構造的に「無能」になる理由

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不毛な国会

 日朝首脳会談が実現に向けて動き出そうと、関西で大地震が起きようと、国会で「モリカケ問題」を追及する。そんな一部野党の姿勢には、多くの国民が冷ややかな視線を送っているのだろう。野党の支持率は一向に回復しない。

「もっと大事な議論があるはずじゃないか。社会保障、安全保障、経済政策などについて本格的な議論がなぜできないのか」

 そう感じている人も少なくないはずだ。

 こうした声に対して、野党側の論理は「安倍政権のような不正直な姿勢の人たちとは議論できない」というものかもしれない。

 が、そもそも現政権下に限らず、国会での与野党攻防は往々にして、スキャンダルや失言といった与党の弱みを野党がつくことで長い時間を費やすことが多かった。

構造的に「無能」になる理由

 多額の税金がつぎこまれている国会で、なぜこういうことが延々と続くのか。それは日本の国会というシステムが抱える根本的な問題が関係している、と指摘するのは元経産省官僚の宇佐美典也氏だ。

 宇佐美氏は新著『逃げられない世代――日本型「先送り」システムの限界』のなかで、問題の本質をわかりやすくときほぐして解説している。以下、該当箇所を引用してみよう。

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刹那的な野党

 残念ながら、結論から言えば日本の野党議員は与党議員以上に短期志向で、その瞬間瞬間で与党と政府の問題を指摘して世論を盛り上げて政権を追い詰めることに特化しています。野党のスタンスは「短期的」を超えて「刹那的」といってもいいほどです。

なぜ国会では何も決まらない? 財政破綻は近い? 異次元緩和の利得者は? 日米同盟は盤石か? すべての議論の出発点となる画期的論考。 『逃げられない世代―日本型「先送り」システムの限界― 』宇佐美典也[著]

 なぜこんなことになってしまうかと言うと、日本では政権・与党が「事前審査制」と呼ばれる野党にまったく政策立案に関与させないような仕組みを整備しているからです。ここで日本の政策決定の流れというものをざっと見てみましょう。

 国会で審議される議案というのは、内閣または議員が作成することができるのですが、日本では実効性のある議員立法はほとんどなく、実質において意味のある法律案・予算案はほぼ全て各官庁が作成します。こうして作成された法律案・予算案は政府から国会に提出される前に、自民党内の「事前審査」を受けることになります。

 各官庁が作成した法律案・予算案は、事前審査でまず自民党政務調査会、通称「政調会」で審議にかけられることになります。

 政調会は各省庁・政策分野に対応して様々な部会に分かれており、各省庁の作成した政策案は各部会に所属するいわゆる「族議員」によって審査されます。この時各部会の決定は所属議員の全会一致が原則であり、官僚たちは部会に所属する族議員の要望をあらかじめ聞き回って彼らの要望に合わせて法案を修正していきます。これが俗にいう「官僚の根回し」です。

 こうして部会で官庁と族議員が調整を重ねて議案が了承されると、今度は部会から政調審議会に議案は回されることになります。政調審議会は政務調査会の幹部が委員を務めており、細分化した部会よりも広範な見地から議論がなされ、問題があると委員が判断した時は部会に議案が差し返され再検討することになります。他方政調審議会で了承を得られると政調会での審議は終了し、議案は今度は自民党総務会に回されることになります。

 総務会は「党の運営に関する重要事項」を決める場ですがその審議は通常形式的なもので、政調会に議案が差し戻されるようなことはほとんどなく、この総務会で了承が得られると国会でのその議案の審議には「党議拘束」がかけられることになります。読者のみなさんの多くは「党議拘束」という言葉に馴染みがないと思いますが、要は「党として方針を決めたからこの議案には賛成しろ」ということで、党議拘束がかけられると所属議員はその議案に賛成しなければいけないことになります。総務会は所属議員に対して処分を下す権限がありますから、党議拘束を破って所属議員が国会での採決で反対にまわったり棄権したりすると何らかの懲戒処分に付せられることになってしまいます。総務会での決定が得られるとようやく事前審査は終わり、審議の舞台は国会に移ることになり、閣議決定を経て内閣から議案が国会に提出されることになります。

 こうしてようやく国会の各委員会で政府と野党が議論を交えることになるのですが、ここまで見てきたように日本では国会での審議の前に政府と与党が議論を重ねてガチガチに議案の内容を固めてしまうため、国会での議論を通じて野党の意見を聞いて法律案や予算案を修正するようなことはありません。ただ政府が野党の質問を適当にいなして時間を使うだけの審議が延々と行われ、時間が来たら採決がなされます。みなさんがよくテレビで見る光景ですね。

 そして本会議でも予定調和でポーズだけの与野党対決の議論が行われ、そのまま採決に移り議案成立というわけです。このように日本では野党議員は政策決定から事実上排除されてしまっており、建設的な意味でできることはほとんどありません。

 そのため日本の野党は国会で何をするかというと、政策の議論は最小限にとどめて、むしろ官僚や政治家などのスキャンダルを責め立てて政府の足を引っ張ることに力を入れます。最近ではいわゆる「モリカケ問題」に係る審議などがその典型的な事例で、北朝鮮が弾道ミサイルの開発を進めアメリカが保護主義的な制裁措置を断行するなど国際情勢が目まぐるしく動いている中で、野党議員たちが大臣の外交を妨げ国内に留めて、政権を責め立てていたのは少々バランスを欠いていたと言わざるを得ないでしょう。

組織的に無能な野党

 もちろん疑惑があればそれに対して真摯に説明する義務が政権にあることは言うまでもありませんが、同時に国政の課題を処理してもらわなければならないのも当たり前で、それを両立させるべく与野党が協力して日程を組むのが本来の議会政治のあり方でしょう。他にも、本来は審議の2日前までに提出することになっている国会への質問を前日の深夜まで留保して、官僚に徹夜を強いるような嫌がらせをすることは日常茶飯事です。

 このようにはっきり言って日本の国会では非生産的で不毛な議論が連日行われているのですが、ただ野党の立場に立つとこれも仕方のない側面があります。たとえまともな政策議論をしようとしても、政権側が事前に与党と法律案・予算案の内容をガチガチに固めてしまっており、予算額の1円、法律案の一言一句の修正にすら応じる意向がないことがほとんどですから、有ること無いこと騒ぎ立てて世間の政権への不信を煽って政権批判票を掘り起こす方が次の選挙に向けては有効な時間の使い方ということになります。もちろんそういう中でも政府に対して健気に建設的な政策提案をしてくるような良識的な野党議員もいますが、残念ながらそのような議員が野党の主流になることはありません。むしろ虚実問わず政府を批判一辺倒で追いつめるようなタイプの議員の方が出世することになります。

 かくして日本の野党は、政策立案にあたって建設的な役割を果たすことが政権・与党によって封じられているため、その瞬間瞬間の世論にのって刹那的に政権批判を繰り返すことくらいしかできない宿命にあります。その意味では日本の野党は与党に無能であることを強いられている、ということができると思います。これは重要なことで、野党議員の中には大変優秀な方がたくさんいますが、それとは関係なく日本の野党は組織的に無能にならざるを得ないのです。これは大変残念なことです。

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 ときおり見られる、採決時の乱闘やダイブなども、こういうシステムへのフラストレーションゆえなのかもしれない。が、それで得るリターンは、せいぜいテレビのニュースに映ることくらいで、国民の共感にはつながらないことをそろそろ野党も自覚したほうがいいのではないか。

デイリー新潮編集部

2018年7月2日 掲載