恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第9回は「フェミニズム」について。ハリウッド女優エマ・ワトソンさんのスピーチ以来、世界ではそのイメージが変わりつつあるフェミニズムですが、私たちが身を置く日本に目を向ければ、未だに「フェミっぽい=怖いオンナ」という空気が残っていたりもします。

小島さんが考える「これからの時代のフェミニズム」とは? 

フェミニストはイタいキャラ?

先日、アラサー女性のためのニュースサイト「ウートピ」の鈴木円香編集長も出演されているAbemaTV『Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜』でフェミニストの皆さんとお話ししてきました。

学問的に云々するのは私の専門外なので置いておいて、この議論で面白かったのは、今フェミニストを自称している人も初めはまるで無関心だったり、フェミと呼ばれたくないと思っていたということ。

大学で教鞭をとっている40代の社会学者の女性は、勉強ができてしまう自分をなんとか「女子らしく」マイルド化しようとしたり、女子は理数系が苦手だと聞けば抜群にできてしまう自分を後ろめたく思ったり……とにかく「普通の女性枠」からはみ出すまいと随分苦労した時期があったそうです。しかしやはり気づいてしまうんですね、それってなんでだよ?と。彼女は上野千鶴子さんの元で学び、立派なフェミニストになったのでした。

フェミニストってなんか怖い……理屈っぽそう……怒ってそう……おシャレじゃなさそう。こんな先入観はテレビ画面の中でのフェミニストの扱われ方とも関係がありそうです。女性の権利を声高に主張するショートカットで押しの強い中年女性、辟易しながら嘲笑している共演者、という絵柄が定番化していますよね。一言で言えばイタいキャラ扱いです。

AbemaTV『Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜』スタジオ収録中の様子

今の20代はフェミニストに憧れている

そういう番組を見て育った今40代以上の女性にとってフェミニストは憧れのロールとは言いがたいのかも。一方、20代のフェミニストたちの話を聞くと、エマ・ワトソンやSNSでおしゃれに活動するアクティビストたちを見て素直に憧れているんです。30代はどちらかな。単純に世代で語れるものではないけど、あえて言えばフェミニスト的なものを忌避して屈折している40代をわりかし冷静に見ている感じでしょうか。

ここで考えるべきは、ではなぜテレビではフェミニストがイタいキャラ扱いされてきたのかです。意見を言う女性をそのように扱うと笑える、というテレビ番組の制作者の眼差しが随分と女性蔑視的であることに気づきます。それが自然と刷り込まれているんですよね、男性にも女性にも。

あなたにも経験はないですか。ちょっと意見を言っただけなのに男性から「うわ、こわ!」とか「あー、またなんか叱られそう」とか「〇〇ちゃんはフェミだからねー」という茶化したようなリアクションをされたこと。で、一度そのキャラが定着してしまうと何か言っただけですぐ「コワコワ」「ご意見番」などと過剰な反応がお約束のように返ってくるのです。もちろんそれに同調して「こわーい」と言う女性も。

そんな時には大抵「言い方がきつかったのかな」「余計なことを言ったのかな」「でしゃばりだったかも」と自分を責めてしまいがちですが、違うちがーう。

「怖い女」はどこから生まれるのか?

世の中には「甘えさせてくれるママ」と「叱るママ」の2タイプの女性しかいないと思っている男性が実に多いのです。女性が意見を言ったり誰かと議論をしているところを身近に見たことがなく、あるいはそういう女性を母親や姉妹がバカにしているのを見て育ったのかもしれませんね。母親が何か言うと父親が「うわ、ママは怖い怖い」などと言うばかりでまともに取り合わないのが常だったとか。とにかく、女性はニコニコ可愛く男を受容してくれるか、問答無用で男を抑圧する存在だと信じて疑わない人たちです。

あとは、女性を狩りの対象、つまり獲物だと思ってる男性ですね。性的な存在としてのみ認知している人たちです。ちなみにコラムニストの深澤真紀さんが提唱した「草食男子」という言葉は、実は褒め言葉だったんですよ。女性を狩りの対象として見るのではなく、草原で共存する対等な仲間として認識する男性のことを「草食男子」と呼んだんです。いいぞ草食男子。

