※写真はイメージです(写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs)

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手取り月収は約78万円、年収は約1500万円という港区在住の独身男性(42)。毎月約5万円をかけてジムで体を鍛え、7万〜8万円分の有料セミナーを受講。そうした「自己投資」に年140万円を使っているが、実は家計は火の車で、貯蓄は150万円しかない。「独身貴族」を貯蓄体質に変えるにはどうすればいいのか。ファイナンシャルプランナーの横山光昭氏は「自己投資の妥当性は、現在だけでなく将来も考えて判断したほうがいい」という――。

■港区在住の独身貴族、月の支出は「84万円超」

「今まで自分自身に投資をして、たくさん稼ぐようになったのに、ふと気づくと貯蓄ができていないんです」

IT系企業の会社員で独身男性の黒川正樹さん(仮名・42)は元気がありません。

毎月の手取り収入が60万円弱、業績により年間200〜300万円のボーナスを支給されています。また父から引き継いだマンション経営により、月20万円弱の家賃収入があります。年収を計算してみると、1500万円前後。それなのに貯蓄は150万円ほどしかありません。

どうして貯蓄額が気になるようになったか。わけがありました。

4歳年下の弟が最近マイホームを購入した、と聞いたからです。この寝耳に水の情報に、黒川さんは「弟には妻子もいて、家もある。それにひきかえ、俺はパートナーも、住宅購入の頭金にする貯蓄すらない……」と悲嘆に暮れたそうです。

今まで、自分を磨くための「自己投資」をたくさんしてきた。お金を費やした。そのことに後悔はない。だが、ツケは残った。「家族」「家」といった40代らしい「所有物」のないない自分がひどく情けなく、猛然と焦りの気持ちがわいてきたようです。黒川さんはしょんぼりした表情でこう言いました。

「そこで、遅ればせながらできる限り倹約をし、貯蓄を増やしたいのです。どうすれば、お金は貯まるのでしょうか」

ちょっと切羽詰まった感じで家計相談は始まりました。

▼自分を鍛え磨くための「教育費」しめて月12万円

黒川さんは今までどのようなものにお金を使ってきたのでしょうか。確認すると、「自己投資」という支出は月12.2万円。黒川さんはそうした出費をすべて「教育費」と称していました。

月12.2万円の「教育費」の内訳で、最も高額だったのが月7万〜8万円の「勉強費用」です。現在の会社ではたくさんの職責を担っていますが、何かの拍子に風向きが変われば、現在の年収を維持できるかどうかは不透明です。そんなリスクに備え、業界研究会や勉強会など有料のセミナーにも月数回参加しているそうです。また、関連の書籍なども随時購入しています。

「教育費」の中でその次に高額だったのは、月約5万円のジム費用でした。1対1でトレーニングを指導する「パーソナルトレーナー」をつけて、最新のマシンで週4〜5日、筋トレやストレッチをしています。仕事で成功するためには体が資本。油断するとすぐにメタボ化する傾向があるので、スパルタ的にトレーニングしています。黒川さんにとって汗を流すことは自己研鑽の「教育費」という考えなのだそうです。

■交際費7万、ブランド品5万、タクシー代5万……

教育費以外も高額です。月7.3万円の「交際費」は、セミナー参加に関連したものが大半でした。異業種交流を深め、人生や仕事の幅を広げようと、飲食付きの懇親会にもまめに顔を出しています。

食費は月10万円。さらに昼食代や外食費を含めると月12.4万円です。健康・体力維持の意識が高く食材に細心の注意を使うあまり、購入する食品や総菜も高額になってしまうそうです。それでも一人暮らしとしては使い過ぎです。

▼ストレス発散のスマホゲームで課金は毎月数万円

こうなると一事が万事です。黒川さんは一貫した高コスト体質だといえます。例えば、被服費は月5.1万円。「人は外見が9割」という考えで、毎月、何かしら高級ブランド品のアイテムを購入しています。

交際範囲の広さゆえにあまり社名を聞いたことのない外資系生命保険会社の生命保険に、保障内容をよく把握しないまま加入していました。生命保険料は月4.8万円です。

毎晩のようにお付き合いの懇親会があり、帰宅が深夜になれば、電車に乗るのが面倒くさくなり、タクシーで帰ります。交通費はチリも積もって月4.8万円ということでした。

また、仕事のストレス発散でネットゲームに熱中しています。スマホやタブレットなどの通信費にはゲーム課金も加わって月5.2万円になっていました。

このようにして約78万円の手取り月収をすっかり使い果たし、さらに毎月7万円近くの大赤字が発生している状態です。マイホームの頭金ができないのは無理もありません。支出の内容が分かったので、黒川さんの希望通りに、必要最低限まで支出を削減すべく、その方法を検討し、実践していくことにしました。

