心から「楽しい」「最高」と感じられる趣味があると、人生はよりおもしろく、彩り豊かなものになります。趣味という名の美しい沼に浸かっている人たちを紹介していく連載【趣味と私と人生と】。
第3回目は「鰻(うなぎ)」を愛する笹山美波さんに登場いただきます。

鰻でお酒を飲む楽しみ

池田: 寄稿されていた、鰻愛にあふれる、すごく好きでした!

笹山: ありがとうございます!

池田: 鰻好きになったきっかけは何だったんですか?

笹山: 6年前、先輩が「鰻でお酒を飲むのもいいよ」と、「うな鐵」という鰻屋に連れていってくれたんです。新宿・歌舞伎町にある50年以上続く老舗で、うな重に限らず鰻を使った「鰻料理」が豊富なお店です。

鰻にまつわる素敵な記憶

池田: とくに印象的だった鰻料理は?

笹山: 鰻のかば焼きを細切りにしたのと、刻んで塩もみしたきゅうりの酢の物「うざく」、鰻のいろんな部位を使った「串焼き」などでしょうか。あと、鰻に合う日本酒の銘柄は○○だとか、鰻料理のたしなみ方についてレクチャーも受けました。

池田: 先輩は鰻に詳しい方だったんですね。今の笹山さんのように。

笹山: おいしいだけでなく、初めて知ることや体験することの連続で、今でも強い記憶として残っていますね。

鰻好きだけど、食べるのは「ハレ」の日だけ

池田: 鰻が大好物になってからの、笹山さん流「鰻活」について教えてください。

笹山: 暮らしの中での大事な「ハレ」の日に、大事に食べるようにしていますね。

▽ 夏のご褒美に食べに行った、成田山の老舗「川豊」の蒲焼き。「味はもちろんのこと、お店である1917年に建てられた日本家屋の趣もよかったです」

池田: 好物だからといって、日常的に食べるわけではないんですね。

笹山: おいしいものを安くたくさん食べようとすると、気持ちのうえで大切な何かを失う気がしていて。ニホンウナギはご存じのように、絶滅危惧種に指定されてもいるので。

池田: 確かに……。「食べる」以外の鰻活もいろいろされていますよね。

鰻にまつわるおすすめ作品たち

笹山: 鰻の歴史や鰻が出てくる作品を調べることも多いです。漫画ならラズウェル細木さんの『う』、映画なら伊丹十三さんの『お葬式』、小説なら浅田次郎さんの『雪鰻』など、良作がたくさんあります。中でもお気に入りは落語の『子別れ』です。

池田: どんなお話なんですか?

笹山: お酒や女遊びといった夫の悪態を理由に一度別れた夫婦が、引き取られた息子と夫が3年ぶりに再会するのをきっかけに、鰻屋でヨリを戻す話です。

池田: 鰻屋が舞台。

笹山: 再会の場面で夫が息子へ、奥さんに内緒で小遣いをやり、好きだった鰻を奢る約束をするのですが、鰻は庶民にとっては現代と同様にとても高級です。失った信頼を取り戻そうと鰻屋を選んだのか、物語の裏側を当時の状況を含めて想像すると、とても感傷的な気持ちになります。

食べるだけじゃない。鰻の楽しみ方

池田: 心がキュッとなりますね。鰻にまつわる展示にも行くとうかがったのですが、たとえばどんな展示があるんですか?

笹山: 日本大学生物資源科学部・鰻研究室の展示に行ったときの写真があるのでお見せしますね。真ん中の白いニョロニョロとした小さなものが、鰻の赤ちゃん「レプトセファルス」です。かわいいでしょう?

池田: すごく小さいですね。白くてかわいいです。

笹山: こちらは、東京大学で開かれた、東アジア鰻学会のシンポジウムでの写真です。誰でも自由に参加できて、最新の日本の鰻の研究調査を学べるんです。

池田: いろいろな催しものがあるんですね。

笹山: 深海魚の展示「深海展」(日本科学博物館)に行ったとき、「ムラサキヌタウナギ」という鰻に出会うこともできました。アンテナをはっていると、嬉しい出会いがあります。そういえば、鰻のゲームアプリもあるんですよ。

池田: 鰻のアプリ?

笹山: たまたま見つけたは、おままごとのように鰻をさばいたり焼いたりして楽しめる、子ども向けのアプリです。

笹山: おいしそうなイラストや、焼いているうちにだんだん色が変わるアニメーションなど、細部のこだわりが気に入っています。鰻に関する切り口って、こんなふうにたくさんあるんです。それも鰻の魅力だと思います。

鰻好きな人が増えて、“現状”に目を向けてほしい

池田: 鰻愛好家として、今後伝えていきたいことはありますか?

笹山: 誰かと世間話をしていて「鰻好きだ」という話を持ち出すと、どんな人も鰻についていい表情で語ってくれるんですよね。代わりのきかない大切な記憶として残っているみたいです。それこそ落語『子別れ』のように、「ハレ」の日に食べる人が多いんだなと思います。

池田: いい話ですね。

笹山: でも今、鰻は絶滅危惧種のひとつとして知られるようになっています。ハレの日に鰻が食べられなくなる日が来るかもしれません。私も今でこそ鰻を食べるのを控えています。好きになることで鰻にまつわる問題を知り、保全を自分ごととして考えるようになりました。

差し出がましいですが、「ハレの日に食べるご褒美の鰻」というすばらしい食文化を残すためにも、より多くの方に鰻を好きになってもらい、現状を知っていただきたいなと思っています。

編集後記

「例えば誰かを見た目や性格で好きになっても、その人のルーツや考え方、仕事、趣味、環境含めて少しずつ知っていくことで、どんどん愛を深めていいきますが、鰻にもそれが言えると思います。

おいしさに惚れた後で、料理のメニューやお店、地域性、歴史、生まれ育った環境を調べてみると、その奥深さに触れ、おもしろいだけでなく、鰻というひとつの種について、思いが募るような気持ちになります。ちょっと言いすぎかもしれませんが(笑)、でもそんなエモーショナルを感じます」

こんなふうに語ってくれた笹山さんから、特定の何かを愛し、趣味として深めていくことのすばらしさをあらためて感じさせられました。

▽ 笹山美波さん

(撮影: 渡邊 宏)

「東京右半分」で生まれ育つ。編集記者を経て、外資マーケティングサービスのWebプロデューサー、マーケター。ライター。鰻オタク。とくにお気に入りの鰻店は、各種部位や天然鰻と養殖鰻の食べ比べを楽しめる池袋「かぶと」、鰻の珍しい創作料理をもっぱらひとりで食べにいく桜木町「うな衛門」。