"プロのハゲ"とつぶやいた報道部長の末路
■匿名でも決して、安心はできない
軽い気持ちでSNSに書き込んだひと言。それが不特定多数の人から批判の的にされ、大量の中傷メールが届いたり、ネット上に悪口が書き込まれる……。俗に言う“炎上”の状態だ。「匿名」「プライベート用」という理由で、自分には起こらないだろうと考えている一般人も注意すべきだと、ネット関連の法律に詳しい清水陽平弁護士は警告する。
「フェイスブックやインスタグラムなど、数あるSNSの中で、炎上が起こりやすいのがツイッターです。SNSでつながっている友人が少ないからといって、安心できるわけではありません。友人とのやりとりは他の人に見えているし、赤の他人が見られないように『鍵をかける』設定にしても、スクリーンショットに撮って拡散される恐れもあります」
友だちが少ないことで、世に公開されている意識が薄くなり、炎上を招く書き込みをしてしまうことは多い。非難を受けやすい内容は、攻撃的・差別的な発言や、違法行為の自慢など。書いた側に悪意がなくとも、叩かれることもある。最近多いのは、ジェンダー関係の書き込みだ。
そして炎上のターゲットにされれば、「ネット中傷を受けている人の多くは、うつ症状に陥ることが多い」(清水氏)というように、多大な精神的ダメージを受ける。さらには私生活や仕事での損失をもたらすことも。
「匿名であっても、それまでの書き込みの内容や、SNSでつながる友人の断片的情報をつなぎあわせて、勤務先や実名が特定されることがあります。個人が特定されると自宅や勤務先にまで嫌がらせがいくケースも。業務やモラルに関わることになれば、評価が下がり、退職に追い込まれる事例も出ています」(同)
炎上はどうやったら防げるのか。詳しくは「炎上させないための14カ条」を確認してほしいが、清水氏はこの中でも「常に公開されているという認識をしっかりともつこと」「価値観を押しつける発言は避けること」の2つが特に大事だと語る。SNSで友人と私信をするのであれば、ダイレクトメッセージ機能を使い、人目にふれないように気をつける。そして匿名だとしても他人を攻撃したり批判するような発言は避け、自分の考えが絶対だという意識を捨てる。
(1)SNSは公開されていることを認識する。
(2)SNS上の友人が少なくても炎上リスクがあることを認識する。
(3)SNSは友人知人への連絡用ツールとして用いると危険だと認識する。
(4)多様な価値観の人がいるので、自分の価値観を押しつけず、他人の価値観を否定しない。自分の書き込みに対して批判があることを覚悟する。
(5)批判に対して中傷や人格的な攻撃を行わない。
(6)プライバシーを侵害する書き込みをしない。
(7)差別的、攻撃的な言動など、他人を不快にさせる書き込みをしない。
(8)政治、宗教、思想・信条など、デリケートな話題に関する書き込みをしない。
(9)アカウントなどの画像使用や他人の著作物を勝手に使用・加工した書き込みをしない。
(10)他人に対する中傷や単なる悪口の書き込みをしない。
(11)自分のプライバシーに関わる書き込みをしない。
(12)交通違反、暴行・脅迫、無銭飲食、恐喝行為、パワハラ発言、セクハラ発言など、違法行為についての告白をしない。
(13)企業の秘密情報に関する書き込みをしない。
(14)企業に関する情報を発信しない。仮に発信するとしても企業の公式見解ではないことを明記する。
※清水陽平著『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル』(弘文堂)をもとに編集部作成。
万が一、炎上が起きたらどうすればいいか。
「一番のお勧めは、『逃げるが勝ち』で、個人のアカウントを早急に削除することです。また大体の炎上騒ぎは1カ月もすれば鎮まるため、放置するのもひとつの手段ですが、削除しないでいると、虚偽の情報を含んで拡散していくリスクもある。なので後にデマを流されたときの反論材料として、何を書き込んだかキャプチャー(画像データとしてファイルに保存)してから、削除するといいでしょう。そして指摘が正しく、自分に非があると思ったら、謝るのが鉄則。苦しい言い訳をすると、さらなる反発を買ってますます炎上します。ネット上といえども、普通の人間関係と同じ。すぐ謝ることで収束することも多いんです」(同)
近年の傾向として、炎上したアカウントや発言を削除しても、まとめサイトに掲載され、ネット上に残ることがある。その場合は、まとめサイトの運営会社に理由を伝えて削除請求を行えばよい。炎上に便乗するような業者とは連絡がつかないイメージがあるが、問い合わせに応じるオンラインフォームなどが用意されているサイトは意外に多い。
SNSは、多様な価値観の人が行き交う公共の広場で会話しているようなもので、多くの人が聞き耳を立てている。日常の人間関係と同じ意識を持ち、節度を大事にしよう。
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いつ燃え上がるかわからない、一般人の炎上事件簿!
▼2011年8月:フォロー数少なくて油断?製薬会社の社員がフォロワー30人のツイッターで、「同僚が飲み会で睡眠薬を他人の酒に入れている」と告白。プロフィールの「26歳女子。某製薬会社の医薬情報担当者」から本人がすぐ特定され、会社が謝罪する事態に。
▼2014年11月:不謹慎すぎて問題に
外食チェーンのアルバイト店員が書いた、「中国人女性店員に『お前の背脂でラーメン作るぞ!』と言ったら遅刻しなくなった」という内容の黒板の画像が、SNSによって拡散。店舗のみならず、本部にも苦情が殺到した。
▼2015年2月:税務情報がダダ漏れ
資産税課に勤務する市の職員が、固定資産税の申告書を処理中、机上の菓子を撮影し、「お腹がぐるぐるなってますわ」と投稿。その画像に書類が写り込んでしまい、税務情報が漏洩。市は謝罪した。
▼2015年6月:娘が個人情報を垂れ流し
銀行員の親から聞いた芸能人の個人情報を、娘が「××さんの免許証顔写真のコピーをとってきた笑」「落ち着きのない様子だった」など、実名でツイート。炎上後、銀行の情報管理体制が問題視され、株主総会でも対応を問われた。
▼2015年11月:他人を罵倒し、退職
地方紙の報道部長が、匿名で「はよ、弁護士の仕事やめろ。プロのハゲとして生きろ」「おまえの赤ん坊を、豚のエサにしてやる!」など、他人を侮辱するツイートを連発。素性が特定されて、半年後、同社を退職した。
▼2017年3月:反発を呼ぶ上から目線
IT企業の社長が「採用面接では自分のツイッターを読んでいるか聞く。読んでいない人材は非常識だから不採用」という趣旨のツイートを投稿。その考えこそ非常識だと受け止められ、批判が集まった。
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弁護士
法律事務所アルシエン共同代表パートナー。2007年弁護士登録。10年11月法律事務所アルシエンを開設。インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定といった案件の取り扱い多数。
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(プレジデントウーマン編集部 岩辺 みどり 写真=iStock.com)