スズキが6月28日に浜松市内で開いた株主総会には、昨年と同じ水準の558人の株主が出席した(記者撮影)

「まだ2年目でヨチヨチ歩き。(トヨタ自動車の)豊田章男社長は10年以上も苦労されていると思う。少しでも足元に近づけるように頑張りますので応援よろしくお願いします」


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スズキが6月28日に静岡県浜松市内の老舗ホテルで開いた株主総会。鈴木俊宏社長がそう述べると、会場から大きな拍手が起きた。昨年の株主総会で実父の鈴木修会長から総会の議長の役目を譲り受けて今年が2回目。同年代で創業家の重責を同様に担う豊田社長と比べてエールを送ってきたという株主の声に応じた形だ。

インド事業テコに世界販売倍増を狙う

だが、こうした謙虚な発言とは裏腹に、今年の総会では俊宏社長はいつになく気合いが入っていた。「スズキの未来を懸けた挑戦だ。全社を挙げて取り組んでいく」。語気を強めたのは、5割の乗用車シェアを握るインド市場とともに成長する姿勢を鮮明にしたときだ。


スズキ株主総会では、鈴木俊宏社長(前列左から2人目)が議長を務めた(記者撮影)

俊宏社長は「インドの乗用車市場は2030年に1000万台になる。スズキが現在のシェア50%を維持すれば、500万台の規模ということだ。そのほかの市場でも200万台売ると考えれば、スズキが世界で販売する車は700万台になる。理論値ではあるが、現在から倍増するまったく未知の領域だ。今後の成長に向けて、スズキはチャレンジしていく」と断言した。


スズキは今年6月、インドで4輪車の累計生産2000万台を達成した。2000万台目はグジャラート工場で生産した「スイフト」だった(写真:スズキ

2018年3月期のスズキはまさにインドが牽引して絶好調だった。世界販売は前期比10.5%増の322万台と過去最多を更新。そのうち、インドは同14.5%増の165万台を占めるなど、スズキの屋台骨だ。インドではハッチバックの「バレーノ」やSUV(スポーツ用多目的車)の「ビターラ・ブレッツァ」、セダンの「ディザイア」の好調に加え、新型「スイフト」も投入するなど、スズキが得意とする小型車が快走を続けている。

総会は議長2年目の俊宏社長がそつなく進行。それぞれの質問に、営業や技術など担当役員が簡潔に答える場面が多い中、インド事業に質問が及ぶと、空気は一変。俊宏社長は「インドに思いのある会長から答えさせていただく」と修会長にバトンタッチした。この日、初めて口を開いた修会長はいつものフレーズである「あのー」から始め、熱が入った答弁を繰り広げた。

「早いものでインドに進出して今年で36年になる。過去10年、市場は毎年9%伸びている。スズキはおかげさまでそれを上回って伸びている。インドのシェアが50%を超えているのは取引先、ベンダー、ディーラー、マルチ・スズキ、ジャパンスズキなど全社で全力を尽くした結果だ。おかげさまで部品の現地生産も進み、インドでの国産化率は90%以上だ。(インド首相の)モディさんがおっしゃる『メーク・イン・インディア』施策に沿うものだ。現在の乗用車シェア50%を維持し、2030年には欲張って500万台を獲得したい」と語った。

そのうえで「1カ国で500万台も造った経験はない。大挑戦だ。今までのように来期、2年先の計画と積み重ねてでは計算できない。2030年に500万台を達成するという前提に立ち、2030年から18、19、20年を逆に見ていく発想の転換が必要だ。今から準備しておかないといけない」と強調した。

インドは新工場立ち上げラッシュ

実際、準備に大忙しだ。スズキインドで工場建設ラッシュを迎えている。主力となるグジャラート工場では昨年初めに第1工場が稼働し、2019年初めには第2工場も稼働する。さらに第3工場の建設もすでに予定しており、3工場合計で年間75万台の生産能力を有する見込みだ。インドには、グジャラート工場のほかに既存工場が2つあり、現在生産のメドが立っているのは225万台規模だ。将来を見通すと、まだ生産能力不足であることは否めない。 


スズキインド・グジャラート工場。2017年初めに第1工場が稼働した(写真:スズキ

総会では、マルチ・スズキ・インディア社長を務める鮎川堅一副社長も登壇し、「500万台を目指すとなると、25万台規模の工場があと11個は必要だ。部品供給会社も含めて、能力拡張の協力をお願いしなければならない」と話した。そのうえで、商品や販売、サービス網の拡充にも言及した。

「今は車種が16モデルあるが、500万台を目指すとなると足りない。30モデル以上は必要になる。さらに商品や生産体制ができても売るサービス体制がないといけない。販売店は現在2700店あるが、1万店まで拡大する必要がある。またセールスマンは4万人いるが12万人に増やし、サービスメカニックも3万人から10万人へと増強する必要がある」

課題はまだある。インド政府は2030年に新車販売の30%を電気自動車(EV)にする方針だ。その場合、スズキは2030年に150万台のEVを販売しないとシェア5割の維持が難しい計算だ。だが、EVでは従来とは異なるプレーヤーと競争することになるため、これまでのような競争力を維持するのは簡単ではない。


株主総会の会場には2017年12月発売の新型「スペーシア」などが展示されていた(記者撮影)

四輪技術本部を率いる蓮池利昭専務役員は総会で「10年、20年先を見据えた技術開発はたいへん重要だ。EVはモーター、インバーター、電池がすぐに頭に浮かぶと思うが、それだけではできない。EVに合った車両のプラットホームや、EV専用に開発しないといけないものもある。一方でEVだけでなく、エンジンが載った車もまだ多く残る。既存技術もさらに高める必要がある」と話した。

インドでトヨタとどんな関係を構築していくか

スズキは巨額の資金がかかる環境技術開発で業界をリードしているとはいえず、2017年には大手のトヨタと提携。スズキは、トヨタから技術的な支援を受けてインドでEVを生産し、その車両をトヨタにも供給する方針だ。またほかの車種でも相互にOEM(相手先ブランドによる生産)供給する予定であるなど、インドで提携の具体化が進みだしている。ただインドスズキにとって虎の子だ。今後トヨタとの関係をどう構築していくかも課題になるだろう。

スズキは今回の総会で定款を一部変更。俊宏社長は「チーム経営に移行するために、CEOとCOO(最高執行責任者)を定めないことにした」と株主に説明した。修会長が長い間、そのカリスマ性で引っ張ってきたスズキも新たな時代を迎えようとしている。今後どう大きくし、どう未来につなげていくか。“チームスズキ”を標榜する俊宏社長は難題を突き付けられている。