ー女の市場価値は27歳がピーク、クリスマスケーキの如く30歳以上は需要ゼロなんて、昭和の話でしょ?ー

20代の女なんてまだまだヒヨッコ。真の“イイ女”も“モテ”も、30代で決まるのだ。

超リア充生活を送る理恵子・35歳は、若いだけの女には絶対に負けないと信じている。

周りを見渡せばハイスペ男ばかり、デート相手は後を絶たず、週10日あっても足りないかも?

しかし、お気に入りのデート相手・敦史の婚約ニュースをきっかけに、仕事もプライベートも絶好調の人生が徐々に狂い始めていく...。




―敦史が、26歳のCAと結婚ですって...?

友人の茜とのランチの帰り道、理恵子は殺気立ちながら帰路についた。

―この女が...?

敦史の婚約者の名前をついInstagramで検索してしまうと、そこにはやたらと大きな目をした子鹿のような女が、弱々しくピースをしている写真が表示される。

どこから情報を仕入れたのか、茜がご丁寧にその若い女のプロフィール画面を披露してくれたため、名前を覚えてしまったのだ。

女はたしかに可愛い顔をしているが、若い女特有の肉付きのいいふっくらした頰をしているし、髪型も細すぎる眉の形も垢抜けない。

“オンナ”を極めた理恵子から見れば、要はあまり洗練されてはおらず、言ってしまえばダサいのだ。

―なんで、敦史がこんな女と...。

会うたびに「若い女より、色気も知性もある大人の女が好き」と理恵子にへつらっていたにも関わらず、敦史はなぜこんな典型的な若いだけの女を選んだのだろうか。

いや、茜は早とちりなところがあるから、ひょっとするとガセネタかもしれない。

ーえ?!?!

しかし、しばらく写真をスクロールすると、満面の笑みで彼女の肩を抱く敦史の顔が現れた。その顔には、ちゃっかりと彼のアカウントがタグ付けしてある。

「オレ、SNSはやらないんだよね」

そう言った敦史の白々しい声が、理恵子の耳に鮮明に蘇った。


苛立つ理恵子に、香港の“富豪”との出会いが待ち受ける...!?


“化けた男”が持って来た優良物件


その夜、理恵子はグランドハイアットの『オークドア』で香港在住の男友達と飲んでいても、敦史の件のモヤモヤが一向に収まらなかった。

むしろ酒を飲むほど、不快な苛立ちがどんどん募っていく。




「理恵子、聞いてる?」

すると友人の裕司が、理恵子の顔を覗き込む。

「あ、うん...」

この裕司とは、もうかれこれ10年以上の付き合いだ。

出会ったばかりの頃は、熱心に口説かれた記憶もある。だが当時、同い年の裕司は学生臭さの抜けないメガバンクの銀行員で、理恵子の興味は微塵もそそられなかった。

しかし、裕司は化けた。

20代半ばまでは冴えない銀行員に過ぎなかったのに、30歳手前で外資系証券会社に転職し、さらに数年後には投資ファンドに転職して香港に移住し、大金を稼ぐ男へと成長したのだ。

「どうしたの?珍しく元気ないね。具合でも悪い?」

だが、裕司の妙なお人好しオーラのある、まるで七福神のような顔立ちは変わっていない。

「大丈夫。ちょっと仕事のこと思い出してただけ」

「そっか、ならいいんだけどさ。じゃあ理恵子、もっとリーさんと話しなよ。いい人だし、何よりすごい優秀でさ...」

そうして裕司は、仕事仲間であるリーという香港人の男について事細かにアピールした。せっかちな香港人にしては穏やかな人格で、財力もあり理恵子にピッタリなのだそうだ。

「へぇ...」

彼がこうして盛んに男を紹介しようとするのは、何を隠そう、裕司の嫁を紹介したのが理恵子だからだ。

裕司にまるで興味がなかった頃、気まぐれで彼に釣り合いそうな“フツー”の女を引き合わせてみたところ、あっさりとトントン拍子で結婚した。

だが、その“フツー”の女も、今は香港在住のちょっとしたセレブ妻である。

義理堅い裕司は、その恩を何とか理恵子に返そうとしているのだ。

「リエコサン、タノシンデマスカ?」

裕司の合図で、リーという男が他の仲間との会話を終えて振り向いた。辿々しくも日本語を喋っているから、日本には慣れているようだ。

「I’m good...」

だが、帰国子女の理恵子の英語はもっと堪能である。

流暢な英語で話してやると、男の目の色が明らかに変わった。当然だ。自分はそんじょそこらのちょっと綺麗なだけの日本人女とは格が違うのである。

そして理恵子は、気分を一新するように、自慢のロングヘアをバサッと搔き上げた。


戦闘モードに入った理恵子。しかし香港男に異変が...?!


