お金に苦労せず、幸せに生きていくことを目指すこの連載。前回に引き続き、合田絵里子さん(仮名・45歳  派遣社員)の個人事業主の会社設立についての相談にお答えしていきます。

働き方の多様化に伴い、フリーランスで活躍する人も増えています。また、高齢化もあいまって、フリーランス人口は今後ますます増加する見通し。現在は会社員として働いている人たちの中にも、近い将来に自身のキャリアを生かして独立できれば……と考えている人も多いと思います。今回の相談者さんのように、会社設立の夢を持つ女性も珍しくなくなってきます。前回は森井じゅんさんに、会社設立にかかる費用について教えていただきました。今回は設立した会社を維持するためのお金について、教えていただきます。

相談者さんの質問はこちら……「現在、美容商材PRやボイストレーニング講師など、複数の仕事を掛け持ちしています。勉強することも多く、現在の収入はさほど多くありませんが、似たような働き方をされている先輩方は会社を設立しています。ご本人たちからは、いくら稼いでいるのかは教えていただけていませんが、節税などもできるようで……。そこで相談です。フリーランスとして、どのくらいの年商があれば、会社にしたほうがいいでしょうか。また、その場合の手続きはどうなりますか?」

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相談者さんは派遣社員として働く一方で、複数の業務をフリーランスとして引き受けているとのこと。前回は、会社を設立する手続き、費用、メリットについてお話ししました。今回は、「会社設立が節税になるのか」について説明していきます。

税理士として相談を受ける中で、節税のために会社を設立したいという方が多くいらっしゃいます。相談者さんも「節税になるようで……」とおっしゃっていますね。

会社設立はフリーランスの節税になるの?

最も多い質問が、「会社にすれば、何でも経費にできるんですよね?」というもの。「だから、自分の生活費も経費にできて、お得になりますよね」という発想です。しかし、そのようなことはできません。会社の事業に必要なものしか、経費にはならないのです。

また、「役員報酬で節税になるのでは?」というのもよくある相談のひとつです。ポイントを見ていきましょう。

会社設立をすると、経営者は“役員”になります。そして役員の給与、つまり役員報酬は、役員になった人の個人の税金計算で有利。と同時に、会社にとっては役員報酬は経費になるため節税になる、という考えがあります。

個人事業主の方が法人化した場合、所得の種類が変わります。個人事業主のもうけは「事業所得」に分類され、収入から経費を引いた「事業所得」から税金を計算します。一方、法人化すれば、役員報酬などの形でお給料をもらう事になります。つまり、給与所得となるのです。ここでは、年間報酬から給与所得控除を引いた「給与所得」から税金を計算するのです。つまり、この点だけに注目すれば、給与所得控除が使える分だけ節税になると考えられるでしょう。さらに家族も役員にして、節税効果を高めようと考える人もいます。

しかし、これは、そうシンプルな話ではありません。

なぜなら、役員報酬が自由に決めたり変更したりできるものではないからです。個人事業主の場合には自身の儲けに合わせて、個人で使うお金や事業の拡大・縮小など臨機応変に対応できます。一方、役員報酬は、ざっくりいえば一年間の報酬を決め、その通りに毎月支払う必要があります。たくさん儲かったからといって、当初計画にないボーナスをとることもできません。途中変更等があった場合には、役員報酬が会社にとっての経費と認められず、逆に税負担が増加してしまう可能性があります。

しかし、その役員報酬の額を設定するのも難しいところ。小さすぎても大きすぎてもデメリットがあります。法人になれば、事業からの利益の中で本人が自由に使えるのは、原則、役員報酬のみです。そのため、役員報酬を低く設定し過ぎれば、本人の生活が苦しくなり、法人税等の会社の税金負担が増えます。一方で、役員報酬を高く設定し過ぎた場合はどうでしょうか。会社の儲けや現金が不十分であれば、本人が会社に貸す形でお金を回していくしかありません。つまり、自分のお金を役員報酬のかたちで回すことになります。それによって、個人の所得税・住民税・健康保険料等の負担も増大します。自分のお金を回しただけであっても、です。

