「3カ月サイクル」を強く意識することで、悪循環から抜け出せるかもしれません(写真:AndreyPopov/iStock)

「やりたいことがあるけれど、なかなか時間がない」「いつも、やらなければいけないことに追われている」……。そう悩み、試行錯誤している人は多いのではないでしょうか。
「3カ月サイクル」を強く意識することで、その悪循環から抜け出せるかもしれません。グーグル時代に、クラウド会計ソフトシェアトップの「freee」を構想した佐々木大輔氏が、その考え方について語ります。

グーグルの3カ月サイクル

僕はかつて、仕事で成果を出すためには、基本的にひとつのアプローチしかないと考えていました。「仕事を効率化して、処理するスピードを速めて時間を捻出する」それしかない、と。

しかし2008年にグーグルに入社して以降、「時間」に対する僕の考え方は変わりました。グーグルで一緒に働いた仲間たちは仕事できっちり成果を出します。ただ、必ずしも長時間働いているわけではなく、プライベートや家族との時間をとても大切にしていて、人生の過ごし方に対する満足度も高いのです。

グーグルの社員の働き方は多様で、個人個人の裁量に任されている部分も多かったのですが、プロジェクトの成果は厳しく問われます。驚いたのは、四半期、つまり3カ月ごとの成果を徹底的に管理していたことです。

3カ月で成果を出せない人やプロジェクトはどんどん忘れ去られます。結果が出せないと突然予算が削られるし、チームがなくなる可能性だってあります。人事異動も3カ月で行われることが少なくありませんでした。したがって、スタッフはみんな、「3カ月」という時間のサイクルを強烈に意識していました。

この「3カ月サイクル」は僕にとっては大きなカルチャーショックでした。シビアではありましたが、スピード感があって面白く、飽きることがない。ものすごい勢いで自分の成長を感じられることも刺激的でした。

僕自身、「3カ月」というのは、1つのことに集中でき確実に変化を起こせる最少単位だと感じています。事業や経営は3カ月では変わりませんが、考え方や成功体験など、人生の転機という発想で見れば、3カ月あれば何らかの手ごたえを得ることができると思います。

僕の会社が展開する「クラウド会計ソフト freee」の開発も、3カ月がポイントでした。

グーグルでは、日本、そしてアジアの中小企業向けのマーケティング業務を担当しましたが、そのなかで日本の中小企業におけるITの導入、活用が進んでいないことに僕は強い危機感を持ちました。それがサービスを構想したきっかけです。次のステップはそれをどう形にするか、です。

まずは、3カ月で原型となるものを自分でつくってみようと、プログラミングを勉強し直すことにしました。日中はグーグルで働いていたので、朝6時に起きて、出勤までの2時間くらいを朝のプログラミングの勉強時間にあてました。夜は、仕事が終わって6時から夜中の1時くらいまで没頭していたので1日4時間くらいしか寝ていませんでしたが、眠いと思ったことは一度もありませんでした。

そのときの3カ月間で得られたことは、まずはソフトのアイデアを何とか具体化できたこと。そしてもう1つ、「最悪、自分1人でも、そこそこつくることができるかもしれない」という手ごたえを得たことでした。とりあえず、1人でもなんとかなるという感触を得られたのは、とても大事なことだったのです。

ただ、僕はプロのエンジニアではないので、「ビジネスとして展開するには、それに耐え得る仕組みを一緒に開発し運用できる人が必要だ」と思い、次の3カ月のテーマは、「『クラウド会計ソフトfreee』を一緒につくることができる仲間を探す」ことへとシフトしていきました。

そして、このような3カ月の積み重ねが今につながっているのです。

3カ月の取り組み方

僕の会社では「向こう3カ月の時間をどう使うか」を重視しています。その際、具体的には次のような点に留意しています。

・「やるべきこと」よりも、まず「やらないこと」を決める

向こう3カ月の行動に優先順位をつけるとき、このことを大事にしています。みんな、やるべきことは多く抱えていますが、たとえば、僕個人の場合、「この3カ月ではやらない」「このジャンルには手をつけない」「こういうミーティングには出ない」「こういうことは人にお願いする」というように、まず「やらない」ことを先に決めてしまいます。

「やらないこと」を基準にフィルタリングしていくと、かなりの量の「今はやらなくてもいいこと」がそぎ落とされます。すると、「すぐできること、かつ絶対にやらなければいけないこと」がおのずとあぶり出されるので、そういう優先度の高いものをスケジュールに組み込んでいきます。

また、freeeという会社単位では向こう3カ月の目標と行動を、「OKR(Objectives and Key Results)」という指標によって管理しています。

