ー女の市場価値は27歳がピーク、クリスマスケーキの如く30歳以上は需要ゼロなんて、昭和の話でしょ?ー

20代の女なんてまだまだヒヨッコ。真の“イイ女”も“モテ”も、30代で決まるのだ。

超リア充生活を送る理恵子・35歳は、若いだけの女には絶対に負けないと信じている。

周りを見渡せばハイスペ男ばかり、デート相手は後を絶たず、週10日あっても足りないかも?

しかし、お気に入りのデート相手・敦史が26歳の女を妊娠させたことが判明。しかも彼は、結婚後も理恵子との関係を続けたいと言い放った。




―これからも今まで通り、理恵子に会いたいんだー

敦史の言葉を思い出すたび、理恵子の胸には煮えたぎるような怒りが込み上げる。

これが、26歳の若い女を妊娠させた男のセリフだなんて信じられない。それだけでなく、この言葉は紛れもなく理恵子に向けられたものなのだ。

―なんでこの私が、敦史の愛人なんかに成り下がると思われるのよ...?

これまでの人生、多くの男たちから“高嶺の花”と散々称えられてきた。間違っても“既婚”というハンデを背負った男に「落とせる」なんて思われたことは一度もない。

自分はそんなに低レベルな女ではないのだ。

それが、外資系コンサルタントというエリート枠とはいえ、同年代のサラリーマンに愛人打診されるなど、理恵子にとっては屈辱以外の何物でもない。

―なんて身の程知らずな男なの...。でも、きっと私が優しく接し過ぎたせいなんだわ。

だが理恵子は、それは敦史の傲慢によるものだと判断を下した。

実際は、自分の女としての市場価値がジワジワと下降しているなど、まさか夢にも思っていなかったのである。


気持ちを新たにデートに赴く理恵子。次なるハイスペ男の詳細は...?


期待高まるデートに、舌なめずりで臨むヤバい女


翌日。

理恵子は気持ちを新たに、ドレッサーの前に座った。

肌を滑るようなシルクのガウンを羽織り、シャワーを浴びたばかりの肌にクレ・ド・ポー ボーテの基礎化粧品を丁寧にのせていく。

月に数回のエステを欠かさない理恵子の肌は、当然シミもシワも見当たらない。

それに、こうして金と手間をかけた肌には、単なる若さによって張りを保っていた頃よりも、すっと高貴で色香ある輝きを発していると思う。




肌だけでなく、体型だってそうだ。

ボリュームのあるGカップのバストの形を美しくキープするにはそれなりの下着やメンテナンスが必要だし、引き締まったウェストやヒップ、美脚だって理恵子の努力の賜物である。

女優やタレントならまだしも、一般人でこれほど美しく年を重ねていく女もちょっと珍しいはずだ。

よって、敦史の愛人打診や還暦の香港人など、少々面白くないことが続いたからと言って、いつまでもイライラと気に病む必要はない。

それこそ、眉間にシワなど刻まれてしまったら、悔やんでも悔やみきれないではないか。

―今日は航平くんとデートなんだから...。嫌なことは忘れないと。

理恵子は気持ちを切り替え、鏡に向かってニッコリと微笑む。

航平は、数年前に食事会で出会った同い年の医者だ。

都内の一等地にあるわりと大きな病院の跡取り息子で、当時は大学病院に勤めていたが、最近アメリカ西海岸の留学から帰国したという。

スペックも外見も申し分ない優男であったが、如何せん、お坊ちゃん特有ののほほんとした雰囲気や口調が理恵子の好みではなかった。

また、何度もデートに誘われたものの、提案される店のセンスもイマイチで、何となく二人きりで会う気にはなれなかったのだ。

だが、約2年ぶりに誘われ指定された店は、六本木ヒルズけやき坂にオープンしたばかりの「うかい」の新店舗『kappou ukai』であったため、理恵子は俄然興味が湧いた。

アメリカ留学を経てイイ年頃になった航平は、果たしてどんな男に成長しているだろうか。

心の中で舌なめずりをするような気持ちで、理恵子は目黒の自宅から六本木へ向かった。


再会した男は、理恵子の高飛車な理想を満たすのか...?!


外見も中身も変貌を遂げたボンボン医者


千本格子の扉を抜け、『kappou ukai』に一歩足を踏み入れると、六本木の喧騒とは離れた別世界が広がった。

栗の木から作られたという大きなカウンター席は、木のぬくもりとモダン様式が調和しており、雰囲気は抜群だ。




席に案内されると、そこにはすでに航平の姿があった。

「わぁ、理恵子ちゃんだ。久しぶり〜」

相変わらずののんびり口調に少し拍子抜けしたものの、航平の外見の変化には目を引かれた。

以前はかなりの色白で、身体の線も細く中性的な印象があったのに、今は胸板がしっかりした筋肉質な身体つきになっているし、肌も日焼けしている。

「久しぶり。何だか航平くん、変わったわね」

「実は、向こうでサーフィンにハマっちゃってさぁ。頻繁に海に通ってたら、焼けちゃったんだ。しかし、理恵子ちゃんは相変わらず本当にゴージャスで綺麗だなぁ。久しぶりに会えて本当に嬉しいよ」

