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もくじ

ー 収益性と市場 規制への対応がカギ
ー FCAの将来 イタリアン・プレミアムブランド
ー FとCの存在感は薄く 企業価値は10倍以上に
ー 番外編1:アルファ・ロメオの公約と実績
ー 番外編2:ジープの公約と実績
ー 番外編3:マセラティの公約と実績
ー 番外編4:フィアットの公約と実績
ー 番外編5:ラムの公約と実績
ー 番外編6:フィアット・クライスラー・オートモービルズの公約と実績

収益性と市場 規制への対応がカギ

マセラティのEVモデルや、アルファ・ロメオのスーパーカー、ジープの急速なラインナップ拡大と、80億ポンド(1兆2080億円)もの資金を投じての電動化と自動運転モデルへの対応が、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)にとって今後5年間の主要なテーマとなる。

一方、フィアット、クライスラーとダッジに関しては、控えめともいえる内容だが、それでも、フィアットからは500のEVバージョンが登場する。

なぜFCAがジープ、アルファ・ロメオ、マセラティとラムの各ブランドに力を注いでいるのかを理解するには、それぞれの収益性と市場、さらに、将来的な規制の数々を把握しておく必要がある。

この4つのブランドだけで、FCAの収益の65%を稼ぎ出しており、2022年までにこの比率は80%に達する見込みだ。4つのうち、3つのブランドはグローバルに展開しており、さらに3つはプレミアムブランドである。つまり、その潜在的な利益率で、将来の規制対応コストを十分カバーできるということだ。

CO2排出量削減と、ピュアEVモデルの開発が、こうした規制への対応で最もコストの掛かる作業となる。さらに、自動運転(FCAの最高技術責任者であるハラルド・ヴェスターによれば、この技術には現時点で1台あたり2万2000ポンド(332万円)のコストがかかるとのことだ)と、ますます広がるコネクティビティへの対応も必要だ。


過去10年で最も劇的な市場の変化は、急激なSUVとクロスオーバーモデルへのシフトであり、このトレンドにのって、ジープは数十万台規模だった販売を190万台へと伸ばすことに成功した。

ジープと、ラム・ブランドのピックアップトラックの伸長によって、FCAは長く苦しんできた負債を解消することができた。2009年にダッジの独立ブランドとなったラムも、主要な稼ぎ頭であり、フィアットの商用車ブランドであるフィアット・プロフェッショナルとの関係を深めている。このふたつのブランドを併せれば、商用車部門世界第2位の規模となる。

FCAの将来 イタリアン・プレミアムブランド

ジープ、ラムとフィアット・プロフェッショナルに比べれば、アルファ・ロメオとマセラティは小さな存在かもしれないが、FCAではこのふたつのイタリアン・プレミアムブランドを、彼らの自動車生産の未来と位置付けている

アルファ・ロメオの年間販売台数目標は、前回計画で未達だった40万台としており、FCAのマルキオンネCEO自身、ジュリアとステルヴィオの素晴らしい仕上がりにもかかわらず、以前の計画が上手くいかなかったことを認めている。この目標達成のカギは、ステルヴィオのラインナップ前後を埋めるSUVモデル、新型GTVと、スーパーカーの8Cが握っている。

ギブリとレヴァンテの登場によって売り上げが伸びたとはいえ、販売が頭打ちとなっているマセラティでは、テスラとポルシェに対抗すべく準備が進められている。


新たに登場するプラグインハイブリッドとピュアEVモデルのアルフィエーリ・クーペとカブリオレは、次期クアトロポルテとレヴァンテとともに、「ブルー」と名付けられたピュアEVモデル向けサブブランドの先陣を切ることになる。

さらに、2020年までに、おそらくステルヴィオをベースにするであろうマセラティ製小型SUV、ギブリのビッグマイナーチェンジ版、8つのプラグインハイブリッドモデルの登場と、さらに全車種へのレベル3自動運転機能の搭載を計画している。

同年までの世界販売台数10万台と利益率15%の達成が目標となる。

FとCの存在感は薄く 企業価値は10倍以上に

FCAのなかで、FとCの頭文字をもつふたつのブランドがもはや主要ブランドでないとはどうしたことだろう。ダッジ同様、フィアットとクライスラーについても、グループの投資家向け会合で言及がなかったことで、その将来に多くが疑問をもつこととなった。

FCAは、グローバルブランドに重きを置いていたからだと説明している。フィアットは欧州と南米市場に注力し、クライスラーとダッジは北米専業ブランドなのだ。

500と、そのエステートバージョンである500ジャルディニエラのEVモデルは、500のプレミアムな価格設定によって、電動化技術のコストをカバーできるとして、欧州市場向けに発売が計画されている。さらに、フィアットからは南米市場向けに新たなクロスオーバーモデルも登場する予定だ。

クライスラーは基本的にMPVとライドシェア向け車両に注力することになる。自動運転システム開発会社であるウェイモに対して、MPVモデルのパシフィカを6万2000台新たに供給するのが、その手始めだ。

2週間前に公表されたこの計画は、2004年、倒産の危機にあったフィアット総帥に就任したマルキオンネが指揮する最後の5カ年計画となる。

2009年にはクライスラーを買収し、フェラーリの上場資金でグループの存続を確かなものとしたことで、FCAの企業価値は2004年の50億ドル(37億3000万ポンド/5500億円)から、現在では700億ドル(523億ポンド/7兆7000億円)に達している。