■月33万円減! 家計費をばっさばっさと削る

簡単に削ることができたのは、通信費です。職場でWi−Fiの環境があるにもかかわらず、常に自前のデータ通信を使っていたことが判明したので、今後はWi−Fiを利用することにし、通信プランは「格安SIM」に切り替えました。

ただ、「ゲームは気分転換に継続したい」ということだったので、従量制ではなく、月額約3000円のプラン内で楽しむことにしました。

生命保険は、義理で加入した商品とはいえ、途中でやめることにはためらいがあるとのことだったので、保障内容を見直し、月々の支払いを4.8万円から2.1万円に見直しました。

そして、最も多くコストがかかっていた教育費は、「本当に必要かどうか」を考えて、必要な時だけ活用していくことにしました。その結果、ジムの費用は2万円に、有料セミナーの費用は2万〜3万円に減りました。

交際費も確実に自分の将来につながると思われるものを中心に絞り込んでもらいました。その結果、洋服を買う頻度(被服費)も減り、タクシーの利用(交通費)も減りました。

食費は、「高額なものほど食材のクオリティも高いはず」という思い込みで高級総菜を手に取っていましたが、ビタミン、ミネラルなど摂取すべき栄養素を意識すると、価格の高さは関係がないことがわかりました。このため近所のスーパーでの買い物を増やすと、自然と買いすぎも防げるようになりました。食材の余りも減り、ランチを手づくりして昼食代を節約する日も出てきました。

こうした見直しの結果、月33万円の支出削減ができました。毎月の黒字はなんと26万4000円です。毎月安定してこの黒字を出すことができれば、1年間で300万円以上を貯蓄できます。ボーナスを合わせれば、年間500万円以上の貯蓄も可能です。

高い収入を得るには、さまざまな努力が必要でしょう。そのためのコストも年々高くなるでしょうが、自己投資にお金をかけすぎると、自分を飛躍させる「ここぞ」という場面で、まとまった資金を用意できないことになります。

黒川さんは弟さんの「大きな買い物」が浪費に気づくきっかけとなりました。もし、そのまま気づかなければ、「自己投資倒れ」になってしまう危険性がありました。

黒川さんは40歳半ばですが、今から貯めていけば、家も買えるでしょうし、老後資金も十分に準備できるはずです。今まで頑張ってきたことが無にならないように、しっかりと意味のあるお金の使い方を考えてほしいと思います。

■赤字月7万が「黒字年500万」に変身できた理由

▼【家計費コストカット額ランキング】

1位 −7.4万円 教育費
パーソナルトレーナー(ジム)、勉強セミナー参加の回数を検討。必要だと思ったものだけに。

2位 −4.4万円 食費
食材へのこだわりをほどほどにし、体を作る栄養素に着目して高級品を買わないように。自炊も始める。

3位 −3.9万円 交際費
お付き合いの優先順位を考え、確実に自分の将来につながるものを最優先し、他は控えることに。

4位 −3.4万円 通信費
スマホは無料Wifi環境でできるだけ使用するようにし、端末も格安SIMにかえた。癖になっていたゲーム課金は一定額までとし、金額が膨らむことを防いだ。

5位 −3.1万円 会社経費(未精算)
面倒くさいからと清算作業をズルズル後ろ延ばしにしないで、毎週曜日を決めて必ず実行。

6位 −3.0万円 被服費(クリーニング代含む)
交際費が減ると、洋服の必要度も減り、支出が減った。

7位 −2.7万円 生命保険料
保障内容を見直し、現状必要であると思われる内容に変更

8位 −2.0万円 交通費
タクシーの利用は終電車が終わってしまった時だけに限った。ほかは電車移動中心に。

9位 −1.2万円 その他
2紙取っていた新聞をよく読む1紙だけに絞り、あまり見ない有料テレビも解約。

10位 −1.1万円 医療費
複数商品飲んでいたサプリメントに優先順位をつけ、効果があって必要だと思うものだけに限定。

11位 −0.8万円 外食費(昼食代含む)
夕食の残りものなど食材を生かし、時々、手作りお弁当を持参した

(家計再生コンサルタント、マイエフピー代表取締役、ファイナンシャルプランナー 横山 光昭 写真=iStock.com)