―なんで“にゃんにゃんOL”を選ぶの!?

ハイスペ男子の結婚式で、こう思ったことのある高学歴女子は多いのではないだろうか。

お嬢様女子校から東大に入り、コンサルティング会社でマネージャーになるべく仕事に邁進している大西夏希(28歳)もその一人。

一流大学に入り、一流企業で仕事を頑張ってきた自分は、婚活なんかしなくても自然と結婚できるはず ……。

そう思っている夏希が、結婚できない本当の理由とは―?




―なんで、あんなレベルの女と結婚する訳……?

夏希は、ここ2、3年で何度も抱いたこの感情が顔に出ないよう必死に笑顔を作り、入場してくる新郎新婦へ向け拍手をおくった。周囲は我先にと新郎新婦へ駆け寄り、写真におさめようとしているが、とてもそんな気分にはなれない。

今日は、勤務先のコンサルティング会社の同期、藤澤慶介の結婚式の二次会に来ている。28歳の夏希の友人の間では、数年前から結婚の第一次ピークが訪れていた。

男性アナウンサーのような爽やかな風貌の慶介は、内定式の時から目立っていた。懇親会で慶應の内部生ということを知り、夏希は密かに心ときめかせていたのだ。

港区にあるお嬢様学校として名高い女子校に初等科から通い、学年でただ一人東京大学へ進学した夏希。努力に努力を重ねてきた自分こそが、ハイスぺ男子ともてはやされている人種と釣り合うはずなのだ。

…それなのに。

夏希が消化しきれていないのは、自分と進展しなかったことでは無い。新婦の“スペックの低さ”に胸がざわつくのだ。

慶介の隣で勝ち誇ったような笑みを浮かべている新婦の見た目は、中の下。ウェディングドレスを着ていても、腰の位置の低さがハッキリと分かる。

自分だって絶世の美女では無いが、だからこそ努力して洗練された大人の女性になったつもりだ。その証拠に、年に一度は赴く海外の高級リゾートでも、恭しく扱ってもらえている。グローバルに通用する風格を身につけたのだ。

それに引き換え、この新婦の年齢に伴わない品格の無さは何だろう。これを愛嬌とでも言うのだろうか?

夏希が悶々としている間に、会場では二人の生い立ちムービーが流れ始めた。朋子という名の新婦がお嬢様女子大出身ともちあげられていて、思わず卒倒しそうになる。夏希が初等科から通った女子校に、大学から入ったようだ。

お嬢様って…。大学からのクセに厚かましい。

女子大を卒業後は大手広告代理店で働いていたそうだ。契約社員に違いないのだが、敢えて触れずにムービーは進んでいく。

…つまり、にゃんにゃんOLってことね。

苦々しい思いをシャンパンで流し込んでいると、背後から「夏希〜」と甘ったるい声がした。


声の主は、高学歴女の天敵。結婚式でよく見る「○○女子」だった!


タンポポ系お嬢様に抱く、軽蔑と嫉妬


天女の羽衣を想起させるような、ワンピースのデザインを台無しにする安っぽいストールを纏った集団から、こちらに近付いてきたのは、幼馴染の高橋千春だった。

千春は初等科から一緒で、そのまま女子大に進学し疎遠になっていたが、同じ会社で働くようになり、何かと顔を合わせる機会が増えた。

と言っても千春はバックオフィス。キャリア志向の女ではない。

千春は『FOXEY』のワンピースと、アップにした髪に『ALEXANDRE DE PARIS』のバレッタを添えた、王道のお嬢様スタイル。しかし、どこか華やかさに欠ける。

タンポポのように、見れば可愛いという感情は湧くが、決してお花屋さんに並ぶことの無い花―。千春はそんな女だった。




「大学のお友達?」

なるべく刺々しくならないように注意を払いながら、羽衣軍団の方へ視線を向ける。

「うん。サークルが一緒だったグループなの。」

聞けば、東大男子とお嬢様女子大からなるテニスサークルのメンバーらしい。先程から、新郎側の友人達に声をかけてもらえるのを待っているのが手にとる様に分かり滑稽だった。

