「ゲームのバトルロワイヤルが人気の理由、それは「マズローの欲求5段階説」にあった」の写真・リンク付きの記事はこちら

ゲームの祭典「E3 2018」に合わせて開催されたエレクトロニック・アーツ(EA)によるカンファレンス。そこで最初に紹介されたのは、「バトルフィールドV」だった。これは予想通りだろう。「バトルフィールド」は、最も長い歴史と高い人気を誇るFPSシリーズのひとつなのだから。

しかし、最新作のどこが画期的かを説明したあとで、開発者ふたりはちょっともったいぶった。

「わたしたちは日々何か新しいものをつくっています」。ニヤっとしながら、スウェーデンのゲーム開発スタジオ・DICEでゼネラルマネジャーを務めるオスカー・ガブリエルソンはそう言った。「その一環として、今回のローンチでは多くの人が期待していたあるものが追加されます」

DICEのラース・グスタフソンはドラマチックな発表に向けて準備万端だった。

「それは……」

1拍を置いたのちに彼は言った。

「バトルロワイヤルです!」

バトルロワイヤル人気上昇の理由

「バトルフィールドV」へのバトルロワイヤルモードの追加は、発表としては華やかだったかもしれない。だが、驚くことでもなかった。この1年、「フォートナイト」が広く遊ばれ、バトルロワイヤルはいちばん人気のジャンルとなったからだ。

バトルロワイヤルは決して新しいものではない。この手のゲームの先駆けと言われている2012年の「マインクラフト」の「ハンガーゲームズ」にはじまり、「DayZ」「H1Z1」がこのジャンルを普及させ、2017年には「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS(PUBG)」が発表された。そこにフォートナイトが来て、その人気ぶりを新たな次元まで押し上げたのである。

こうしたバトルロワイヤルの人気上昇の理由はいくつもある。まず、バトルロワイヤルはチーム戦略ではなく、プレイヤーひとりの成果に焦点を当てている。このため観戦者にとっても理解しやすく、魅力的な“スポーツ”になる。Twitchの配信にもぴったりだ。

さらに、フォートナイトは基本プレイが無料なだけのゲームではない(ちなみにゲームが生む膨大な利益は、見た目が変わるコスチュームや有料チャレンジである「バトルパス」の収入からきている)。PUBG同様、このゲームはモバイルや家庭用ゲーム機、PCなどさまざまなプラットフォームで遊べるのだ。

そして、もうひとつ重要な要素がある。バトルロワイヤルの魅力は、単に周りよりも長く生き残ることにあるのではない。その魅力は、こうしたゲームが驚くべき方法でプレイヤーに「生」を感じさせてくれることにある。

「生」を感じさせるメカニクス

バトルロワイヤル形式のゲームは、コアとなるいくつかの力学(メカニクス)に沿ってつくられている。

まずは無力感だ。このタイプのゲームでは、全員がほとんど武装していない状態、あるいは生身でスタートすることになる。そこから、戦闘や探索によって勝ち抜き、生き残るために必要なものを獲得していくのだ。

また多くのバトルロワイヤルゲームは、時間の経過とともにプレイヤーをどんどん狭い範囲に追い込んでいき、戦闘を発生させる仕組みも備えている。例えばフォートナイトでは、ストームの中心部にいないと徐々にダメージを受けてしまう。

最後におそらくいちばん大事なのは、バトルロワイヤルにおける「死」がほかのマルチプレイヤーゲームと違って「ゲームオーバー」を意味することだ。生き返りは存在しない。

「400人プレイ」ゲーム開発の噂まで

フォートナイトに習ってマルチプレイヤーにバトルロワイヤルモードを加えたメジャータイトルは、「バトルフィールドV」が最初ではない。その栄誉を得たのは、5月半ばのコミュニティイヴェントでモード追加を発表したトレイアークの「Call of Duty: Black Ops 4」だ。

