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もくじ

ー 実力に疑いなし 価格が問題
ー 初代ゴルフGTI再び?
ー 活気ある3気筒 両者ともステアリングには不満
ー どちらを買うべきか?
ー 番外編 英価格5000ポンド(76万円)以下のお手頃中古ホットハッチ5選

実力に疑いなし 価格が問題

スズキ・スイフト・スポーツの実力を疑ったことなど一度としてない。このクルマの存在意義は、洗練のパッケージに必要十分なパフォーマンスを詰め込んで、それを魅力的な価格で提供することにあった。

先代スイフト・スポーツは、1.6ℓ自然吸気エンジンから125psを発揮するにすぎず、304ps以上のパワーを誇る四輪駆動の強力なホットハッチに挑むのは、銃撃戦にナイフで立ち向かうどころではなく、まるで卵の泡だて器でキャノン砲に挑戦するようなものだった。

しかし、相応しい道で、そのどこまでも回る4気筒エンジンを武器にダビデのごとく立ち向かえば、ゴリアテのようなホットハッチたちを沈黙させることができた。

パワー不足をその俊敏さでカバーするこのモデルは、クラスを越えたわれわれお気に入りの1台として、ホットハッチ好きへの道を若いエンスージァストたちに提供してきたのだ。

しかし、時の流れには逆らえない。より厳しさを増す排出ガス規制に対して、スズキも他メーカー同様、対応せざるをえなくなったのだ。これが、3代目となるスイフト・スポーツが1.4ℓターボエンジンを積む理由である。このブースタージェットエンジンが、より大型のビターラ(日本名=エスクード)やS-クロスにも積まれていると聞けばがっかりするかも知れない。

それでも、スイフト・スポーツでは出力を140psと23.5kg-mへと向上させており、さらにこのクルマはより軽量でもある。スイフト・スポーツでは、グラム単位の重量削減を続けることで、モデルチェンジごとに重くなっていく業界トレンドに背を向けているのだ。


一方で、英国価格は急激に肥大化してしまっている。スイフト・スポーツが掲げるプライスタグは1万7999ポンド(272万円)と、もはやフォード・フィエスタSTと同じ価格帯であり、これではまるでライバルモデルがひしめき合う市場へ、空手で飛び込むようなものだ。この価格設定がいかに野心的だと思われているかは、スズキUKが1500ポンド(22万6500円)のスペシャルディスカウントを今月末まで行っていることが表している。

もちろん、この価格でどれほどの満足をドライバーが味わえるかを指摘することはできるし、それは事実でもあるが、一方で、この価格が、これまでスイフト・スポーツに与えられてきた最高にバリュー・フォー・マネーなモデルという評価を、実力不足のライバルモデルたちのなかに埋もれさせてしまうことにもなる。実際、142ps以下のパワーをもつ手ごろなホットハッチで、他に最高の1台を探そうと思えば、それほど手間はかからない。

そしてその1台は、生粋のホットハッチ好きならば、見過ごすことのできない3文字を、その可愛いリアハッチに掲げているのだ。その文字とはつまりGTIである。

初代ゴルフGTI再び?

ヴォルフスブルクが、最小モデルのアップにGTIを設定すると発表した際の反応は様々だった。好意的な意見では、その軽さと、小柄なボディ、さらには引き上げられたパワーを組み合わせたアップGTIを、初代ゴルフGTIの精神を受け継ぐものとして歓迎した。一方で、アップGTIのスペック表から、このクルマは、初代ゴルフGTIへの郷愁を利用しようとするマーケティングの産物だと断じて、快く思わないものもいた。

いずれにせよ、アップGTIは登場とともに、かつてスイフト・スポーツの指定席だった場所へと巧みに滑り込んできた。では、このベイビー・フォルクスワーゲンが、このクラス最高の1台なのだろうか? それとも、最新のスイフト・スポーツが依然としてその地位を守っており、残りの記事をさっさと読み終えて、1500ポンドのスペシャルディスカウントが終了する前に、急いでスズキのディーラーへ電話をするべきだろうか?

アップGTIのスペックを見れば、まったく勝ち目などないと思うかも知れない。このクルマが積む999cc 3気筒エンジンのパワーは115psに過ぎず、トルクはスイフト・スポーツの23.5kg-mに対して、わずか20.3kg-mだ。さらに、スイフト・スポーツの車重が975kgに留まる一方、アップはやや太めともいえる1070kgにも達する。


スペックのうえではスズキの完勝である。しかし、このクラスでは、スペック上での比較などそれほどあてにならないのもまた事実なのだ。より重要なのは、そのスペックをどうやって走りに活かすかである。

スズキのスポーツシートに腰を下ろすと、そのドライビング・ポジションが、このクルマがもつスポーツ性を主張してくる。シートのホールド性は十分で、ペダル間隔も、ヒール&トウに適したものだ。対照的に、アップのキャビンはそれほど印象的なものではなく、ベースモデルのシティカーとほとんど変わらない。

明るいチェック柄のスポーツシートは、比較的フラットかつワイドで、スイフトのシートとはまったく異なる仕立てだ。快適ではあるものの、高速コーナーなどで期待されるホールド性を発揮するとは思えない。

