ファンの期待を煽っていた。しかし2014年ブラジルW杯でアメリカが披露したサッカーは、今まで通りだった。ハードワーク主体で守備的な泥臭いサッカー。明らかにクリンスマンはチームを変えることができなかった。

 この大会でアメリカは決勝トーナメント1回戦でベルギーに1-2で敗れたが、内容は1点差以上のゲームだった。GKティム・ハワードが16本も相手のシュートをセーブしなければ、結果は悲惨なものになっていた。大半のマスコミ、サポーターはハワードのパフォーマンスばかりに気を取られていたが (確かに称賛に値するものではあったが)、アメリカの守備が崩壊していたことに関してはメディアであまり触れられなかった。

 ベルギー戦の内容を受けて、アメリカサッカー連盟は監督交代に踏み切るべきだった。だが、クリンスマンがヨーロッパに復帰する報道が駆け巡り、焦ったのか大会直前に契約を更新してしまった。ロシアW杯までの4年間、年俸250万ドル(約2億7000万円)。あまりにも高い代償を払うことになった。

一見、クリンスマンはチャーミングで好感を持てるが…

 アメリカ代表のチーム事情は、ロシアへ向けてさらに悪化した。7大会連続のW杯出場をブラジル大会で果たしたアメリカが、ロシアW杯の北中米カリブ海予選を突破するのは一般的に当然だと思われていた。予選落ちなんて有り得ない、と。

 しかし、悪夢は現実となってしまった。最終予選の初戦、ホームでメキシコに1-2で敗れ、その4日後にアウェーでコスタリカに0-4で大敗した。2連敗スタートを受けて、最大の理解者であったアメリカサッカー連盟会長のスニル・グラティはクリンスマンを解任した。監督が完全に孤立していると、ようやく受け入れたのだ。日本サッカー協会がバヒド・ハリルホジッチを、「コミュニケーション不足」との理由でクビにした状況と酷似しているように見える。

 クリンスマンは結果が出なければ選手を責めた。メディアとの関係も一方通行。 何かが自分の思い通りにいかなければ、誰かに罪を被せた。

 キャプテンのマイケル・ブラッドリーが、連盟内で発言権があったことも彼には気に食わなかった。クリンスマンが5年間もアメリカ代表監督を務められたのは、連盟会長であるグラティが目をつぶっていたからだ。それ以外の理由は存在しない。

 一見、クリンスマンはチャーミングで好感を持てる。ストイックなドイツ人でもあるが、カリフォルニアのビーチに豪邸を持ち、セレブなオレンジカウンティに構える自宅付近のカフェで、いつも優雅にコーヒーをすすっている。まるでマクドナルドの店員のように、スマイルは常に絶やさない。

 日本代表監督にもし就任したら、流石にクリンスマンも最初は周囲と上手く付き合おうとするだろう。片言の日本語を操りながら、カタールW杯への期待を煽るような約束を次から次へとするはずだ。ハリルホジッチのように「時間がかかる」「辛抱を」と要求するだろう。

選手との関係がこじれ、チームとしてまとまらなかった

 クリンスマンと日本が良いマリッジ(婚姻関係)になる可能性もなくはない。だが、上手くいかなければ、日本サッカー協会は“泥沼離婚”のような状況を覚悟すべきだ。

 アメリカ代表でもバイエルン・ミュンヘンでも、クリンスマンは選手との関係がこじれ、最終的にチームとしてまとまらなかった。もちろん、アメリカ代表がロシアW杯に出場できなかったのはクリンスマン一人のせいではない。しかし、監督であった以上、言うまでもなく責任は大きい。おそらく、彼はアメリカサッカー界では、もう二度と重要なポストには就けないだろう。

 日本サッカー協会が本当に「クリンシー」のようなリスクの高い人材を背負うことになるのか、実に興味深いところだ。(文中敬称略)

[著者プロフィール]
マーティン・ロジャース/英国出身。英紙「デイリー・ミラー」、米メディア「Yahoo」を経て、現在は米紙「USAトゥデー」でサッカー専門の名物コラムニスト。W杯予選などクリンスマン政権のアメリカ代表戦をほぼ全試合取材した。(マーティン・ロジャース/Martin Rogers)