航平はそう言ってニコニコと理恵子の顔を眺めながらも、慣れた様子で店員にコース料理を始めるように合図した。

理恵子は「ほぅ...」と心の中でつぶやく。幼い喋り方はさておき、わりと好みの男に成長しているようだ。

「じゃあ...素敵な再会に乾杯」

そうしてシャンパンを1杯飲み終える頃には、理恵子はすっかり上機嫌になっていた。

料理人が目の前で仕上げてくれる珠玉の料理は臨場感があるし、もちろん味も一流だ。そして、アメリカ帰りの航平は話題も豊富で、会話も思った以上に楽しめた。

「...理恵子ちゃんは、今は彼氏いるの?」

二人の空気もだいぶ打ち解けた頃、航平がおずおずと聞いてきた。

予想通りの展開であると、理恵子は心の中でほくそ笑む。

「今は、いないわよ」

「そうなんだ!どのくらいいないの?」

だが、この質問には言葉が詰まった。

一番のお気に入りであった敦史は“彼氏”とは言い難いし、実際、以前付き合った男とどれくらい前に別れたのか、正確な年月が思い出せないのだ。

「えっと...3ヶ月前くらいかしら」

少なくとも1年以上は特定の恋人がいた記憶はないが、理恵子は適当に返事をする。正直に答えて、1年以上も色気のない生活を送っている女とは思われたくない。

「へぇ、結構最近なんだね。じゃあ、デートしてる人とかはいるの?」

「まぁ、食事に行く人は、それなりにね」

ここは正直に答えた。当然ながら、理恵子は需要のないヒマな女ではない。

「航平くんはどうなの?」

「僕も...彼女“は”いないかな。それに、今は帰国したばっかりで仕事も忙しいし、ちょっと彼女とか作れる感じじゃなくて...」

―...は?

航平の意外な発言に、理恵子の頰はピクリと引き攣る。

2年前に会ったときは、親のプレッシャーもあるし、慣れない留学先で寂しい思いをするのも嫌で、今すぐにでも結婚したいと彼は必死で訴えていたのだ。

「じゃあさ...、きっと理恵子ちゃんはモテモテで忙しいだろうけど、たまにはこうやって僕とも美味しいご飯を食べてくれる...?」

すると航平は少し声を潜め、理恵子の膝のあたりにそっと手をおいた。

驚いて顔を上げると、そこには理恵子がよく知っているはずの純情な航平ではなく、瞳に狡猾な光を宿し、獲物に狙いを定めたが如くギラついた男の姿があった。


再び憤慨した理恵子の前に現れた元カレ。さらなる災難が襲う...?!


元カレの逆襲


理恵子はカツカツとマノロブラニクのヒールを鳴らし、六本木のけやき坂を歩いていた。

―何なのよ、あの男。イイ年して、急にアメリカかぶれて調子に乗ってんじゃないわよ...!

航平の発言に憤慨した理恵子は、場所的に空気を読んでその場では怒りを堪えたものの、二軒目に行こうという提案を無視して店を出た。

だが、時刻はまだ22時過ぎ。

気分は害されたままだし、お酒もまだ飲み足りず、このまままっすぐ家に帰る気にもなれない。

すると、タイミングよくスマホが振動した。

「おっ、理恵子?今何してんの?実は今、面白い奴と西麻布で飲んでるんだ。合流しない?」

電話の相手は、長年の男友達である拓巳だった。

もったいぶっていて詳細はよく分からないが、理恵子はとにかく飲みたい気分のため「すぐ行くわ」と返事をした。

フットワークの軽さは、デキる大人の女の余裕である。




しかし、西麻布の交差点にほど近い日本酒バー『twelv.』にて、拓巳の隣で顔を赤らめていたのは、なんと理恵子の元恋人の新太郎だった。

「理恵子!相変わらずフットワークが軽くていいねぇ」

拓巳はテンション高めで理恵子を迎えるが、新太郎はギョッと目を剥いている。

新太郎は、まだ理恵子が30歳になる前に付き合っていた同い年の男だ。かなり熱心に口説かれ、1年ほど真剣に交際していたが、結婚願望と束縛が少々面倒で、理恵子の方から別れを告げたのだ。

「実は新太郎......昨日、離婚が成立したんだってさー!今日はお祝いだから楽しく飲もうぜ!」

彼が結婚したことは風の噂で聞いていたが、離婚とは初耳だ。

だが、新太郎は今時珍しいほど古風で亭主関白気質の男であったから、結婚生活が上手く行かなかった原因は聞かずとも何となく想像がついた。

「あら、そうだったの...。お疲れさま」

若干の気まずい空気を振り払うように、3人は日本酒で乾杯した。

だが、明るい拓巳とは対照的に、新太郎は仏頂面でチビチビとグラスに口をつけている。

彼は理恵子と付き合っていた頃は外資系メーカーのマーケターをしていたが、その後転職が功を成し、ベンチャー企業の役員に収まっていると聞いた。

しかし一つ気になるのは、歌舞伎役者風のキレのあるその顔立ちに、かなり肉がついていることだ。血色も悪く、以前と比べると、ずいぶん“おじさん”の風貌になっている。

あるいは、離婚や仕事のストレスが顔に滲み出ているのだろうか。

「新太郎、落ち込んでるの?まぁ、いいじゃない。結婚生活なんて窮屈だったでしょう。しばらくは自由を満喫しなさいよ」

そんな新太郎に適当に声をかけてやると、彼はジロリと理恵子の全身を無遠慮に一瞥した。

「...理恵子みたいなヤバい女に、俺の苦悩が分かるわけないだろ。今さら自由を満喫する年じゃないんだよ」

「は...?ヤバい...?」

「ヤバいどころか、イタイだろ。日曜の夜に呼び出されて10分で西麻布に参上する35歳の女なんて、見たことねーよ」

付き合っていた頃は、理恵子にベタ惚れで、別れの際には涙すら見せていた新太郎。

彼の悪意に満ちた攻撃的なセリフに、理恵子はただ呆然と言葉を失う以外に術がなかった。

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バツイチの元彼との本気バトルが始まる!その勝敗は...?!