イラスト=辛酸なめ子

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サプリメントや健康食品は、医薬品ではないため、「効く」「防ぐ」といった医学的な効能を謳うことはできない。だが販売企業は商品力を最大限にアピールすべく、パッケージやカタログに法律スレスレの売り文句も並んでいる。そんな「ポエム化」したキャッチコピーの中から、コラムニストの辛酸なめ子さんが「15作品」を選んだ。難易度別にお届けしよう――。

■「残尿感」→「残った感」などポエム化する表現

先日、知人からいただいたサプリメントを飲もうとして“効能”は何かと思ってパッケージを熟読したけれどよくわかりませんでした。商品名で検索したら「業界が注目のビルベリーエキスを豊富に含む現代人の美容と健康を考えたサプリメント」と出てきましたが、実態がよくつかめませんでした。けっこう高級なサプリのようですが、さらにくわしい効能を調べてから飲みたいです。

最近、サプリに関しては抽象的でふわっとした表現が多くなっているように感じます。そうした「ポエム化」が進んでいるのは、法規制が厳しくなっているせいでしょうか。健康食品であるサプリは、体内の変化や具体的な効果をうたってはいけないそうです。

以前、サプリについて仕事をした時も、「イボ」は「ポツポツ」、「生理痛」は「毎月のブルー」に言い換えるように、という指示がありました。それならまだ、身体がどんな状況のときに口にするものか、またどんな効果があるのか予測できます。

しかし、サプリのコピーの中には、購買者に高度な読解力が求められるものも多くあります。身近なサプリの売り場やカタログを拝見し、難易度別に集めてみました。

【難易度★☆☆☆☆】

▼「吸収力に自信! 1日6粒でホネセレブ」
癒し系のショップのカタログにて採集したカルシウムのサプリのコピーです。「ホネセレブ」という造語に痺れました。

▼「残った感をケア。スッキリした毎日へ」
大手サプリ店のカタログで発見しました。中高年層によくある残尿感をこんな上品でマイルドに表現できるとは……。

▼「変化期の男性ホルモンに着目。男性の底力をアップ」
こちらも大手サプリ店のカタログから。ヤマイモが主成分になっていたので「底力」とは「精力」のことでしょうか。こちらも上品です。

▼「パソコンやゲームが好きな方に」
薬局の店頭コピーで見つけました。目にいいとされるブルーベリーのサプリでしたが、顧客のメインターゲットをオタクに限定することで、一般客を遠ざけしまっているような印象もあります。

▼「力強い奮起力を実感!」
雑誌「週刊現代」に掲載されていたサプリ広告より。男性誌ということから、精力増強であることがすぐにわかります。「勃起」を「奮起」とは、ナイスな言い換えで、男性のいじましさが伝わります。「こんな方は是非お試しを」というコーナーに「あの頃の放出感を味わいたい方」とありました。

■ズバリと効能を書けないがゆえの苦肉のコピー

【難易度★★☆☆☆】

▼「『自分を守る力』を高める!」
癒し系のショップのカタログに記載されていました。「自分を守る力」とは端的にいえば「免疫力」のことを言っているのでしょうか、ちょっと大げさでまどろっこしい表現です。

▼「気分のウキウキを助ける春ウコン」
癒し系のショップのカタログにて見つけました。ウコンといえば二日酔い防止というイメージですが、「ウキウキを助ける」こともできたのですね。絶対にありえませんが、ドラッグが合法なら、こんな表現になるのかもしれません。

▼「考える力が気になる方に」
薬局で売られていたDHAサプリを店がこう書いて販売していました。青魚などに多く含まれるDHAはたしかに脳にいいというイメージがありますが、「考える力が気になる」というのは、日本語としてよくわからない表現です。