ところが「狩り」的な価値観で凝り固まった人々はそれを「女を口説いてセックスする勇気のないダメ男」と読み解いて、思いっきり誤用が広まったというわけです。ここでも、マスメディアの伝え手たちの多くが男性であることが影響していると思われます。なあ、深澤さんの書いたこと、よく読めよ。

フェミだと思われたくない女性たち

本当にね、何度でも言いたいですよ。いや、私らもあなたと変わりませんよ。意見が同じ時もあれば違う時もあるし、怒ることだってありますよ、人間だもの……でも返ってくる反応は「出た、フェミ、フェミ!」です。フェミニストでなくてもうんざりしますよね。相手にするだけ時間の無駄なので余計なことは言わないで黙っておこう、となりがちです。

何がフェミニズムか知らないけどとにかく怖い女は嫌い、という人たちが使う「フェミ」という言葉のイメージが一人歩きして、いつ間にか女性も「フェミだと思われたくない(男に忌避されるような女になりたくない)」と思うようになったのかもしれません。弱者を自称して権利を言い募るのはみっともないからと、むしろ自分が性的な強者であることを誇示したり、男尊女卑的な価値観に適応したり、男性の望むような女子ロールを駆使して男性社会でステージをあげる女こそ聡明だと言ってみたり。酒井順子さんの『男尊女子』という本も話題になりました。

女性はあくまでも男性から見て理想の女子ロールをわきまえるべし、というのはマッチョな男性の価値観が支配的な労働環境では避けては通れない踏み絵のようなもので、男尊女子的な渡世術は誰にとっても身に覚えがあるでしょう。だからこそ「私はフェミニストです」と瞳をキラキラさせて言い切るエマ・ワトソンを前にするとなんとも言えない気持ちになるのかもしれませんね。

そりゃ、あなたみたいに地球規模の知名度と知性と美貌と莫大な資産を手にしていればどんな立派なことも言えるでしょうよ。でもね、正しいことを言ったら生きていけないのが人生なのよ……とついエマのwikiをググって余計に落ち込んだりして。

「うわ、フェミ」はそろそろ卒業

だけど、時代は変わってきています。以前、ある番組の収録中にこんなことがありました。20代の人気タレントがミニスカートを履いているのを見た熟年男性司会者が「おい、そんな短いの穿くなよ! 中が気になって覗いちゃうだろ!」と怒鳴ったので、私が即座に出動し「そういうの、今はセクハラって言うんですよ」と言ったところ「俺はそのセクハラってのが気に食わねえんだ!」とおかんむり(スタジオは爆笑)。すると20代の彼女が真顔で「セクハラですよ。だって、そんなこといったら女性は好きな服を着るなって言ってることになるんですよ」と注意したのです。

あっぱれ! そうだそうだと加勢したら、70代の女性出演者が「あらあ、でもそんな短いスカートだったら私だって中身が気になっちゃうわ」と司会者に同調。ここに深い深い川が流れている……と道の遠きを思ったものの、これまでセクハラ的なやりとりが日常化しているテレビの世界で司会者に堂々と反論した若い女性は見たことがありませんでしたから、一条の希望の光が見えた気がします。

ちなみに放送では、司会者が「セクハラ気に食わねえ」と言って爆笑したところまでが使われました。ここにもテレビが何を見せたいのかがはっきりと現れています。

女性に対する差別的な言動に対してNOを言うのは、今後はもっと普通のことになっていくだろうと思います。今時そんなことするのってバカだよね、っていう合意ができつつあると思いますし。

もし身近な人が他意なく「うわ、フェミ」的な物言いをしていたら、いまが2018年であることを思い出させて、それはかなりイタいことなので慎むようにと言ってあげましょう。

■番組情報
『Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜』
男子は見なくて結構! 男子禁制・日本一過激なオンナのニュース番組がこの「Wの悲喜劇」。さまざまな体験をしたオンナたちを都内某所の「とある部屋」に呼び、さまざまなゲストたちが「その時どうしたのか?オンナたちのリアルな行動とその本音」を徹底的に聴きだします。現在産休中のSHELLYさんに代わり、お留守番MCに小島慶子さんが登場。「そんなことテレビで言っちゃっていいの?」…いいんですAbemaTVですからタブーに挑戦します。

「#45 なぜフェミニストは嫌われるのか?」視聴はこちら