発達障害は“親の愛情”と関係ない。少年Aへの診断ミスが生んだ悲劇

写真拡大

 映画『友罪』が話題を呼んでいます。それは、豪華なキャスト陣はもちろん、映画と原作の同名小説が、1997年に起こった「神戸連続児童殺傷事件」の「酒鬼薔薇聖斗」こと少年Aをモチーフにしているからです(明言はされていませんが、明らかにそうです)。

◆瑛太が演じる「少年A」は、更生しているのか?
 映画では、瑛太さん演じる謎の青年「鈴木」と、生田斗真さん演じる元週刊誌記者「益田」が、ある工場で同僚になります。友達になれたと思った矢先、鈴木が17年前の児童殺傷事件の犯人「少年A」だということに、益田は気づきます。少年Aは医療少年院で矯正教育を受けて、出てきていたのです。

 そんなとき、近所で新たな児童殺傷事件が起きます。犯人は少年Aではないのか? 彼は本当に更生しているのか――?

「酒鬼薔薇」事件の当時、筆者(ジャーナリスト・草薙厚子)が取材・執筆した『少年A 矯正2500日全記録』(文藝春秋)も、映画に一役を買っていたとしたら、出版した意味があったのではないかと思います。

「酒鬼薔薇」こと元「少年A」は、2005年に関東医療少年院を退院しています。2015年には、突然、手記『絶歌』を出版し、世間を騒然とさせました。と同時に、ホームページを立ち上げ、ナメクジに顔がついているなどグロテスクなたくさんの絵や、ムキムキに鍛えた自分の肉体の写真などを掲載しました(現在は閉鎖)。

 元少年Aは、本当に更生したのだろうか? 多くの人が疑問に思ったでしょう。

 手記には少年院での「矯正教育」に関する記述がほとんど見当たりませんでした。Aはもう二度と事件を起こす可能性はないのか、それとも矯正教育は失敗に終わり、当時と何も変わらない状態のまま、現在を迎えているのでしょうか。

 以前、元少年Aが入院していた関東医療少年院の元院長は、「矯正教育は失敗だった」とマスコミに語りました(2015年7月2日、NHK『クローズアップ現代』など)。

 ではいったい何が失敗だったのでしょうか。

◆自閉症スペクトラム障害は、愛着障害と誤診されやすい
 Aは矯正教育を受けている1999年の段階で、既に発達障害の一種「アスペルガー障害」(現在の「自閉症スペクトラム障害」)という診断を受けていたことが明らかになっています。ところが、日本の精神科医の中でも、当時は発達障害について詳しく研究している医師は少数で、マイナーな疾患としてしか認識されていませんでした。

 結果、Aが受けた矯正教育は、「自閉症スペクトラム障害」ではなく「愛着障害」を克服するプログラムでした。

 自閉症スペクトラム障害の人は、愛着障害と誤診されることが多いのです。愛着障害とは、母親など養育者との愛着が形成されず、対人関係や行動に問題が起きる状態のことです。子どもの愛着障害の症状は、発達障害の症状に似ているため、子どもを扱うケースが少ない精神科医は、混同してしまうことが少なくないといいます。

 どちらにも「養育者と目が合いにくい」「感情をあまり表現しない」「認知と行動に遅れがある」「対人関係を円滑にするのが難しい」という共通点はみられますが、自閉症スペクトラム障害に見られる「こだわり」や「同じことを何度もする」といった特徴は愛着障害には見られません。

 決定的な違いは「発達障害」は先天性のもので、「愛着障害」は後天性のものだという点。そのため「愛着障害」は、愛着がきちんと形成される環境で子どもを育てれば、症状が改善するケースが多い。一方、自閉症スペクトラム障害の人は、一人を好み、コミュニケーションが苦手で、愛着が薄いのです。

◆「育て直し」だけでは解決しなかった
 当時、関東医療少年院では、少年Aの「愛着障害」を克服するために、スタッフ内で疑似家族をつくり「育て直し」を行いました。中でも、母親役の女性医師に、Aが心を開いていたとも報じられました(映画では、この女医を冨田靖子さんが演じています)。