誰もがインターネットやSNSで監視され、さらされてしまうこの時代。

特に有名人たちは、憧れの眼差しで注目される代わりに、些細な失敗でバッシングされ、その立場をほんの一瞬で失うこともある。

世間から「パーフェクトカップル」と呼ばれ、幸せに暮らしていた隼人と怜子。しかし結婚6年目、人気アナウンサーの夫・隼人が女の子と週刊誌に撮られてしまう。彼を陥れたのは夫の元カノ・橘さやかと、後輩アナウンサー笹崎の悪意の連鎖だった。

夫婦が協力して危機を脱したのだが元カノ、橘さやかが、夫婦に2度目のスキャンダルを仕掛けてきた。絶体絶命の夫婦は、世間に立ち向かう決意をするが…橘さやかは、一体なぜ、そこまで「パーフェクトカップル」を壊すことに執着するのか?さやかの心境に迫る。

最終回は今夜19時配信予定!




さやか:「私だって、大変だったんだから」


―誰かにちゃんと話を聞いてもらえるのって、すごく、すごく久しぶり…。

出版社の会議室で、記者さんとカメラマンさんと向かい合って、隼人くんとの関係についての質問に答えながら、そんなことを思う自分が虚しくなる。

「橘さんも大変だったんですね。こんな写真が出たら、ご主人にもバレちゃったでしょう。怒られなかったですか?」

私は頷くわけでもなく、否定するわけでもなく、曖昧に笑った。夫はそんなことに怒るほど私に関心がないと思う、とは言えず、そうですね、離婚とかになるかもですね、と他人事のように答えた。

記者さんは私の話を、それは辛かったでしょう、と相槌を打ちながら親身に聞いてくれる。それが本当に嬉しくて、涙が出た。

―隼人くん達だけじゃなくて…私だって、大変だったんだから。

それを分かってくれる人が目の前に現れた。

夫にも、隼人くんにも無視された、「可哀想な」私のことを。

記者さんの質問に答える度に、カメラのシャッター音が切られたけれど、そんなこと全く気にならなかったし、その音にむしろ、何だかすごく興奮した。

「堀河アナウンサーとお別れすることになった原因を…お伺いしても?」

何個目かの質問で記者さんがそう言った時…すぐに怜子さんの顔が浮かんで、すごく嫌な気持ちになった。

―怜子さんに会うまでは、隼人くんと私、すごく幸せだったのにな。



私の実家は、銀座でも老舗といわれる料亭で、私は両親が年をとってから生まれた末娘。年の離れた兄が後継に決まっていたし、私は“ただ可愛いらしく、女の子らしく”育ってくれればいい、と言われ続けて成長した。

お勉強もできないわけじゃなかったけれど、母が選んだ習い事は、バレエに茶道、そして華道。日舞は途中でやめてしまったけど、着物は1人で着ることができるようになった。

「さやかは、我が家のお姫様だから。」

パパはいつもそう言ってたし、私が欲しいと思ったものは、いつも誰かが「先回りして」準備してくれている人生だった。いわゆるお嬢様育ちなんだと思う。

親に勧められるまま、女子高、女子大に進学し、就職先はパパがお友達のアパレル会社の社長さんに話をつけてくれた。

「さやかちゃんは美人さんだから、PRの部署でどうかな。」

パパのお友達のおじさんがそう言い、私にも何の不満もなく、あるブランドのプレスアシスタントとして新卒採用された。

そのブランドは、ファッション誌やテレビへの貸し出しも多かった。

でも私の実家の店には芸能界のお客様も多かったし、その手のパーティーにも幼い頃から出席していたから、世間で「華やかだ」と言われる世界には慣れていた。

だから仕事にはすぐに馴染んだ。

物怖じしないのが良かったのか先輩たちにも重宝され、私は仕事が思いのほか楽しくなったけど、パパはいつもこんなことを言っていた。

「うちのお姫様には仕事よりも、早く素敵な人を見つけて欲しいんだけど。」

私が隼人くんと出会ったのは、そんな時だった。


「欲しいものは与えられて当たり前」。恋したお嬢様の暴走が始まる


仕事を始めて2年目に入った夏。

私の担当ブランドが主催したガーデンパーティーに、隼人くんが出席していた。

隼人くんと仲が良いという私の上司が、私をプレスアシスタントだと紹介すると、隼人くんは爽やかな笑顔で言った。




「はじめまして、堀河です。」

たったそれだけの挨拶なのに、テレビで聞くより低く聞こえたその声が、私の中に心地よく響いて、ドキドキが止まらなくなり…自分の顔が赤くなるのが分かって戸惑ってしまった。