これは、Objective(目的や大目標)を設定し、それに向かってものごとが進捗しているか、あるいはそれが達成されているかどうかを判断できるような、なるべく定量的に表現できる Key Results (結果指標) をセットし、その達成を目指してものごとを進めていく管理手法です。

優先度が高いミッションを自覚し、OKRを意識しながら主体的に行動することが目標達成のカギとなります。さらにその3カ月を振り返り、次の3カ月のテーマを決める。その積み重ねが、より大きな目的に近づくためのプロセスになります。

・自分でコントロールできるゴール(目標)を設定する

3カ月間に設定するゴール(目標)に自分にコントロールできない部分があると、達成するために何をやるべきかが見えず、とにかく頑張るしかなくなってしまいます。たとえば、営業担当の人なら「売上目標100万円」という目標にはお客様次第の部分も多いのが現実でしょう。

目標を達成する見通しが立たない状況に翻弄されるのは、気持ちのいいものではありません。この場合は一歩手前の「クライアントへの訪問件数20件」などの、自分がやるべきことに的を絞った行動目標を設定するべきです。

「何に」「どれくらい」取り組めばいいのかが明確な目標があれば、行動に移すイメージが描きやすく、実現する可能性が高まります。

複数テーマの同時進行は、言い訳を生むリスクが

・プロジェクトは同時並行せず一点集中

これは、プロジェクトを確実に進めるためのポイントの1つだと考えています。とくに3カ月で何らかの成果を出すには、1日あたりそれなりの時間を注ぐ必要があります。高度な思考を伴うものや、新しい価値を生み出す場合はなおさらです。

複数のテーマを同時並行で進めようとすると、お互いのプロジェクトを言い訳にしてそれぞれが進まなくなる可能性が高くなります。

3つのプロジェクトがあるとすれば、「Aをやろう、いや調子が悪いからBにしよう、でもやっぱりCが先だな」という具合です。「どれにも集中していない」というムダな時間を過ごすことになりかねません。そのくらい人間は本来怠け者だと心得ておくほうがいいかもしれません。

もし、どうしてもいくつかのテーマを並行せざるを得ないなら、「Aが忙しかったから、Bはできませんでした」という状況だけは避けなければなりません。細かく計画をつくるなり、進捗を確認するためのマイルストーンを立てるなりして、「今すべきこと」に集中するための工夫が必要でしょう。

・細部でつまずかない

探求心は大切ですが、3カ月間で成果を出すことにこだわるなら、細部に入り込みすぎないことも重要です。

たとえば、数学も「1ってどういう意味? そもそも1って何?」と考え始めると大変です。最初は「1+1=2」ということをまずは受け入れて、学ぶ。いわば、先人の力を受け入れて、利用できるものは利用すればいいのです。


細部でつまずいて、たびたび立ち止まってしまう、ということは実際に少なくありません。プログラミングやデータサイエンスでもそうです。プログラミングの本を読むと、概念がたくさん書いてある。最初から1つひとつ納得して進めようとすると大変です。

その時点で深くわからなかったとしても、まずは全体をななめ読みをしてみて、とにかくいろいろな例題をどんどん解いてみる。それで、プログラムをいち早く自分で動かしてみるのが大切です。

実際にプログラミングをするときも、「この場合、なんで動かないの?」といちいち立ち止まっていては先に進みません。「これは動く、これは動かない」と割り切って、いったんいろいろなことをやってみる。エラーで動かないとき、よくよく考えてみると単に1文字違っていたなんてこともあります。

細部はわからなくてもいいから、とりあえず1周やってみる。「わからないこともあるけれど、できている!」「ひととおりできた!」というような達成感や充実感を、なるべく短いタイミングで味わえるようにする。これが、モチベーションを高く保ったまま3カ月を走り抜ける秘訣です。

3カ月あれば世の中に大きなインパクトを与えられる

グーグルへの入社は僕の人生において1つの大きな転機になりました。カルチャー自体に影響を受けたし、「世界中のトップエンジニアとビジネスエリートが一緒に働く場所」にいたことも、自分が変わるきっかけをあたえてくれたと思います。

その結果僕は、キャリアの途中から「人が取り組んでいないけれど、自分が貢献できるテーマを選ぶこと」をもっとも意識するようになりました。こういう考え方をもつことで、「起業」という選択肢が身近になり、リスクもとりやすくなりました。

たった「3カ月」の努力で、世の中に大きなインパクトを与えられることがたくさんある。そして、世の中には誰も手をつけられていない課題が、まだまだたくさんあるのです。