【難易度★★★☆☆】

▼「『サビつき』『コゲつき』に着目。気になる糖の対策に」
大手サプリ店のカタログに載っていたやや難解な表現です。実は「体の酸化=サビつき」、「体の糖化=コゲつき」はサプリ業界の頻出ワードです。老化を促し、健康や美容に悪影響を与えるといわれているので、そのケアをするサプリが数多く売られています。こうした前提を知らない人には、この文章だけでは意味がわからないでしょう。

▼「悩みが深くなってきた世代のデイリーケアに」
こちらも大手サプリ店のカタログに掲載されていた美容系サプリの言い回し。人間には「悩みが深くなってくる」時期があるのだなと思わされるのと同時に、底知れぬ「人間の業」を感じますが、何にどう効くのかはミステリアスです。

▼「日に日にサラサラ」
大手食品会社のサプリのカタログより採集。血液のことだと思われますが、決して「血液」という単語を出しません。「海と大地のサラサラ成分」としてDHAとEPA、ケセルチンが含有。「サラサラ」という擬音が頻発されて風流です。

▼「日に日に輝き」
大手食品会社の美容系サプリのパッケージのコピー。パンフに載っていた「喜びの声(サプリ愛飲者のコメント)」も、「揺らぎの悩みがなくなりました」「毎日にハリが出たおかげで、1日中イキイキ元気でいられます!」と、こちらも抽象的で読解力が必要ですが、飲めばいいことはありそうな雰囲気がします。

■擬音や擬態語、抽象的表現を駆使した「文学」

【難易度★★★★☆】

▼「“美健素材”のチカラで毎日をイキイキと過ごす!」
先日知人にもらったサプリのパッケージを見ても効果がまったくわからないので商品名で検索したところ、上記のような「美健素材」なる抽象的な表現が出てきました。主な成分には、胡椒の一種であるヒハツ、沖縄県産やんばる生姜などが配合されています。これらがすなわち、美健素材のようです。

▼「頭への“ごちそう”となる特別な栄養食品」
癒し系のショップのカタログで発見しました。「頭へのごちそう」とは「頭髪」なのか「脳」なのか素人にはわかりません。Kリゾレシチンという成分を検索したら「認知症やうつ病の予防」と出てきてやっとわかりました。

▼「『捨てる』から生まれる、美しさ。これからの大人のエイジングケア」
大手サプリ店のカタログ。サプリで体内断捨離ができるのでしょうか。想像力を刺激します。調べたけれど結局何を捨てるのかわかりませんでした。

【難易度★★★★★】

▼「スッキリ生活を始めましょう!」
大手食品会社のサプリのカタログ。このカタログの中には一切「花粉症」という単語は出てこないのですが、熟読すると花粉症やアレルギー対策のサプリだということがわかってきます。購入者の喜びの声も「毎年春が一番辛いんです」「もうティッシュがなくても慌てません!」「季節の変わり目にはいつも悩まされます」「朝からモワーッとして仕事に集中できなかったりする日も……」と、絶対「花粉症」と言わずに表現するという高度なテクニックがたくさん見受けられました。何のためのサプリかわかった時は充実感すらありました。

以上、サプリの抽象的すぎるポエムをご紹介しました。

擬音や擬態語、抽象的表現を駆使したサプリのコピーは文学的でもあります。少し調べましたら、こうしたポエム化の流れは2014年に薬事法が薬機法へと改められたことでさらにその技巧が進化したようです。ただ、文学的になればなるほど現実離れしてしまい、効果が薄らぐような気も……。ある程度効能がはっきり書かれていたほうが脳にインプットされてプラシーボ的にも効果がアップするように思います。

そして、コピーを深読みできないとサプリを選べないので、知的レベルで健康が左右されるのではないかと若干心配です。逆に言えば、サプリのコピーで脳トレができて、国語力が鍛えられるかもしれません。サプリは飲むだけでなく、そのパッケージやカタログまでしっかり有効利用したいです。

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(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子 イラスト=辛酸なめ子 写真=iStock.com)