初対面の人にそんな感情を持ったのは初めてで、なんとか挨拶だけは返したものの会話は続かず、妙な沈黙がなんだか恥ずかしくなって俯いた。

すると、上司が笑って言った。

「あれ?どんな大物芸能人にも動じない橘さんが、どうしたの?もしかして、『爽やかなのにセクシーな声』ってやつにやられちゃった?」

「それ、ネタにするのやめてくださいって、いつも言ってるでしょ。マジで恥ずかしいんですから…。」

隼人くんが本当に嫌そうに顔を歪めると、上司が笑いながら謝って、場が和んだ。そのまましばらく3人で話していると、ふと思いついたように軽く、上司が言った。

「なんか、2人いい感じだしさ。お互いフリーなんだったら、1回デートしてみれば?」

そうして、私たちの最初のデートが決まった。

けれどその時、私はその展開の早さにも、あっさりと自分の望む状況が用意されたことにも驚きはしなかった。

―だって今まで、いつだって…私の欲しいものは、必ず誰かが用意してくれたんだから。



私と隼人くんは、数回のデートを経て恋人同士になった。

私は隼人くんの「理想のタイプ」だったみたいで、付き合い始めてしばらく経ってからも、隼人くんはよくこんなことを言っていた。

「さやかみたいな生粋のお嬢様っているんだ、って俺、未だに感動することあるよ。」

古くさいかもしれないけど、女の子は男が守るものだと思ってるから、と照れ臭そうに言う隼人くんが格好よくて、私はその度に嬉しくなった。

「アナウンサーなんて、芸能人みたいなもんじゃないか。やめておきなさい。」

パパにはそう反対されたけど、付き合って数ヶ月経つと、2人で結婚の話もするようになったし、私は隼人くんの「お姫様」になることを、信じ切っていた。

でもその未来を…怜子さんに取られちゃった。


お嬢様の猛烈な嫉妬。怜子への嫌悪と独占欲が、さやかを狂わせていく。


「彼女、俺の親友。」

付き合い初めてすぐに、隼人くんは私に怜子さんを紹介してくれたけど、その最初の時から、怜子さんのことが苦手だった。

―このタイプの女性は、ダメ。

1人で生きていけるという強さが滲み出てるとか、凛とした美しさとか、私と真逆過ぎる外見。それに…。

隼人くんが怜子さんを見る目がすごく優しくて、彼女が隼人くんにとって、大切で特別な存在だということがよく分かったから。

―隼人くんの大切な「特別」は私しかいないし、私が1番じゃないと絶対にイヤ。

すごくモヤモヤしたし、2人が笑い合うところを見るとイライラした。怜子さんに彼がいることも聞いていたけど、なぜか全然安心できなかった。

だから、怜子さんの結婚が決まったことを知って、その直後に隼人くんが「俺たちも結婚しよっか?」って言ってくれた時は、嬉しかったというより、ホッとした。

すごくカジュアルなプロポーズだったけど、私は、はい、と答えてすぐに互いの両親に紹介しあって、私が隼人くんの上司に会う日も調整し始めた。

うちのパパだけは依然反対モードだったけど、時間をかけて説得することにした。そんな風に私たちは…結婚に進んでいたのに。

「怜子にトラブルがあってさ。婚約中の彼ともめて泣いてるんだ。あいつが泣くなんて初めてだから、ちょっと様子見てくる。ごめんな。」

ランチの約束をしていた日曜日。そんな電話が隼人くんからかかってきてから、また私の胸はザワザワし始めた。

―なんで私より、怜子さんが優先なの?
―なんで怜子さんのために、私が我慢しなきゃいけないの?
―なんで私が、隼人くんの1番じゃないの?

「親友」って一体何?

「親友」だからって、これからも何かある度に、隼人くんは私より怜子さんを優先するのだろうか。そんなのイヤ。

私はだれかの2番目になったことなんてない。生まれて初めての動揺。その感情をどうすればいいのか分からず、不安で仕方なかった。そんな時に…。

元々隼人くんとの結婚に反対だった、パパが仕組んだ。

茶道の先生との食事の席に、今の夫が現れたのだ。

先生と彼のお母様が幼馴染らしく、代々大学病院を経営する一族の次男。本人は医師ではなく、不動産投資など、海外でもビジネスを展開させているということだった。

「彼のお母さんに、いいお嬢さんがいたら紹介してって言われてたんだけど。2人はすごくお似合いだと思って。」

先生がそう言った通り、育ちが似ている私たちはすぐに仲良くなった。学生時代をロンドンで過ごした彼はレディファーストだし、いつも私を褒めてくれて、隼人くんとの不安を忘れさせてくれて、心地良かった。

―隼人くんにも、怜子さんがいるんだもん。

だから罪悪感は感じず、彼に誘われるままに会い続けた。すると、ある日…彼がさらりと言ったのだ。




「さやかさんがプロポーズされていること、実は知ってます。でも彼より僕の方が結婚相手としては、さやかさんにぴったりだと思います。母がこんなに気にいる女の子は初めてだし…どうしてもあなたと結婚したい。」

