スズキはロングセラーの本格軽4WD「ジムニー」を20年ぶりに全面刷新して、7月5日に国内で発売した(撮影:尾形文繁)

丸形ランプにタフなスクエアボディ。世界最小クラスの本格4WD(4輪駆動車)が実に20年ぶりに新たな姿を見せた。


スズキが「ジムニー」とあわせて発売した小型4WDの「ジムニーシエラ」(撮影:尾形文繁)

スズキは7月5日、山岳地帯など悪路の走行を得意とする4WDの軽自動車「ジムニー」と1.5リットルエンジンを搭載した4WDの小型自動車「ジムニーシエラ」を国内で発売した。同日開いた発表会で鈴木俊宏社長は「ジムニーは日本が世界に誇れる唯一無二のコンパクト4WDだ」と強調し、その仕上がりに自信を示した。


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ジムニーは1970年に初代が発売され今回で4代目となる、半世紀の歴史を持つロングセラー車だ。強靭なフレームなど伝統の基本構造を継承し、悪路での走破性を一段と進化させたほか、衝突防止など最新の安全技術も新たに装備した。

価格はジムニーが145万8000〜184万1400円、ジムニーシエラが176万0400〜201万9600円(税込み)。いずれも5速MT(手動変速機)と4速AT(自動変速機)を設定。駆動はパートタイム4WDで、路面状況に応じ、オンロードでは後輪駆動の2WD、悪路や登坂路では4WD(高速または低速)といった選択が可能だ。年間の国内販売目標はジムニーが1万5000台、ジムニーシエラが1200台。

高い走破性能はプロのお墨付き

特長は、小さくても屈強なボディを持ちどんな悪路でも走破できる、まさに“プロユース”のオフロード車であるということだ。実際、世界中のプロに愛用されている。豪州では広大な農場でピックアップとして利用され、欧州ではハンターや森林保全関係者が使用している。また日本でも狭い道を走る林業や山岳、豪雪地帯などで活躍。またそうした過酷な地域に住んでいる日常生活者の足としてもニーズを満たしてきた。雪道や凸凹道も走れることから災害時にも強く、消防専用車や砂漠仕様などの特別車も見られる。


新型ジムニーのトランクルーム。プロはもちろんのこと、一般ユーザーがアウトドアで使うことも想定している(撮影:尾形文繁)

開発責任者の米澤宏之チーフエンジニアは、「スズキといえばジムニーとされるほど愛されてきた車で、普通の車とは違う特別な思いがある」と話す。そのうえで、今回の新型ジムニーも「とにかくプロユーザーをメインターゲットに開発した」と断言。「プロユースにこだわることで、日常生活者にも使いやすくなる。さらに、プロにあこがれる一般ユーザーにも魅力的に映ると思う」と話す。

実際、ジムニーの“本物”へのこだわりは強い。最近はアウトドアブームで街乗りもしやすいSUV(スポーツ多目的車)の人気が強いが、ジムニーはそれらと一線を画す。こうしたSUVは一般的な乗用車と同じ構造で、ボディとフレームが一体化した「モノコックボディ」を採用している。モノコックボディだと、悪路で大きな衝撃が加わった場合、ボディ全体で衝撃を受け止めるため、車体全体が歪み、最悪の場合は走行不能になる可能性もある。


スズキの新型ジムニーが採用するラダーフレーム構造。衝撃に強く、耐久性にも優れる(撮影:尾形文繁)

だが、ジムニーはトラックなどと同じ「ラダーフレーム構造」を採用している。この構造はフレームの上にボディが載った形をしており、はしご状に組んだ頑強なフレームが衝撃を吸収する仕組みで、衝撃に強く耐久性に優れているのが特長だ。今回はさらに、先代に比べねじり剛性を約1.5倍に向上させた、より変形しにくい頑丈なラダーフレームを新開発した。

