防犯カメラ解析AIスタートアップ、VAAK代表取締役の田中遼氏(写真:Ledge.ai編集部)

すでに中国ではスマートグラスや鳥型ドローンによって、人を監視する取り組みが活発おこなわれていますが、ご存知でしょうか?

“AIが人間を監視する社会”はもうすぐそこまで来ており、それは日本も例外ではないかもしれません。


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株式会社VAAKは、AIによってリアルタイム動画解析から得たデータと天候や時間、地理的なデータを統合的に分析することで、監視カメラに映る人物が万引きする確率、万引き犯の来店日時などを予測します。

監視カメラと外部から得られるデータを使うことで、防犯、マーケティングをはじめとする、さまざまな領域に波及した活用ができ、大きな可能性を秘めています。

果たしてディストピアになってしまう可能性はないのか……。そんな懸念を抱きつつ、VAAK代表取締役 田中さんに監視カメラによる防犯AIと、その先に描くビジョン、いかにしてAIによる“正しい監視社会”を目指すのか、インタビューしてきました。

100種類を超えるデータをリアルタイム解析し行動予測

――さっそくですが、AI監視カメラの仕組みや、具体的にどのような解析をしているのか、気になって仕方ないです。

田中氏:ディープラーニングを使った物体認識や顔認識はもちろんですが、VAAKのAIは、体の関節や人物の属性など、計100種類を越えるデータを統合的に分析しています。地域周辺の犯罪発生率や天候などのマクロ視点のデータと、人間の行動を解析することで得られるミクロ視点のデータ、この2つを組み合わせて解析することで、人の行動を予測したり、再来店日時を予測しています。


(写真:Ledge.ai編集部)

物体認識から顔認識、統合的な分析手法まで、使われているAIはすべて自前で開発しているVAAK。

行動解析の分野はさまざまな手法がありつつも、結果が出ている企業や研究機関はほとんどない一方で、VAAKはAIによる行動解析で高い精度を出していると言います。

監視カメラによるリアルタイム行動解析から得られるミクロ視点のデータは、

・属性(性別や年齢)・商品・環境(周りに人がいるかどうか)・動き

マクロ視点のデータは、

・時間・天候・店舗・地域

などが挙げられ、これらを統合分析することで「人の目的」というデータまで取れるそうなんです。

――人の目的がデータとして取れるって、一体どういうことなんでしょうか……?

田中氏:目的は、人の年齢や目線、歩くスピードやその歩幅と、その他のデータの組み合わせから分析することで、導きだすことができます。たとえば飲み物を買いに来た、トイレに来たというような目的です。目的がわかることで精度の高いレコメンドや分類を行うことができます。
データの組み合わせ次第でさまざまなデータが取れますし、リアルタイムに人を認識・解析することで得られる情報のパワーは計り知れないんですよ。

あらゆるデータから万引きを見つけ出すというAI。実際のデモ動画があるので、その実力をご覧ください。動画はこちら

「画面には、ターゲットを解析したデータなどがリアルタイムで表示されます。商品を手に取っているだけでは万引き犯である確率は低いのですが、キョロキョロしたり、万引きをおこなった際に万引き犯として検知しています。これが実際の店舗の場合、万引き犯である確率が高くなった時点で店員にアラートが飛び、万引きを防止できるという仕組みです」(田中氏)

AI監視カメラは破格の導入コスト

―― ここまでお話を聞いただけでも、監視カメラから得られるデータは防犯だけでなく、マーケティング領域で活用したら“ヤバイ”ですよね。その導入コストも相当高いのではないでしょうか?

田中氏:これは弊社の強みでもあるんですけど、導入コストは費用的にも設置工数的にもかなり低いです。というのも、VAAKのAIはほとんどのカメラに組み込むことが可能なんですね。すでに設置済みの監視カメラでも。ですので、初期費用も抑えられますし、4台の監視カメラで月額4~5万ほどで導入できます。

月額4~5万円という、なんとも破格の料金設定。料金だけではなく、その導入効果も相当期待できます。


(イラスト:Ledge.ai編集部)

年間10.4万時間の削減……。予想以上の効果。こちらの導入効果は実証実験の経過から見込んでいる数字です。

「万引きに気づくのはだいたい事後で、従業員が何時間もの労力をかけて録画した映像を見返すだけでも、相当なコストです。そこに割いていた時間がなくなるとすると、これくらいは削減できてしまうんですね」(田中氏)

従来では考えられないほど効率的に万引きを防ぎ、相当なコストカットを実現するVAAK。

さらにいうと、活用の幅は防犯に限りません。人の行動を予測して、さらにその目的まで予測することで、リアルタイムで最適な商品レコメンドや高い精度のプッシュ通知などが可能になります。

「AI × データ解析で、だれが、なにを、なぜ、どうしたかという、購入後はもちろん、購入前のデータも取れるので、そこに対して施策を打てます。どのような属性の人がどのような色形の商品に手をのばすのか、商品を手に取ったが棚に戻したなど、これまで取れなかったデータが取れるようになるのは強いですね」(田中氏)

防犯だけでなく、マーケティング領域でも大いに活用できるAI監視カメラ。導入のハードルも低く、すでに1000店舗以上を持つ最大手企業との実証実験もおこなわれています。

目指すのは「AIによる“正しい”監視社会」の実現

――導入のハードルが低く、監視カメラが設置されていない場所のほうが少ないこの時代。既存の監視カメラに一気にAIが搭載されるのも、そう遠くなさそうですね。

田中氏:VAAKのビジョンは “予測ありきの社会を作る”です。弊社のシステムなら既存のカメラをすぐにAI化できるので、世の中の監視カメラがすべてAI監視カメラになるのは時間の問題だと思っています。

つまり、“AIによる監視社会の到来”がもうすぐそこに。

――これは、ディストピアという側面もありそうですが……。

田中氏:よくその話題にはなるんですが、データを取られるからディストピアなのではなく、データの使われ方によってディストピアに陥ってしまうという話ですよね。ディストピアでよくある行き過ぎた監視や、監視側のモラルハザードというのは、知らないところでデータを取っていたり、管理体制がずさんだったりすることによるものです。データが期待される形で利用され、そのメリットを享受できる透明性、そして悪用できない仕組みを作っていくことが、“正しい”監視社会への道ではないでしょうか。
イメージは、映画の『マイノリティ・リポート』の世界観です。

犯罪を予測して事前に阻止することが可能な世界を描いている映画『マイノリティ・リポート』。これを現実の世界で目指しているのがVAAKですが、デモを見たりお話を聞くかぎり「無理でしょ」とは思えません。

「今後は精度を高めていきたいのと、将来的にはスマートグラスにも組み込みたいですね。人がコミュニケーションしているときの表情や感情、環境を分析することで、またおもしろいデータが取れそうですし」(田中氏)

人の表情や瞳孔、感情というデータと、お店、AI監視カメラが連動したとき、一体なにが可能になるのか、どのような社会になっているのか、無限の可能性を感じます。

さらにVAAKは「無人レジ」の事業にも取り組んでいるといいます。先ほどのAI監視カメラから得られるデータと無人レジの相性は抜群ですし、実際の店舗に導入されたあとの世界を想像すると、ワクワクが止まりません。

取材・文:河村健司

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