明日は隼人くんとドレスを見に行くことになっていたのに。そんな私に突然のプロポーズ。戸惑う私に彼は続けた。

「さやかさんの…お姫様の要望は、何でも叶えてあげますよ。」

その言葉は、甘く、甘く、私の胸に、脳に響いていく。

「さやかは、我が家のお姫さまなんだから。」

小さい時から、パパが私に言い続けた言葉が、フラッシュバックした。


夢破れ、落ちぶれたはずのお嬢様。それでも尽きない欲望が破滅へ向かわせる!


私は隼人くんに、別の人からもプロポーズを受けたことを話した。そして、こんな不安な気持ちのままじゃ隼人くんと結婚できない、と伝えた。

別にその人と結婚する、と言ったつもりはなくて、彼ほど強い気持ちで私を求めてくれているのか、知りたかっただけ。聞きたかっただけ、だったのに。

「…俺との結婚は、やめたいってこと?」

隼人くんにそう言われ、修羅場になった。

違う、ちゃんと私を愛してるのか聞きたいだけ、と言う私に隼人くんは、他の男と比べるな、と怒った。

―そんな言葉を聞きたいわけじゃないのに。

私は自分の感情をうまく説明できないまま泣きじゃくり、結局、「私がプロポーズを断った」という形で、私たちは別れることになった。



そして私は、家族にも押され…今の夫のプロポーズを受けた。

―絶対に幸せになるんだから。

隼人くんよりも、怜子さんよりも、絶対に幸せになる。

政界や経済界からも、著名人達が多く参加してくれた豪華な挙式。私は仕事を辞め、本当にお姫様のような生活が始まった。

家事はお手伝いさんたちの仕事。義理の両親も優しく、2人の孫が楽しみね、と言われて、私自身も赤ちゃんを楽しみにしていた。

けど、その日は来なかった。

結婚して2年経っても、私に妊娠の気配がないことを心配したお義母さんに勧められて検査をした。すると原因は私で、この先もほぼ可能性が無いとわかったのだ。

面と向かって責められることはなかったけれど、義母も夫も失望を隠せていなかった。私だって辛かったのに労られることは無く、私は荒れた。

そんな私を避けるように、夫は海外出張を増やした。何週間も戻って来ないこともざらだったけど、本当に仕事だったのかどうかは分からない。

「私と、どうしても結婚したいって言ってくれたこと、覚えてる?」

久しぶりに帰宅した夫にそう聞いてみたことがある。

けれど彼は、なんのこと?と言ったリアクションをしたあと、あくびをして、読んでいた雑誌に目を戻した。

―お姫様の要望はなんでも叶えてくれる、って言ったのよ。

その言葉は、口に出せなかった。

そんな時昔の上司から、仕事を手伝って欲しいと連絡が来て、私は飛びついた。夫は「好きにしていい」と興味なさそうに言っただけだった。



話し始めて何時間が経っただろうか。私が会議室に入ったのは、確か昼過ぎ。今は窓が夕日で真っ赤に染まっている。

記者さんは、興奮した私の話が、過去と未来を行き来しても根気よく頷きながら、聞いてくれていた。

「私、昔から怜子さんのことが苦手で、怖かったんです。」

私がそう言うと、カメラのシャッターがまた数回切られた。

可愛い子供も、隼人くんも、みんなに憧れられる生活も、私が欲しかったもの全てを手に入れた人。それなのに、最後に会った時怜子さんは…。

「私はあなたが大嫌い。私の大切な親友を、誰より大切な男を傷つけた、あなたのことが大嫌いよ。」

そう言い放って去って行った。

あの表情を思い出すと、怒りが爆発しそうになる。大嫌い、と言いたいのは私の方なのに。あなただけ幸せなままなんて、許さない。その勢いで私は喋り続けた。

「ありがとうございました。もう…十分です。」

私には聞いて欲しい話がまだまだあったのに。記者さんに話を打ち切られてしまった。

「サインをお願いできますか?記事はうちの独占というお約束をまとめた書類です。」

私は気分が高揚したままでサインをし、記者に見送られ部屋の外に出た。




昼と夜の合間の薄暗い光の中、出版社の廊下を出口へ向かいながらも、興奮はおさまらない。

―もっと、もっと話したい。みんなに私の話を聞いて欲しい。

その欲望が膨れ上がり、私はあることを思いついた。

それが自分をどんな状況に追い込むのかなんて…考えもせずに。

▶NEXT:最終回は今夜19時配信!
さやかの犯した取り返しのつかない失敗とは?そしてパーフェクトカップルの行く末は!?