新郎側のグループに目をやると、一際目立つ美人がいた。三浦留美だ。こちらの視線に気付き近付いてくる。

留美も初等科からの幼馴染で、半数がエスカレーター式に女子大に進む中、一緒に受験勉強をした戦友でもある。慶應義塾大学に進学し、持ち前の美貌を活かし化粧品会社のPRをしている。

同じ慶應出身の広告代理店の男性と結婚したばかりの留美に、猫なで声で千春が話しかける。

「良いなあ、私も早く素敵な人と結婚したい♡留美のご主人のお友達で独身の方いらしたら紹介してもらえないかな…?」

笑顔で応える留美の隣で、夏希は軽蔑と同時に湧き上がった嫉妬心を処理しきれないでいた。

…私だって結婚したい。

そう強く願わなくても、自分のような女は自然に結婚できるものだと思っていた。

一流大学に入り、一流企業での仕事を頑張ってきた自分は、婚活なんかしなくても自然と素敵な王子様(ハイスペ男子)と結婚できるはず。

だからこれまで、「結婚したい」と素直に口にすることは決してなかった。


高学歴女子が結婚できない理由とは…?


高学歴女子が結婚できないのはにゃんにゃんOLにハイスぺ男子をとられるから?


「慶介まで、あんなダサい女と結婚するなんて…。それに、あの学歴とキャリアじゃ生まれてくる子供だって、慶應に入れないかもしれないのよ?それで良いのかしら。」

モヤモヤした思いを吐き出したくて、留美を『マデュロ』に連れ出した。

「女子大出身なんだから、MARCH出身の男の人で充分じゃない。こっちの畑を荒らさないで欲しいわ。お蔭で釣り合う男の人がどんどんいなくなっちゃう。」

何一つ自分よりもスペックで秀でていると思えない女が、自分と同じかそれ以上のスペックを持つ男子と次々と結婚していくことは、許せないのだ。それも、自分が一生懸命仕事をしている間に。

夏希は入社してからというもの、平日は終電が無くなるまで働いて、休日は月10冊のノルマの読書に明け暮れた。

その甲斐あって順調に昇格し、ようやくプライベートを充実させたいと思えるようになった時には、大学や会社で知り合った男性が皆、にゃんにゃんOLと結婚していたなんて、あんまりではないか。

結婚は一人前に仕事ができるようになってからするもの、自立した大人同士が結ばれてこそ幸せになれるはず、そう信じていた自分は間違っていたのだろうか。

「にゃんにゃんOLさえいなければ、結婚できるのにっ。」

思わず、本音が漏れる。

「えっ夏希って結婚したかったの?」
「したく無いワケないじゃないっ!」

留美の驚いた様子に、思わず語気が強くなった。

「うーん…。なら言うけどね……。」

慎重に言葉を選びながら留美は続けた。

「例えばさ、仕事で新商品の企画と販売戦略の立案を頼まれたとするじゃない?満を持して発売したけど、売れなかった。その時に、競合他社の商品のせいにするの?」

「えっ…それって、どういうこと?」

「”にゃんにゃんOLさえいなければ、結婚できるのにっ”という発想は、競合他社の商品のせいで売れませんでしたって片付けるのと同じことなんじゃないかなぁ。仕事だったら、どうやって自社製品を売れるようにするか、もっと踏み込んで考えるよね?」

…つまり、自社製品=私自身に原因があるってこと!?

でも、これ以上、何を努力したら良いんだろう。

「とりあえず、今度、千春に頼まれたお食事会をするから、夏希も来なよ。」

困惑する夏希をなだめるように留美は言うのだった。

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留美がお食事会で見抜いた、高学歴女子の致命的な勘違いとは?