by Adam Cohn

「マイクロチップを体に埋め込む」という行為は近年多くの人々が注目するところとなっており、2017年にはアメリカの企業が「従業員の体内にマイクロチップを埋め込む」という試みを始めるなど、一部では実用化の動きも出始めています。そんな中、スウェーデンの人々が多くマイクロチップを体内に埋め込んでいるとのことで、「いったいなぜスウェーデン人はマイクロチップを体内に埋め込みたがるのか?」についてまとめた記事がニュースサイトのThe Conversationに掲載されています。

Thousands of Swedes are inserting microchips into themselves - here's why

https://theconversation.com/thousands-of-swedes-are-inserting-microchips-into-themselves-heres-why-97741

体内に埋め込まれるマイクロチップは、銅製のアンテナをエポキシ樹脂や無塩のホウケイ酸ガラスで包んだもので、RFIDを用いた通信を行ってクレジットカードやキーカード、交通系ICカードとして使用することができます。財布などにカード類を入れていると、財布を盗まれた時やなくした時にそれらのカードが使用できなくなったり、最悪の場合は悪用されたりすることもありますが、体内に埋め込んでしまえば盗難や紛失の心配もなく、持ち運びにかさばることもありません。

しかし、多くの人々にとって「体内にマイクロチップを埋め込む」という行為は、実用的な利点よりも「常に監視されている」といったディストピア的なイメージが目に付くもの。そんな中、スウェーデンでは実に3500人以上の人々がマイクロチップを体内に埋め込んでおり、非常に多くの人々が最新技術を自らの体で実験していることがわかっています。

近年、生物医学的な実験を自宅やガレージで行うアマチュア化学者が増えており、彼らのことを「バイオハッカー」と呼びます。バイオハッカーには2種類存在しており、家庭用器具から開発途上国の生活水準を向上させる安価な解決策を見つけたり、新しい発酵食品の開発を行ったりする人々を「ウェットウェアハッカー」と分類します。一方、人体そのものを改善することに焦点を当てたバイオハッカーのことを、「トランスヒューマニスト」と呼び、トランスヒューマニストは自らの体を実験体としてさまざまな技術を実験することに情熱を注いでいます。



by Mark van Laere

上記に挙げたバイオハッカーの潮流は、文化や社会の違いによって地域的な差が出ているとのこと。例えば北米で活動しているバイオハッカーは安価な方法で薬を製造したり、簡易な医療行為を日用品で行ったりすることを目的にしています。一方でヨーロッパのバイオハッカーは、開発途上国の人々を助ける方法を探すか、より「芸術性の高い」バイオハッキング技術の探究に熱を上げています。

しかし、スウェーデンのバイオハッキング文化は、ヨーロッパの他の地域とも違うそうです。スウェーデンのバイオハッカーたちは一般に「トランスヒューマニスト」に属しており、体内に行動記録を追跡可能なチップを埋め込んだり、クレジットカードやICカードの代わりとなるマイクロチップを埋め込んだりして、人体を従来よりもテクノロジーに接続する試みに興味を持っているのです。

「なぜスウェーデンではバイオハッカーたちがマイクロチップを埋め込むことに抵抗がないのか?」という疑問に対する回答として、「スウェーデンではデジタルテクノロジーに対する信頼が厚く、個人情報を共有することにあまり抵抗がない」という理由が挙げられます。過去20年にわたってスウェーデン政府はデジタル的なインフラの整備に注力してきたため、スウェーデンの経済におけるデジタルサービスの輸出や革新の比重は非常に大きいとのこと。SkypeやSpotifyといった世界的なデジタル企業も、スウェーデンが発祥です。



社会的にデジタルテクノロジーに対する信頼が大きいスウェーデンでは、「マイクロチップを体内に埋め込む」という一見ディストピア的に思える発想も、人体をデジタルテクノロジーにより便利な物に変えるというポジティブな発想で捉えられているとのこと。また、1998年にはスウェーデン人のニック・ボストロム氏が人体改造を主とするバイオハッキング技術の倫理的使用を提唱するための国際組織Humanity+を設立しており、そういった流れもあり、スウェーデン人の多くが人体改造を肯定的に捉えているのかもしれません。