コーヒーの定額サービスは何杯飲めば元が取れるのでしょうか(写真:kimrawicz/iStock)

今やすっかりコンビニの顔となったものといえばセルフ式のコーヒーだろう。挽きたてのコーヒーが1杯税込み100円からという安さに、どれだけのビジネスパーソンが救われているか。


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男女1万人に聞いた「コンビニコーヒーに関するアンケート調査」(マイボイスコム調べ)によると、コンビニエンスストア利用者のうち、直近1年以内の購入者は6割、週1回程度の購入者は2割強だという。オフィスランチの帰りにコンビニに寄ってテイクアウト、という人も多い印象だが、この調査では意外に少ない。

いいや、自分は毎日コーヒーが欠かせないぞという人なら気になるのが、「定額制」カフェという存在ではないだろうか。月額料金を支払えば、本格派コーヒーが何杯でも気兼ねなく飲めるという。西新宿や飯田橋に店舗を持つ『coffee mafia』、自由が丘にある『ALPHA BETA COFFE CLUB』、関東のほか大阪・京都にも展開する『ハンデルスカフェ』が代表的なところだ。

このところ、あらゆるジャンルで「定額制ビジネス」が流行っている。小難しい用語ではサブスクリプションサービスといい、モノではなく一定期間の利用に対しおカネを支払うというビジネスモデルだ。月額料金を払ってネット動画や雑誌コンテンツの配信サービスを利用している人は多いだろう。このサブスクリプション方式が飲食店のジャンルにもひたひたと押し寄せてきている。その1つが、定額制カフェというわけだ。

さて、定額制と聞くと誰もが考えるのは「何杯コーヒー飲めば元が取れるのか」ということではないか。カフェによってシステムに違いはあるが、ざっと計算してみよう。

おおむね月に10杯から18杯を飲んでトントン

まず『coffee mafia』は、月額3000円と6500円のコースがある。3000円コースだと、通常1杯300円のラージサイズコーヒーをいつでも無料となるが、1来店につき1杯までと制限がある。6500円になると、すべてのソフトドリンクが無料(スペシャルティコーヒーを除く)、ただしやはり1来店につき1杯まで。単純計算すれば、3000円コースではラージサイズコーヒー10杯以上、6500円コースでは22杯以上となった(どちらも、コーヒー無料のほかアルコールや料理の割引等の特典あり)。なお、月額会員特典は全店共通で使える。

次に『ALPHA BETA COFFE CLUB』。こちらは月額9000円と、ちょっとお高い。

使用する豆は、インドネシアのスマトラやエチオピアのイルガチェフェからの高品質なものを使用している。ラテ500円、ドリップコーヒー500円、エスプレッソ450円など6種類が飲み放題になる。ドリップコーヒーだけで計算すれば18杯飲めばトントンということに。

『ハンデルスカフェ』は、「エンジョイWORK!FREE DRINK MEMBERS」になると、コーヒーや紅茶、ラテ、ロイヤルミルクティーなど14種類のドリンクが1カ月飲み放題になるという。こちらは店舗によって月額が異なる。池袋東武店は3900円なので、こちらで試算してみるとする。コーヒーのレギュラーサイズが350円、ラテは400円だから、コーヒー12杯、ラテ10杯ということになった。

10杯という数字は、週に2〜3回利用すれば達成可能だ。この程度なら納得できるという人もいるのではないか。

オトクかどうかをコンビニ価格で比較してみた

ただし、その店の単価だけで元が取れる、取れないを論じるのはナンセンスだろう。最初に述べたように、普段は100円のコンビニコーヒーを利用しているわれわれのような、コーヒーは好きだけれど味にそれほど詳しいわけではない、コスト重視の人たちにとっても、検討に値するシステムかを考えてみたいのだ。

先のアンケート調査のうち、「ほぼ毎日利用する」「週に4〜5回利用する」という回答を合計すると、その割合は全体の約5%程度。週2〜3回の利用が約7%。決して多数派ではない。

ひとまず、よくコーヒーを飲む人をモデルケースとし、週3回×4週、月に12回コンビニコーヒーを利用していると仮定する。そうすると支払う費用はSサイズの100円コーヒーなら1200円、Mサイズ150円を買う人なら1800円となる。