とはいえ、この流れに乗ろうとしているのは大企業だけではない。バトルロワイヤルスタイルのゲームは2018年だけでも最低16作品リリースされることが決まっている。来年はもっと増えるだろう。

このバトルロワイヤルモードは、VRゲームにも進出している。ソーシャルVRゲームの「Rec Room」には、どうみてもフォートナイト風の「Rec Royale」が追加された。

DICEやトレイアークといった開発スタジオには、いつだって新しい機能を追加するためのリソースがある。彼らがまず踏む重要なステップは、人々が何を欲しがっているのかを見極めることだ。そして次に大切なのは、それを大規模かつよりよいものにすることである。

「大企業には新しいコンテンツが必要なのです」と、Gunpowder Gamesの創業者兼リードデヴェロッパーであるブレイン・スミスは言う。Gunpowder Gamesは海戦バトルロワイヤルゲーム「Maelstrom」を開発中だ。「とある企業が400人で遊ぶラストマン・スタンディングゲームを開発しているという噂も聞いたことがあります」

「マズローの欲求5段階説」を満たすジャンル

ゲームのトレンドへの便乗は、前にも起こったことだ。たとえば「Call of Duty」シリーズは流行に乗っかって、2008年発売(日本未発売)の『Call of Duty : World at War』でマルチプレイヤーの「ゾンビモード」を導入した。

しかし。ほかのトレンドと違ってバトルロワイヤルは、われわれの魂をより強くつかんでいるのかもしれない。ユタ大学でエンターテインメントアーツを研究しているロヘリオ・E・カルドナ・リヴェラいわく、このジャンルはマズローの欲求5段階説(自己実現理論)をうまく活用しているという。

「バトルロワイヤルゲームには通常、サヴァイヴァルや探検、ごみ漁りやものづくりといった要素が組み合わされています」と彼はいう。「心理学的にみても進化的にみても、われわれはこうしたものを欲しているのです」

マズローの欲求5段階説においてピラミッドの最下層2つは「生理的欲求」と「安全の欲求」であり、どちらもヴィデオゲームというものが生まれたときから描いてきた欲求だ。たるを飛び越え、ゴーストを避け、生き残る。

一方、ピラミッドの残りの3階層である「所属と愛の欲求」や「承認の欲求」、「自己実現の欲求」は、従来のゲームにとっては満たすのが難しかった。ソーシャル性と競争性をもつマルチプレイヤーゲームは、愛や自己承認の欲求を満たすといってもいいだろう(ヘッドフォン越しに罵声を飛ばしてくる思春期のチームメイトがいた人は前者を否定するかもしれないが)。

しかし、ピラミッドの最上階を満たすには、自分の能力が最大限発揮できる必要がある。そして、それを提供するのがバトルロワイヤルなのだ。

バトルロワイヤルはさまざまなかたちの問題解決法をカヴァーしているだけでなく(「PUBGやフォートナイトでは勝つための方法がいくつもあります」とリヴェラは指摘する)、「生き残れるかは本人次第」という世界を提示することによって、プレイヤーに熟知感や親近感を与えるのである。

流行がいつまで続くかは、「実験」次第

バトルロワイヤルはピラミッド上のすべての欲求を網羅しているかもしれない。だが一方で、その寿命が完全に保証されているわけでもない。

「正直なところ、このジャンルの存続のためにはソーシャル要素での実験が必要です」とリヴェラは言う。「おなじソーシャル上に人を集める方法を探求し続けなくてはなりません」

DICEやトレイアークは、しっかりした基盤をもつこのゲームモードを新しい方法で提示しようとしており、ほかの数十のスタジオも自社版開発に取り組んでいる。しかし、こうした取り組みはゲーマーの注意を引くための単なる再塗装であってはならない。

これらのゲームがPUBGやフォートナイトの流行に乗れるかどうかは、時が教えてくれるだろう。ただこうしたゲームの設計図には、人間の真の欲求への道のりが示させているかもしれないのだ。

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