ペダル間隔は十分確保されているが、位置が高過ぎるために、足首の角度を適切に保とうとすると、必然的にエンジン回転数が上がりすぎてしまう。

活気ある3気筒 両者ともステアリングには不満

こういった点でも、スイフトのほうが優れていると言えるが、アップの3気筒エンジンに火を入れると、このクルマの評価が俄然高まってくる。

決してそのサウンドでドライバーを魅了するようなエンジンではないが、個性的で、他の多くの3気筒同様活気に溢れ、キャビンに響き渡るリズムが、アップをまるでフィールドを駆け回る俊敏なラグビー選手のように感じさせる。アップは確かに小柄だが、だからといって、大柄な連中とのけんか騒ぎで引けを取るようなモデルではないのだ。

小排気量にもかかわらず、このエンジンは非常に力強くもある。20.3kg-mのトルクは、ターボチャージャーによってわずか2000rpmから発揮され、加速力は十分だ。0-100km/h加速は8.8秒、最高速度は196km/hとされている。もちろん最速のモデルなどではないが、アップの小さなボディが、このクルマの美点のひとつともいえる実際以上のスピードを感じさせてくれる。どんなスピードで走っても、アップを退屈に思うことなどない。

一方のスイフトだが、そのエンジンははるかに大人びて、活気あふれるホットハッチ用の4気筒というよりも、まるで、もくもくと仕事をこなす業務用機器のように感じられる。サウンドはつまらないが、それでも間違いなくスイフトの方がアップよりも速い。さらに、ピークトルクを発生させるには2500rpm以上の回転を維持する必要があるため、正確だが、これもあまり印象に残らない6速マニュアルギアボックスを頻繁に操作する必要がある。


コーナーでは、両モデルとも、その車高の高さと、比較的長いボディを苦にしているように感じられる。高速コーナーでは、その高い重心位置がそれなりのロールを誘い、アウト側ホイールにボディが沈み込む。とは言え、どちらも特にコントロールが難しかったり、グリップが不足している訳ではない。優れたシャシーのコントロール性と反応によって、制限速度以内であれば、両者とも十分運転を楽しむことができる。

コーナーを攻め込むときの陽気なキャラクターとは裏腹に、ステアリングはどちらも褒められたものではない。スイフトの場合、フィールに乏しく、その重みも人工的なものであり、アップの方が重みはより自然だが、スイフト同様、フロントタイヤからの情報はまったく伝わってこない。

どちらを買うべきか?

パッケージについても触れておくべきだろう。スイフトの方がボディが大きいために、より広いリアスペースとトランク容量を確保している。しかし、だからといって、アップが全く窮屈なモデルだという訳ではない。短時間であれば、リアシートで大人ふたりがそれなりに快適に過ごすことは可能であり、その251ℓのトランク容量も、スイフトに比べわずか14ℓ少ないだけだ。

では、どちらを選ぶべきだろう? 今回明らかとなったのは、スイフトの方が速いが、アップほどの活気と情熱はなく、スイフトのホットハッチらしい優れたドライビング・ポジションに、フォルクスワーゲンはその3気筒エンジンの魅力的なサウンドで対抗しており、両者ともにコーナーで光り輝くモデルだが、どちらもステアリングのフィールに問題を抱えているということだ。

問題は価格だ。新型スイフトは、初代と2代目を軽量級のチャンピオンにしていたものを取り戻さなければならない。手ごろなホットハッチの公式に、価格の要素が入っているなら、スズキのために早くその答えを見つけ出す必要があるのだ。


一方、フォルクスワーゲンがアップGTIに付けた価格は、1万3750ポンド(208万円)に過ぎない。さらに、スイフトに、それなりのインフォテインメント・システム(アップの場合は5.0インチスクリーンとスマートフォン接続となる)とアダプティブ・クルーズコントロールを装備するには、4249ポンド(64万2000円)が追加で必要になるが、アップほど個性的でもなく、楽しめる訳でもないクルマに支払う金額としては、納得するのが難しいだろう。

つまり、スズキにとってはどちらを買うべきか?になった。ダビデは、ゴリアテのようになってしまったがために、この小さく、安価で、より楽しめるアップGTIに追い抜かれてしまったのだ。

番外編 英価格5000ポンド(76万円)以下のお手頃中古ホットハッチ5選

新車でなくても構わない? 今回の2台に比べれば数分の一の値段で手に入れることができる素敵なホットハッチたちをご紹介しよう。

ルノー・クリオRS182 トロフィー


ルノースポール製クリオ究極のモデルである。インテリアの古さは隠しきれないが、より新しいホットハッチのほとんどが太刀打ちできない素晴らしいフィールをもったモデルだ。いま購入して値上がりを待とう。

スズキ・スイフト・スポーツ


典型的なシンプルさが魅力のホットハッチである先代スイフト・スポーツは、お手頃な値段で手に入れることができ、いつでも笑顔になれるモデルだ。装備も充実しており、故障も少ない。

ミニ・クーパーS


第2世代のクーパーSは登場からそれほど時間が経っていないにもかかわらず、驚くほどお手頃な価格で手に入れることができる。当時最高のホットハッチの1台であり、アクセルでコントロール可能な鍛え上げられたシャシーと、パンチのあるエンジンが魅力のモデルだ。

アバルト500


初めて登場したホットな500は、個性的で、騒々しく、いまにも走り出しそうな俊足モデルだった。その小粋なインテリアは、プラスティックに囲まれた現代の他のクルマとは一線を画している。これほど楽しそうな雰囲気をもつホットハッチは他にない。

ヴォクゾール・コルサVXR


コルサVXRは、古き良きボーイズレーサーの雰囲気が特徴的なモデルであり、今回の予算で選べるホットハッチで、最も洗練された1台などでは決してない。しかし、その見た目どおり、派手で速いクルマであることに疑いはなく、さらに、非常に安く手に入れることができる。