ヘビーユーザーでウイークデーの20日間毎日利用するなら、2000円(S)と3000円(M)。先述した定額カフェは、最安のところで3000円、最高で9000円だ。この数字を比較して、オトクなサービスと判断するかだろう。

なお、これがコンビニユーザーではなく、スタバユーザーになると話は変わってくる。ショート280円で計算すると、週3回利用で3360円、トール320円となると3840円。なかなかいい数字に近づいてきた。スタバに足しげく通う層なら、定額カフェという選択はありということになりそうだ。

そんな野暮な計算ばかりしていてはいけないのかもしれない。コーヒーに詳しい人からお叱りを受けそうだ。

そもそも、こうしたカフェはただコーヒーが飲み放題になるというメリットだけを推しているわけではない。オフィスを持たないノマドワーカーや、営業マンがお客と打ち合わせする場として、飲み物付きスペースを提供するのもカフェの役割でもある。つまり、月額1万円以下で、東京都内にサテライトオフィスをキープしているのだという考え方に立てば、価格の妥当性も変わってくる。

筆者もよく取材や打ち合わせに都内ホテルのラウンジを利用するが、コーヒー1杯が1000円近くするものだ。そして、周囲には商談中と思しき面々がずらりといる。もし、ビジネスでこれを週2回やっていれば、自分のコーヒー代だけでもう8000円になる。

ちなみに、東京都内のコワーキングスペースの利用料をいくつか見てみると、フリーアドレス(机のみ利用)で、月額9900円、1万円、2万円以上、また別途入会金が必要な場合もある。ワークに必要な設備の充実度は当然こっちのほうが優れているが、普段からスタバで資料まとめ等の作業をしている人で、定額制カフェがあるエリアが自分の行動範囲と合致するなら、悪くない選択となるだろう。ただし、店によって立地や広さ、普段の混雑具合はかなり違うので、それも合わせて考える必要ありだ。

サブスクリプションサービスがどんどん増える理由

月額制を取り入れる店舗側のメリットについても考えてみよう。

まず、こうしたサービスに興味を持った人が、一度は現地を見に訪れるだろう。会員になる前にコーヒーの味を確かめに来るはずだからだ。これは立派な来店動機になる。次に、晴れて会員になった場合は、せっかく月額会費を払っているのだから元を取ろうと足しげく通う。ついでにそこで軽いランチをとったり、3時のおやつにスイーツでも食べるかもしれない。その分は月額にはカウントされていないので、店にとっては新たな売り上げになる。

さらに、会員になっていることをちょっと自慢したくなり、友人を連れてくるかもしれない。その友人のコーヒー代は別料金だ(ここは店のシステムによって少々違う)。気になる相手を誘う口実にも使えそうだ。その場合、コーヒーだけじゃなくアルコール類を楽しんだりという流れにもなりやすい。ますます客単価が上がるというサイクルだ。

それに、いったん月額会費を支払うことが習慣化すると、やめる手続きが面倒になるという側面もある。定額制カフェとは別の話だが、アプリなどの有料会員サービスになっていて、そのまま習慣化し月500円程度の会費を延々と払いつづけている人は多いはずだ。

当然ながら、先払いしたおカネは、その後の利用状況にかかわらず取り返すことはできない。月額会員になったあとはコーヒーを1杯飲んでも10杯飲んでも同じことだ。「この価格に見合う使い方ができるか、価格分のサービスを受けられるか」は、会費を払う前にシビアに検討しなくてはダメなのだ。

コーヒーを好きなだけ、もしくはさまざまなドリンクを何杯も飲みたいならファミレスのドリンクバーに行くという選択だってある。定額制がトクなサービスか否かは、自分がコーヒーそしてカフェに求めるものによって判断したほうがいい。なお、どうせならコンビニ各社がこの定額コーヒー会員制度を打ち出せば面白い気がするのだが、どうだろう。

なお余談だが、コンビニコーヒーを愛している筆者が、カフェのこだわりのコーヒーを飲んだら感動するかもしれないと出向いてみた。あくまで個人の感想だが、その体験からは美味しいコーヒーであればあるほど、ぐいぐい何杯も飲めないものだと感じた。飲み放題と言われて調子よく何杯でも飲めるのはビールくらいかもしれない。そのあたりもぜひ、自分の舌で確かめたうえで検討してほしい。