法人としての利益がゼロやマイナスになったとしても、法人の税金負担はゼロにはなりません。法人住民税均等割というものがあり、例えば東京23区内の場合、小規模の法人でも年間最低7万円を納付する必要があります。

では、社会保険の面ではどうでしょうか。

個人事業主では、従業員が5人未満であれば、基本的に社会保険に加入する義務はありません。しかし法人になれば、例え役員1名でも社会保険の強制加入となります。健康保険料・厚生年金と合わせて給与の約30%で、これを従業員と会社で折半します。具体的には、15%を従業員給与から天引きし、それに15%を上乗せしてあわせて会社から引き落とされます。例えば、月40万円をご自身の役員報酬、月20万円の従業員を2人と考えた場合、毎月12万円の社会保険料の引き落としがあるのです。自身が年収500万円に満たない事業規模で、年間140万円を超える引き落としは小さいとは言えません。

また、会社を設立し、法人になると、社会保険や税務申告等もろもろの手続や書類の準備が煩雑になります。こうした手続等を専門家に任せるのにも、費用が掛かります。費用を抑えるためにすべてを自分でやることも可能ですが、会社のスタートアップで本業に集中すべきところを手続に時間とエネルギーを注ぎ込むのもまた本末転倒でしょう。

設立した会社をなくすのにもコストがかかる

こうした費用負担が苦しくなり、会社をやめたい!と思っても、それも簡単ではありません。会社を解散・清算するには、登記費用をかけて登記を行なう必要があります。権利義務関係・債権債務関係が残っている場合には、さらにその整理に時間とコストがかかります。

税務署等への届出のみで会社を休眠させるという選択肢もありますが、休眠後も申告等を行なう必要があります。また、自治体によっては、上で説明した法人住民税均等割、年間7万円の負担は免れないケースもあります。

ちなみに、滞納している税金がある場合には納税義務は消滅せず、休眠させたくても休眠自体できず、事業を続ける必要があります。

まずは会社設立以外の節税法を考えてみよう

相談者さんは個人で仕事をはじめる際、税務署に届出をしましたか?特に、「所得税の青色申告承認申請書」です。

これらを税務署に提出することで、青色申告による確定申告ができます。青色申告には様々なメリットがありますが、その中に所得から最大65万円を控除できるというものがあります。これは大きな節税効果があります。

退職金、クルマや保険も経費に、といって法人化を考える人もいますが、個人事業主として類似した効果を得られる方法もあります。まずは、法人化せずともできる節税方法も考えてみて下さい。

確かに、お金が余ってしょうがない、と言った場合には、法人の方が節税の面からは選択肢が広がるでしょう。しかし、規模が小さかったり、そこまで資金が潤沢でない場合には、法人化したことによる負担の方がはるかに大きくなるケースもあります。

そもそも、法人化して「節税」できるほどの儲けが期待できるのか、しっかり考えてみましょう。

フリーランスになって夫の扶養範囲内でキャリアを生かしたいという女性がいる一方で、起業して今以上に稼ぎたい女性もいる。



■賢人のまとめ
規模が小さかったり、そこまで資金が潤沢でない場合には、法人化したことによる負担の方がはるかに大きくなるケースもあります。設立コストをかけ、今回お話した維持費用を負担した結果、資金繰りに行き詰ってしまった、というケースも少なくありません。法人化=節税というイメージを先行させるのではなく、法人化した場合の事業展開をメリットやコスト面含め、長期的な視点でしっかりシミュレーションをしてみてください。

■プロフィール

女子マネーの達人 森井じゅん

1980年生まれ。高校を中退後、大検を取得。レイクランド大学ジャパンキャンパスを経てネバダ州立リノ大学に留学。留学中はカジノの経理部で日常経理を担当。

一女を出産し帰国後、シングルマザーとして子育てをしながら公認会計士資格を取得。平成26年に森井会計事務所を開設し、税務申告業務及びコンサル業務を行なっている。