ロックバンド「GLAY」のTAKURO氏が公式アプリを立ち上げた思いを語った(撮影:今井康一)

来年25周年を迎えるGLAYが公式アプリをリリースした

2019年、デビュー25周年を迎えるGLAY。この2018年2月に公式アプリをスタートした。月額980円でデビューから現在までの約400を超える楽曲や映像、電子書籍などを自由に楽しめるほか、電子チケットサービスなども今後整えていく予定だ。

GLAYと言えば、音楽や芸能に関心のない人でも必ず知っている、聴いたことがあるという超有名アーティストだ。

ただ、アーティストのアプリや、定額制で音楽をダウンロードできるサービスは世の中にあふれている。GLAYが同様のアプリをリリースした、というニュースを聞いても、目新しさを感じないというのが正直なところだ。
では、GLAYはなぜこのたび、アプリという媒体をあえて選んだのだろうか。ちょうどデビュー24周年の記念日である5月25日にインタビューの機会を得ることができた。思いの強さをそのまま言葉にしたように、インタビュー時間いっぱい、たっぷりと語ってくれた。


TAKURO氏はギタリストであり、GLAYの所属事務所ラバーソウルの社長でもある(撮影:今井康一)

「今回のアプリのリリースは、2004年から僕たちが考えてきたことが源流となっています。ちょうどデビューして10年、自分たちがやってきたことって何だろうと振り返ると、個性的で、GLAYにしか当てはまらないことをしてきたと思います。ただいっぽうで世の中の変化を見ていると、アップル、アマゾンなど、音楽と関係のない企業が音楽を配信したり、販売したりするようになった。つまり、これまでのように、アーティストが単にコンテンツであり続けるということは、危険なんじゃないだろうか、と。これからのGLAYのやり方を考えたときに、自分たちがコンテンツホルダーになって、権利を含めて持ちたいと思ったんです」(TAKURO氏)

そこでGLAYは2005年に事務所から独立、2006年にGLAYの楽曲原盤権や映像原版、ファンクラブ運営の権利など、あらゆるGLAYにかかわる権利を前所属事務所から買い取った。なお著作権の仕組みを簡単に説明しておくと、アーティスト自身が作詞作曲した楽曲には「著作権」が発生する。これは、自分のつくったものに対する権利だ。他者が勝手に使うと、著作権の侵害になる。

いっぽうで楽曲を録音しCDなどにして販売する権利は、「原盤権」といって、楽曲を録音した事務所やレコード会社に属する。著作者と言えども、そのCDを勝手にコピーしたり、売ったりすることはできない。

つまり、たとえばアーティストが「ファンサービスのために、これまでに出したシングルをタダで聴けるようにしたい」と希望しても、原盤権を持つ会社が「もっとおカネを儲けたい」と考えていれば、両者の利益は合致せず、アーティストの希望はかなえられない可能性が高い。

「権利を自分たちで持つことで、レコード会社など世の中の事情によって左右されず、もっとGLAYらしい、“ファンファースト”な活動ができると考えました」

GLAYだからできるファンとの交流

GLAYではファンから寄せられる声を、実際に検討するという。SNSなどでメンバーと直接コンタクトしているファンにとってはおなじみのことなのだそうだ。


アプリのトップページ。フリックすると写真が現れる。表示の写真は2枚目(画像:GLAY公式アプリより)

「たとえばTERUなんかは、Twitterでファンから『半年後に結婚するのでGLAYの歌を結婚式で使いたい』というコメントがあったので、自分だけで楽しんでね、ということで、発売前の曲を結婚式で使えるようにしていました。こういうことができるのは、ファンなんだから信じられる、という思いがベースになっているからです。結婚式で使いたいなんて、GLAYの大ファンに決まってますよね。僕たちはファンによくしてもらって、支えてもらって今があるので……」(TAKURO氏)

プロのバンドではまずあり得ない、驚くようなエピソードだ。そのCDをコピーして高値で売るなど、悪用されるのでは……と誰もが危惧するだろう。信頼と善意に基づいた行為であり、楽曲の権利を自分たちで持っているからこそ、GLAYらしい行動ができる、という究極の裏付けでもある。

「2000年頃、音楽のデジタル化技術が確立されると、音楽業界は猛反発しました。CDが売れなくなると。実際2003年にiTunesが誕生して、『将来、音楽は無料になる』と言われましたが、今その言葉どおりになっています。YouTubeなどを活用し、誰もが音楽を聴けるし、発信してスターになることもできる時代です。東京にいながら、ブラジルに住む友達とセッションもできる。地球規模ではいいことしか起きないんです。音楽業界は後ろ向きすぎる。ただ反面、野放しにしておくとアーティストの権利がおろそかになってしまうので、しっかり考える必要があります」(TAKURO氏)

アマゾンが定着させたネット通販の方式を取り入れ、2011年に立ち上げた公式ECサイト“G-DIRECT”も、自ら権利を有しているからこそ実現したと言えるだろう。このサイトでは、グッズやCDが購入できるほか、楽曲もダウンロードできる。

「正直、原盤権を取得したときは一文無しになりましたが、だからこそ“自分たちの価値は自分たちで上げる”ということがはっきりした。自分たちががんばれば価値が上がって、おカネも入ってくる。がんばらなければその逆になる」(TAKURO氏)

