世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、交替で登板します。

 第186回は、芹澤和美さんが『赤毛のアン』の島でご馳走三昧の旅を楽しみます。

最高級の牡蠣
マルペック・オイスター

プリンス・エドワード島でまず食べたいものといえば、フレッシュな牡蠣!

 牡蠣にムール貝、ロブスターがとびきりおいしくて、絶景がどこまでも続く島がある。しかも、日本から近くの都市まで直行便が飛び、アクセスがぐっとよくなった。そう聞いて飛びついたのは、カナダ東部にあるプリンス・エドワード島への旅。

 この島の名前を聞いて、まっさきに思い浮かべるのが、ルーシー・モード・モンゴメリの長編小説、『赤毛のアン』。ここは名作の舞台として名高いが、実は食の宝庫でもある。

入り江にカラフルな漁師の家が並ぶフレンチリバー。素朴で美しい島には、景勝地もたくさん。

 これまで、プリンス・エドワード島に行くためにはトロントを経由していた。だが、2018年6月、エア・カナダが成田からモントリオールへ直行便を就航させたことで、乗り継ぎ時間が少なくなり、アクセスが飛躍的に便利に。

 モントリオールからプリンス・エドワード島へは国内線でわずか約1時間半。ロブスターが旬を迎えた6月初旬、今こそ! と、初フライトでプリンス・エドワード島へと向かった。

赤い岩と青い海のコントラストが美しいキャベンディッシュビーチ。絶景を眺めるドライブも島旅の楽しみだ。

 カナダの東海岸、セントローレンス湾に浮かぶプリンス・エドワード島は、一島でプリンス・エドワード・アイランド州を成し、島といっても、愛媛県と同じほどの面積がある。カナダが自治領として独立する際に建国会議が開かれたカナダ連邦発祥の地としても知られ、歴史も長い。

シーフードマーケットをハシゴしながら、おいしい牡蠣を満喫。

 成田を発ち、同日夜にプリンス・エドワード島に到着。翌朝、さっそく向かったのは、牡蠣の産地のひとつ、スタンレーブリッジだ。港には「ギャランツ・シーフード・マーケット」という小さなシーフードショップがあって、店内で獲れたてを食べることができる。

 島で獲れるのはマルペック・オイスターという品種。ニューヨークのオイスターバーでは最高級として扱われるブランドだ。

貝の甘みを感じるマルペック・オイスターは、牡蠣好きを虜にする味。

 牡蠣をオーダーすると、トマトベースのカクテルソースやタバスコも用意されるけれど、フレッシュな牡蠣はそのまま食べるのがいい。

 レモンをきゅっと搾って口に頬張ると……じゅわーっと広がる磯の香りと、ふんわりとした甘み。それでいて臭みはまったくなし。まだランチ前というのに、白ワインが欲しくなってしまう。

島でおいしいマルペック・オイスターが食べられるのは牡蠣漁師のおかげ。

 すぐ近くには、ニューロンドンという別の牡蠣の産地がある。ここで出会った牡蠣漁師のジョージに食べさせてもらった牡蠣もスタンレーブリッジに負けないおいしさだった。プルンとした食感と、濃厚な旨み、しつこくない後味。お腹いっぱいになるまで牡蠣を食べ続けたのは、これが人生で初めてだった。

Gallant’s Seafood Market
(ギャランツ・シーフード・マーケット)

所在地 10056 Route 6, Stanley Bridge, PE
電話番号 0902-886-2716
https://gallantspeifood.ca/

農場見学から始まる
5時間のスペシャルなディナー

食べることを目的に、「ジ・イン・アット・ベイ・フォーチューン」へ。

 食材が豊富なプリンス・エドワード島のキャッチフレーズはまさに、「Canada’s Food Island」。漁業に加え、農業や酪農が盛んなここは食べ物のクオリティーがとても高く、地産地消が盛んだ。

 そんな豊かな島にほれ込んだのが、カナダのスターシェフ、マイケル・スミス。彼は、有名な高級ロッジ「ジ・イン・アット・ベイ・フォーチューン」を購入し、個性派オーベルジュとして再生。コンセプトに惹かれた志の高い若き料理人たちがカナダじゅうから集まり、ここで働いている。

ナチュラルなインテリアの客室には暖炉を完備。

 「ジ・イン・アット・ベイ・フォーチューン」が位置するのは、島の東部にあるフォーチューンブリッジという村。プリンス・エドワード・アイランド州の州都であり島の中心地であるシャーロットタウンから車を1時間ほど走らせた、のどかな場所にある。

ダイニングにあるのは長テーブル。ここでリラックスして長い食事時間を楽しむ。

 この宿を訪れる目的は、ただひとつ。ご馳走を謳歌すること! 庭の畑で育ったハーブや野菜、目の前の海で獲れた牡蠣を使い、炭火でグリルした料理を食べる。といっても、ただテーブルで用意されるものを待つだけではないのが、この宿の特徴だ。