番外編:アルファ・ロメオの公約と実績

前回5カ年計画とその実績、さらに今回の新5カ年計画の中味を見ておこう。

2014年当時の公約

・7つの新型モデル(CセグメントSUV、DセグメントSUV、スポーツサルーン、エグゼクティブサルーン、新型ジュリエッタとその派生モデル、スペシャリティモデル含む)
・米国と中国市場進出
・2018年までの世界販売台数40万台達成

実績


・ジュリアとステルヴィオの新型2モデル
・米国と中国市場進出
・2017年の世界販売台数10万9000台

2018の新たな公約

・7つの新型モデル(CセグメントSUV、EセグメントSUV、GTVと8Cに加え、ジュリエッタ、ジュリアとステルヴィオの改良モデル)
・6つのプラグインハイブリッドモデル
・ピュアEVのモデルラインナップ
・レベル2とレベル3の自動運転実用化
・平均モデルライフ3年以下の達成
・ふたつの地域限定モデル(中国向けロングホイールベース版ジュリアとステルヴィオ)
・2022年までの年間販売台数40万台と利益率10%の達成

ジープの公約と実績

2014年当時の公約

・2018年までの190万台生産達成(73万2000台からのスタート)
・小型SUV発売
・3列シートモデル発売
・1カ国4工場体制を6カ国10工場体制へ

実績

・生産台数190万台達成
・年間販売台数185万台から190万台
・レネゲード発売
・3列シートモデルの発売は2020年に延期
・6カ国10工場体制構築

2018の新たな公約

・毎年ふたつの新型モデル発売
・新たに3つのセグメントへ進出(BセグメントSUV、ワゴニア/グランドワゴニアと、1tトラック)
・2022年までに10のプラグインモデル
・2022年までに4つのEVモデル
・すべてのモデルに電動化オプションを設定
・2021年までにレベル3の自動運転実用化
・2022年までに世界市場でのSUV販売の12台に1台をジープブランドに

番外編3:マセラティの公約と実績

2014年当時の公約

・2018年までに4つの新型モデル(レヴァンテ、アルフィエーリ・クーペ/カブリオレと新型グランツーリスモ)
・2018年までに世界販売台数を5倍の7万5000台に
・利益率を1.7%から6%へ改善

実績


・レヴァンテ発売
・世界販売台数4万6000台

2018の新たな公約

・6つの新型モデル(DセグメントSUV、アルフィエーリ・クーペ/カブリオレ、新型レヴァンテ、クアトロポルテとギブリ)
・ピュアEVのモデルラインナップ
・サブブランドの「ブルー」から4つのEVモデル(アルフィエーリ・クーペ/カブリオレ、クアトロポルテとレヴァンテ)
・8つのプラグインハイブリッドモデル(全車種に)
・レベル3自動運転の実用化
・2022年までの年間販売台数10万台と利益率15%の達成

番外編4:フィアットの公約と実績

2014年当時の公約

・500X
・スペシャリティモデル
・Cセグメントのハッチバックとエステートモデル
・新型パンダ
・世界販売台数130万台から190万台への引き上げ
・欧州販売台数70万台の維持

実績

・500X
・124スパイダー
・ティーポ・ハッチバックとエステート
・欧州販売台数78万台
・世界販売台数160万台

2018の新たな公約

・500 EVモデル
・500ジャルディニエラEV
・新型パンダ
・欧州市場からのプント、ティーポ撤退
・500Xと500Lの販売継続
・販売目標設定なし

番外編5:ラムの公約と実績

2014年当時の公約

・バンのディーゼルモデル2車種を発売
・全現行モデルの改良
・2018年までに年間販売台数46万3000台から62万台へ引き上げ

実績

・バンのディーゼルモデル発売
・モデル改良実施
・2016年には62万台を販売して、計画を2年前倒しで達成

2018の新たな公約

・新型1tピックアップモデル
・フォードF-150 ラプターに対抗すべく、ラム1500にTRXバージョン設定
・2022年までに販売台数100万台を達成し、商用車ブランド第3位から第2位へ

番外編6:フィアット・クライスラー・オートモービルズの公約と実績

2014年当時の公約

・2018年までに販売台数700万台達成(2013年実績は440万台)
・2018年までに純利益を7億9250万ポンド(1197億円)から44億ポンド(6644億円)へ引き上げ
・2018年までに純負債88億ポンド(1兆3288億円)を処理

実績

・2017年の純利益53億ポンド(8003億円)
・6月末までに純負債の処理完了見込み

2018の新たな公約

・2022年までに電動化に79億ポンド(1兆1929億円)を投資
・2022年までに純利益114億ポンド〜140億ポンド(1兆7214億円〜2兆1140億円)達成
・パートナー企業との協業のもと、2021年までにレベル3の自動運転実用化
・2021年までにFCAの新コネクティビティ・プラットフォーム開発
・2021年までにディーゼルモデル廃止

注釈:
・レベル2自動運転:ドライバーはハンドルから手を放すことはできるが、周囲への注意は必要。システムがステアリング操作、加減速と、車線変更を行う。
・レベル3自動運転:ドライバーはハンドルから手を放すことができるとともに、周囲への注意も不要。システム故障時には自動で道路上から退避。システムがステアリング操作、加減速と、車線変更を行う。