アプリは目標をかなえる究極の形

アプリは「GLAYがコンテンツホルダーとなる」という目標をかなえる究極の形だという。


シングルやアルバムなど、デビューから現在までの約400曲が聞ける(画像:GLAY公式アプリより)

「コミュニケーションツールとしては、公式サイトやファンクラブ、SNSなどもそれぞれありますが、アプリはいわば、GLAYの顔だと言うことができます。僕たちから発信するのはもちろん、事務所などを通さずにファンの意見がダイレクトに伝わってきて、活動に反映させることができます。しかも、すべて一本化しているから、めちゃめちゃ早いんです。また、一本化することでサービス向上、コスト削減による低価格化などのメリットも考えられます」(TAKURO氏)

月額980円で過去の楽曲、今後発売されるシングルやアルバム、動画、出版物が視聴できるほか、電子チケットも検討中だという。価値に見合っていると考えるかは、ファン次第だ。
気になるのが、言うなれば“すみ分け”の問題だ。GLAYの楽曲は、一般の音楽サブスクリプションサービスでももちろん配信されている。反対に、コアなファンへのサービスとどのようにすみ分けていくか。つまり、ファンクラブや既存の公式モバイル会員など、チケット予約などの点で優先権を得ているファンなどだ。

「選択肢のひとつにしてもらえればいいと思っています。音楽全般が好きな人に対しては、広くカバーする音楽配信サービスでいい。そうしたサービスではあるアーティストに対してたとえばアルバム20枚分しかカバーしていません。アプリはコアなファン向け。ただし、新しいファンと昔からのファンと、両方に納得してもらえる必要があります。僕が目指しているのは、老舗の饅頭屋のような存在なんです。常連が新しいお客さんを連れてくるような……。

たとえば新しくファンになってくれた人が昔の曲を聴きたいと思ったとき、アプリはすごくいい入り口。20年前のシングルとか、今は売っていませんから。一方で、古くからのファンから、アプリの感想としてよく聞くのが『実家に取りに行く手間が省けた』(笑)。倉庫に仕舞われたり、ケースを開けてみると中身がなかった、とかね。」(TAKURO氏)


動画は、ミュージックビデオやライブ映像、特典映像などが見られる。内容は定期的に入れ替えるという(画像:GLAY公式アプリより)

「それから、GLAYと一緒に年を重ねて、人生の変化を経験してきた人たち。結婚して子どもが生まれて、音楽どころじゃなくなったけど、育児が落ち着いたときに、手間をかけずファンに戻れる」(TAKURO氏)

そのほか、ユーザーやファンの声を取り入れながら、これまでになかったような新しいサービスも展開していきたいという。これらはみんな、メンバーが発案するそうだ。

「次々に新しいアイデアを出すのはTERUですね。たとえば7月からスタートするサービスは、ポケモンGOみたいに、あるスポットに行くとメンバーからのコメントがスマホに表示される、というものです。8月の函館のライブでもこれを利用して地域活性化につなげようと、函館と話し合いながら進めています。たとえば僕らが練習していたスタジオに行くと、メンバーの顔とコメントが出てきたり。新しい観光スポットがつくれれば面白いですよね」(TAKURO氏)

地元である函館では2013年に続き、2度目の野外ライブを8月25、26日に開催する。前回は新幹線開通前にもかかわらず5万人が集まったそうだが、今回も5万人を超える動員を予定。これに合わせ、日本各地からのオフィシャルアクセスツアーも企画しているという。

四半世紀のGLAYとしての展望

最後に、2019年の25周年を含め、新たにスタートする四半世紀のGLAYとしての展望を聞いた。

「まず来年は、これまで支えてもらったことへの恩返しとして、できるだけ多くいろいろなところへ足を運んでライブを行いたい。アジア圏まで足を伸ばしてね。振り返ってみるとデビュー後の5〜10年は、ライブはヒット曲を中心に構成されていたけれど、今は関係ないと感じます。盛り上がる曲をやっても、静かな曲をやっても、あまり変わらない。デビューからファンの人も、途中でファンになった人も一緒に歩いてきた。メンバーの心臓の音を聴きに来ているんじゃないか、という人もいますよね。そうしたすべてのファンと一緒に、すばらしい音楽体験をしたいと思います。

健康診断の結果によれば(笑)、次の25年も大丈夫そうです。ローリングストーンズのようなバンドになれればいいですね。70歳過ぎているんだけども、ライブに行くと『やっぱりストーンズはいいな』と。仲がいいんですよね。その姿を見るとみんな幸せになる。ギスギスした雰囲気のなかでつくられる音楽はやっぱり、そういうメッセージをファンに伝えてしまうと思う。僕たちはそんな心配はなくて、もし解散するとしたら、音楽性の相違とかではなくて“笑いのツボ”が原因ですよ(笑)。それぐらいいつも、仲間にだけ通じるギャグで爆笑しています。TERUなんて、12歳の頃からずっと変わらず面白いヤツですから」(TAKURO氏)

TAKURO氏自らが目指してきた理想も含め、“古き良きロック像”を追い求めるだけでは、ミュージシャンとして輝き続けることはできないと感じているそうだ。音楽面でリーダーシップを発揮することだけでなく、今後は“ビジネスマン”ともなって、メンバーが音楽を追求できる環境を整えていきたいと語った。アプリには、そうしたTAKURO氏の全力投球の姿勢が表れている。