 夕食は、ファームツアー(農場見学)、オイスターアワー(庭のグリルと屋内の牡蠣ブッフェコーナーを食べ歩きながら楽しむ時間)、フィースト(ダイニングでのコース料理)の3部構成。トータルすると約5時間。まさに、「食の旅」の始まりだ。

ファームツアーでは、シェフとともに広大な庭の畑やハウス栽培を見学する。

 まずは、シェフとともに広大な庭へ。オーガニックで育てる野菜やハーブの畑を見て回る。途中、畑のハーブをもぎとって、その場でむしゃむしゃと味見することも。

かわいらしいハッピー・ピッグ。人間と同じ食材を食べてすくすくと育っている。

 庭では、野菜やハーブにくわえ、子豚も育てている。農場には、ブーブーと鳴きながら走り回るかわいらしい子豚が。レストランで余った食材を食べて贅沢に育つ豚たちは、「ハッピー・ピッグ」と呼ばれている。秋には、おいしいソーセージになってしまうのだけれど。

牡蠣ブッフェコーナーには、牡蠣に合うカクテルを提供する一角も登場。

 続いて、オイスターアワー。ゲストはドリンクを片手に、室内に用意されたブッフェで牡蠣、屋外のグリルコーナーでタコスやソーセージなどを食べながら自由に スポットを“ハシゴ”する。

 牡蠣は、シェフが漁師の船に同乗して選んだもの。とにかく食材のチョイスと凝った演出には驚かされるが、ここでお腹をいっぱいにするわけにはいかない。これらはあくまでもプロローグ。この後においしいコース料理が待っているのだから。

自家製ソーセージやタコスを屋外のグリルで地ビール片手に楽しむ。

フルコースの宴はサプライズの連続

庭でシャンパンを開けて乾杯。この後、着席のディナーが始まる。

 オイスターアワーを終えたら、いよいよフィースト(宴)と呼ばれるディナーの始まりだ。

左:ホームメイドのパンとバターが載った一品の名は「ブレッド・ツリー」。
右:壁には、パンの説明が。

 まずは、「ブレッド・ツリー」と名付けられたメニューから。釜焼きの天然酵母パンに添えられているのは、クリーミーなメープルバターや、レモンとタイムとフレッシュチーズをあわせたクリーム、パテ。まだ1品目というのに、食べ出すと止まらなくなる。

ボウルに入ったクラムチャウダーをイメージしていたら、こんなユニークな盛り付けで登場。テーマは「近くの海岸にあるもの」。木製プレートの上には、ロブスターの殻や漁師網、地ビールの蓋が。

 続いてクラムチャウダー。自家製ベーコン、ムール貝、ホタテなど具だくさんで、食べ応えあり。ワインの種類も豊富だ。濃厚なクラムチャウダーには、さっぱりとしたロゼワインがぴたりと合った。

炭火焼きのロブスターを使った「Today’s Catch」。

 そしていよいよ、メイン料理。オーブンで焼いたロブスターに、ラディッシュのソースと若芽をあしらった一品は、ありきたりのロブスター料理とは一線を画す味。

 ちなみに、今では高級品のロブスターも、かつては家畜の餌にされていた時代もあったのだとか。『赤毛のアン』にもロブスターは登場しない。それが、今ではこれほど立派な料理になるのだから、時代は変わったものだ。

ピューレはビーツ、にんじん、かぶの3種類。採れたての野菜と一緒に食べる。

 その後に肉料理……と思いきや、野菜が登場。2皿あるうち、「ハーベスト・ボウル」と名付けられた一方には土の上で採れた野菜が、「アース・プレート」と名付けられたもう一方には土の下で採れた野菜のピューレを載せるという、みごとな演出に感動!

左:島で育った牛のグリルにソースをかけて。
右:シェフたちが「お代わりはどう? もっと食べて!」と大皿で配り歩く。

 肉料理は、お皿にどーんと葉物野菜と牛肉を載せた一品。シェフたちがお代わりを配ってテーブルを練り歩くカジュアルな雰囲気も楽しい。

 楽しく長いディナーを終え、静かな環境でぐっすりと眠った翌日。

フレッシュジュースとスムージー、シリアル、ホームメイドのパン。

 「まだお腹は空いていないから、目覚めのコーヒーだけ飲もうかな」と足を運んだダイニングには、石釜でパンを焼くいい香りが。運ばれてきたスムージーとシリアルも見た目が面白く、朝食もしっかりとたいらげてしまった。

地鶏の卵で作った目玉焼き。手の込んだ朝食に、朝から幸せな気分になれる。

The Inn At Bay Fortune
(ジ・イン・アット・ベイ・フォーチューン)

所在地 758 Route 310, Fortune Bridge, PE
電話番号 0902-687-3745
http://innatbayfortune.com/

 プリンス・エドワード島の旅は、ただおいしい、珍しいというだけではない、食の好奇心が存分に刺激される旅でもあった。

芹澤和美 (せりざわ かずみ)

アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオ ノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.journalhouse.co.jp/

文・撮影=芹澤和美