もっともこうした本格4WDは世界でもそうそうたるメーカーが投入している。39年ぶりにフルモデルチェンジした独メルセデス・ベンツ「Gクラス」は世界トップレベルの走破性能を誇り、ほかにもフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の「ジープ・ラングラー」、トヨタ自動車「ランドクルーザー」や「ハイラックス」などが居並ぶ。

ジムニー誕生の立役者は修会長

ただ、いずれも排気量が大きく、車体は大型で販売価格も高価だ。これに対して、スズキジムニーは発売以来、世界的に見て類のない小さな本格4WDとして、取り回しのしやすさやリーズナブルな価格で比肩するライバルはいない。まさにスズキを世界的な4輪車メーカーに格上げしたのが、ジムニーと言っても過言ではない。


左から初代、2代目、3代目の順番に並んだ歴代のジムニー。代を重ねても基本構造は踏襲されている(撮影:尾形文繁)

そのジムニーを見いだしたのが現在の鈴木修会長だ。まだ常務だった東京駐在時代に、4WDの軽自動車を造っていた「ホープ自動車」を知り、そのユニークな車に一目ぼれ。製造権を買い取ってスズキ流アレンジを加えた。参考にしたのがジープだ。車体にはほとんど丸みがなく、ゴツゴツしたデザインが強烈だったという。ホープの車を基にスズキがエンジンも含め改良を重ねて完成。車名はジープ型の軽自動車として「ジープ」と「ミニ」を合成し、「ジムニー」にしたのが始まりだ。


新型ジムニーの内装は黒を基調にシンプルにし、運転に集中できる環境を整えた(撮影:尾形文繁)

当時は社内で「こんな車が売れるわけがない」と反対されたが、ふたを開けてみると大人気に。「ホープ自動車に支払ったライセンス料はわずか3カ月で元が取れた」と自伝で述べている。今回の会見には修会長は姿を現さなかったが、「48年前に生まれた原点に近い本格モデルに仕上がったのをうれしく思う」と異例のコメントを寄せるほど、ジムニーへの思い入れが強い。

ただ課題もある。ジムニーは半世紀の歴史を持ち、世界累計販売は285万台を超えるロングセラーだ。しかし、年間の世界販売は約5万台と、会社全体で300万台規模のスズキにとってはわずかだ。今回の新型車も「新型になったから伸びるというものではない」(俊宏社長)としており、台数目標は控え目だ。

スズキのDNAを守り続ける

また唯一無二の存在なだけに、開発効率や生産性という面では厳しい。多額の投資をして新開発したラダーフレームは他車種との共用化がしにくい。生産も他車種を含めた混流ラインが難しく、コスト回収には時間がかかるのは否めない。実際、スズキのある開発担当者は「フルモデルチェンジの話が浮上しては何回も消えた。採算性が問題だった」と打ち明ける。業界が100年に1度の変革期を迎え自動運転や電動化に開発費を投じる動きが多い中、俊宏社長も「こうした車は造りづらく、売りづらくなっている」と認める。


鈴木俊宏社長は、新型ジムニーの発表会でスズキの車づくりについて熱い思いを語った(撮影:尾形文繁)

それでも今回刷新に踏み切ったのは、スズキのDNAが詰まった車種だからだ。会見では「売れる車に投資を集中したほうがいいのではないか」という趣旨の質問も出たが、俊宏社長は「ジムニーがあったからこそ、この後に発売した『アルト』『エスクード』『ワゴンR』へもその独創性が受け継がれた」と話す。さらに「スズキは自動車業界ではそんなに大きくない。その中で光る車づくり作りをしないと世界で認知されない。お客様に『ワオ!』と言われる車づくりを今後もしていきたい」と力を込めた。

決して大ヒットはしなくても、地道なロングセラーであり続けてきたジムニー。先代から20年の年月を経る中で、自動車業界の環境も大きく変化している。はたして“ジムニスト”はどう反応するか。