理恵子は顎を軽く引き、手持ちのワイングラスを掲げ、口元に微笑を浮かべてじっと男を見つめてやる。

バーカウンターで儚げに揺れるキャンドルの光も手伝い、今の自分は最高に艶やかに違いない。

「...You look gorgeous...」

すると予想通りに賞賛の言葉は引き出せたものの、リーという男の顔を近くでよく見ると、理恵子の笑顔は引き攣った。

背も高く、薄暗い空間で気づかなかったのだが、男は予想以上にかなり年配であったのだ。

「...リーさん、実はバツイチで60歳近いんだけどさ、全然若く見えるしハンサムだろっ?」

背後から小声で囁く裕司の足を、理恵子はセルジオロッシの11センチのピンヒールで思い切り踏んづけてやりたくなった。


直接対決


『オークドア』からの帰り道、理恵子はタクシーのシートに身を預けた途端、どっと疲れが押し寄せた。

なぜ自分が還暦近い香港男の相手をしていたのか全く理解不能で腹立たしいが、アルコールが回るうち、何だかんだダラダラと、結局時刻は深夜0時近くなってしまった。

そして、何気なくスマホを取り出すと、なんと敦史から連絡がきていた。

「今夜は何してる^^?」

LINEが届いていたのは22時過ぎ。おそらく何かの飲み会の帰り、時間を持て余して理恵子に連絡したのだろう。

-この男...。

疲れで忘れかけていた怒りが再び燃え上がり、理恵子は咄嗟に通話ボタンを押す。だが、応答はない。

しかし、本当にこの男があの若い女と結婚するのなら、今さら気を使う必要もないだろう。理恵子はもう2回連続で通話ボタンを押したのち、「今から敦史の家に行く」とだけLINEを返す。

すると案の定、瞬く間にスマホが着信を知らせた。

「あ...理恵子?ゴメン、今たまたま会社の先輩に飲みに呼ばれちゃってさ...まだ出れなくて...」

「じゃあ、終わるまで待ってるわよ」

自分でも驚くほど低い声が出たが、敦史はもっと怯えたように声を詰まらせる。

「い、いや、すぐに終わる感じじゃなくてさ...。どうしたんだよ理恵子、珍しいな。ちなみに明日なら、会食の予定が入ってるけど22時くらいには抜けられ...」

またしても二次会枠の時間帯を告げられ、理恵子の苛立ちはMAXになった。


敦史の結婚&妊娠ニュースは、果たして事実なのか...?!


“高嶺の花”の悲劇


これまで実に2年もの間、敦史とはお互いにライトな関係を続けてきた。

もちろん理恵子には他にデート相手はいくらでもいるし、敦史だってまさか自分に一途だと思っていた訳ではない。

だがそんな関係も、ある程度の信頼関係や尊敬があるから成り立っていたはずだ。

現に敦史は何度も“結婚”を仄めかす発言をしていたし、特に結婚願望の強くない理恵子も、敦史のことは特別に扱っていた。

少なくとも理恵子にとっては、夜を共に過ごすような相手も彼だけだったのだ。

そんな敦史が出会って2ヶ月の26歳のCAを妊娠させたなんて、事実とは受け入れ難い。

「女の子妊娠させて、結婚するって本当なの?」

「......」

1日中イライラと疼いていた思いを口にすると、なぜだが胸の奥がズキンと痛んだ。敦史は何も答えず、黙り込んでいる。

「私の質問に答えなさいよ。私たちの関係って、一体何だったの?」

自分の声が、まるで安っぽい昼ドラのセリフのように響く。

理恵子はまさか自分がこんなチープで情けない言葉を口にするなど想像したこともなく、そんな自分に戸惑いすら感じる。




「ご...ごめん。実は...そう...なんだ。たまたま、そういうことになってさ...。何ていうか、事故みたいな感じで...」

敦史がやっと辿々しく答えたとき、理恵子は全身の血の気が引き、身体がズシリと重くなったような感覚があった。

噂は、本当だったのだ。

頭が真っ白になりながらも、しかし理恵子は、自分でも不思議なほど明るい声を出していた。

「...あ...っそう。おめでとう。謝る必要なんかないわよ。良かったわね。じゃあ、さよなら」

サバサバした他人行儀の口調とは裏腹に、目頭がジンと熱くなる。

だいぶ酔っているのだろうか。感じているのは“怒り”のはずなのに、口調は明るく、胸はしくしくと痛むような感覚がある。心と身体のパーツそれぞれで、喜怒哀楽が滅茶苦茶だ。

本当はもっと問い詰めたいことも山ほどあるのに、それ以上の言葉も出なかった。

「いや、待って。あ、あのさ...。俺、理恵子のことは本気で好きだったよ。でも...理恵子はやっぱり高嶺の花じゃん...」

すると敦史は理恵子を引き止め、不器用に言葉を続ける。

「男ってさ、そういう女性は神聖に扱い過ぎるというか、“所有”するのは恐れ多いっていうかさ...。うまく言えないけど、俺にとって、理恵子は本当に大切な存在で...」

叱られた子どものように弱々しい声を聞く限り、これは本音だろう。

彼にとって、理恵子はまさにハードルが高すぎたのだ。

敦史と自分は似た者同士のように思っていたが、彼は案外普通の男で、理恵子よりレベルの低い女で妥協し、男として優位に立ちたかったのかも知れない。

「尊敬してるのも、俺のこと理解してくれるのも、理恵子だけだって思ってる...。理恵子だって、俺の気持ちは当然分かるだろ...」

「そう...ね、分かってるわ。まぁ、お幸せにね」

だが、ようやく穏やかな気持ちでそう答えると、次の瞬間、敦史は耳を疑うセリフを口にした。

「...だからさ、理恵子。頼むよ。俺、これからも今まで通り理恵子に会いたいんだ」

「......は?」

この最後の一言を聞いたとき、理恵子はこの男に“ナメられている”という事実に、ようやく気づいたのだった。

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まさかの愛人打診に途方に暮れる理恵子。リア充人生が、さらにヤバい方向へ進んでいく...!